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18 子供の問題

5000点を突破しました! ありがとうございます!

「子供を作る予定はおありなのかしら?」


 サスティナさんの一言にワシは飲んでいたお茶で少しむせた。

「あらら、やはり人間のお茶はお口に合わないかしらね」

 今のは皮肉か? 少なくともサスティナさん、目が笑っていない。


「子供ってそんないきなり……」

「そうよ、お母さん、ガルトーさんもびっくりしちゃってるでしょう」


「レイティア、あなたはちょっとばかし呑気すぎるところがあるのよ」

 逆にレイティアさんのほうが注意されてしまった。


 ワシらは攻められている……。

 しかも相当きつめに攻められている……。


「考えてみなさい。昔からの夫婦というならいざ知らず、今、再婚したての二人なのよ。そういう営みだって当然ありうるでしょう?」

 あるけど、ぶっちゃけすぎだ!


 げほげほっとむせる声が聞こえた。これはワシじゃないぞ。

 ワシの隣の隣、つまりレイティアさんの隣に座ってるアンジェリカがむせていた。

 だよな……。年頃の娘にとったら、相当にパンチの利いた内容だよな……。ワシでもそれぐらいはわかる。劇薬みたいな話だ……。


「その様子だと、まだ何もしてないようね。そうか。アンジェリカもいるから、憚られるという面もあるわね」

 本当にこのサスティナという人、言いたい放題だな……。防御力無視で攻撃のみに特化した戦士みたいなトークをかましてくる。


「レイティアもよく聞きなさい。こういうことはね、早いうちにしっかり確認しておいたほうがいいのよ。言いづらい内容だからこそよ」

 とはいえ、言いづらいにもほどがあるのではないか。こっちのライフは大幅に削られている……。


 アンジェリカがこっちに視線を送ってきていた。

 なんだ、その悪人を見るような目は。別にワシは魔王だけど犯罪者じゃないぞ。


「これが子供がいないのなら、何も気にすることもないわ。好きなように二人で愛し合ってくれたらいい。レイティアもいい大人なんだし、それぐらいのこと自分でどうとでもできるでしょ。けど、今回は状況が違うの」

  もはや、サスティナさんの独壇場になっている。ワシ、自分が魔王ということも忘れそうになってきた。むしろ、相手のほうが魔王なのでは?


「子供ができたら、アンジェリカの立場も微妙になるかもしれないでしょ。魔王さんにとったら実の子と前の夫の子。接し方が違ってもしょうがないわ」

 なるほど……。それは、たしかに気になるところだ……。


「まして魔王と勇者よ。不倶戴天の敵といってもいい関係。むしろ、それで争わずにいられるほうがおかしいわ」

 そういや、魔王と勇者の関係だった。なんか、最近あまり考えなくなってたんだよなあ。それだけワシは新しい生活になじんできたというのもあるかもしれんが。


「それなら、大丈夫よ~。だって、ガルトーさんはいい人だもの。扱いを変えるだなんてことはしないわ~」

 レイティアさん、信頼してくれるのはうれしいですが、さすがに軽すぎます!

 お母さんを説得するにはもう少し言葉がいるかと……。


「あのね、レイティア。アンジェリカも思春期なんだよ。自分の母親と再婚相手が夜な夜な何かしてると思ったら落ち着かないでしