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2 再婚成立

第2話更新です!

 気を失っていた女勇者はレイティアさんがベッドに寝かせた。

 勇者というものは、やたらと頑丈なのがとりえだし、そのうち回復するだろう。吹き飛ばしただけだから致命傷でもない。


 それからレイティアさんはハーブティーを本当に持ってきた。

「はい、どうぞ~。あっ、毒見とかしないと安心できないかしら」

 くすくすと笑ったのでジョークのようだ。


「いえ、魔王たるもの、毒なんかでは死にはしませんので」

「そうですよね。まだ魔族を悪く言う人もいますけど、魔王さんもお仕事、大変でしょう?」

「ええ……。とくに最近は行政改革とかいろいろあって……。あの……あなたの娘さんを攻撃した男なんですが、そこは気にされないんですか?」


「そこは勇者と魔王ですから~。それに、こうやって紳士的に送り届けてくださいましたし。信用できない人間の男よりよほど頼りになりますわ」

 ああ、魔族だとか人間だとかで差別しない心の持ち主なのだな。


 そこもササヤと似て――――いいや、もう比較はやめよう。

 レイティアさんはレイティアさんだ。

 この人も魅力的だからワシは魅力的に感じているのだ。


「アンジェリカは天使に祝福を受けるようにということで夫と二人でつけた名前なんですけど、夫のほうが病気で死んじゃってね。それで、あの子、余計に強くならなきゃって気持ちが大きくなって、冒険者になるって」

「きっと、娘さんは娘さんで、あなたに苦労をかけさせたくないと思ったんですよ」


 ワシがそう言ったのは、たんなるおべんちゃらではない。ワシも親が苦労しているところを見て育ったからだ。


 父親である先代魔王は、仕事にだけ時間を割いていて、子育ては一貫してワシの母親がやっていた。

 まだ、女は家庭を守っていろという時代だったとはいえ、そこは魔王の妻だ。政務だって、ずいぶんとやらされていた。そんな中でも、文句一つ言わずワシを育ててくれた。


 今では隠居して魔族の土地の奥でのんびりとやっているが、前半生で苦労した分、とことん骨を休めてほしいと思う。


「そうかもしれませんね。やさしい子であるのは間違いないから」

 レイティアさんは娘のことを思うと、ふふふっと笑った。

 今、くちびるの横にほくろがあることに気づいた。なかなか、色っぽい。


「あの、魔王さん、一つ質問してよろしいですか?」

 少しレイティアさんが居住まいを正したので、ワシもびくりとした。

「はい、なんなりと」


「うちの子、勇者として素質はあるのかしら?」

 想像以上に直球の質問ではあった。

 母親ともなれば、そこが一番気になるところではあるな。


「魔王さんのところにたどりつくぐらいだから、そこそこいけているのかもしれないのだけど、魔王さんを見ると元気でぴんぴんしているし……」

「はい、ワシが感じたことを率直に申しますね。それでよいですか?」


「ええ、もちろん。何を言われても怒りません」

「素質は光るものがあるかと思います。彼女なりの個性も感じられます。ですが、荒削りです。基礎が疎かにされていて、センスだけで戦っているようです」


 なんか、昇進人事についての会議の場みたいな発言になっているけど、まあ、いいだろう。魔王は役人のトップでもあるので、そうなってしまうのだ。


「あるところまではセンスだけでも上に行けます。ですが、どこかで頭打ちになります。そこから、さらに伸びていくのは基礎を愚直に学んだ者です。かつての有名な冒険者は大半が練習量からして平均よりはるかに多いようです」


「そうですね。ここが田舎なのもあって、あの子、あまり道場なんかで稽古をつけてもらったりもしていなかったし」

 レイティアさんも思い当たる節があるようだ。


「今回は運よくワシのところまで来ましたが、まだ到達するのがやっとかと思います。ここはじっくりと鍛えなおしていかないと成長も止まってしまうかと」


 我ながら、なんでこんなに真剣に話しているのかと不思議に感じた。

 形だけの言葉じゃない。ワシは誠実に、誠実に接しようとしている。


「実は彼女はワシのところにまで来ましたが、部下の報告によると極力、戦闘を避けて、ほかの幹部とかとも戦わずにワシを倒そうと狙っていたんです」

 たまにそういう短時間で魔王を倒して名をあげようとする者がいるのだ。楽をしたい者か、何かに焦っている者だ。


「このままではいずれ大ケガということもありえます。ここはたしかな基礎を身につけている者から学びなおすべき時です。娘さんにはそう言ってあげてください!」


 ワシは身を乗り出して言った。

 なにせ、あの女勇者アンジェリカはまたワシのところに来るかもしれんのだ。

 そこであやつを殺めるようになるというのは後味が悪い。あまりにも悪すぎる。


 くすくすと、レイティアさんが声をたてて笑った。

「魔王さん、あの子の師匠か何かみたいに話すんですね」

「ああ、お恥ずかしいところをお見せしました……」


 ワシもきまりが悪い。

「こうやって勇者の家でお茶をいただくというのは初めてなもので……」

 レイティアさんのいれてくれたハーブティーに口をつける。魔族の土地の、もっとスパイシーなもののほうが飲み慣れているし自分の好みではあるが、これはこれでおいしい。


「こんなに娘のことを真面目に考えてくれる人と出会ったのは、夫以外だとわたしも初めてです」

 夫以外。

 その言葉がなぜだかワシの胸に刺さった。


 それに端を発したように言葉が胸の底からせりあがってきた。


「それは……ワシが彼女と戦わねばならぬ運命であるからです……。こちらが傷つけられるなら自分のことだから我慢はできますが……………………」


 これより先は言えない。


 ――と、頭の中に、亡き妻ササヤの顔が浮かんだ。


 その亡き妻はふっと微笑んで、こう語りかけてきた。


(あなた、もう私のためだけに生きる必要はないのよ。あなたはまだやり直しがきく年だわ。私ではなく、生きている者を守るために生きて)


 思い出した。

 それは今わの際の妻が最期に語った言葉だった。


 まさか二度とこんな感情を抱くとは思わなかったのだがな……。


「ワシはあの子が傷ついて、レイティアさんが悲しむのはつらいのです……。だから、どうせなら、一生戦わずにすませたいのです…………なので、なので……」


 そして、もう一度身を乗り出して、こう言った。


「レイティアさん、ワシと再婚していただけませんか?」


 レイティアさんがぽかんとしているのがわかった。

 それはそうだ。唐突すぎるし、まして、魔王からの申し出だ。ぽかんとするに決まっている。


 だが、沈黙がおとずれるのは断られることよりも怖いのでワシは言葉を続ける。


「ほら、ほら……そしたらアンジェリカさんはワシの娘ですから、戦うこともなくなりますし……。魔王軍との戦いが中断することには違いがないですから、王国としても平和になっていいかと思いますし……」


 違う。こんなの全部言い訳だ。本心が入っていない。


「ワシはあなたが好きです! 一目惚れしました!」

 このひとを幸せにするために自分の人生を使いたいと思ったのだ。それ以上の理屈をつけることはできない。


 レイティアさんは目をぱちぱちさせていた。

 少しの間、嫌な沈黙が続いた。


 でも、彼女はにっこりと微笑を浮かべてくれた。

 ササヤに似た、否、レイティアさんだけの笑みだった。


「わたしでよろしければ」


「あ、ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」

 ワシはその場で頭を下げた。恥ずかしくて、レイティアさんの顔をじっと見られなかったというのもある。


「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたしますね」

 レイティアさんが手を差し出してきた。


 ワシはその手をぎゅっと握り締めた。

本日中に4話ぐらいまで投稿できればと思います!

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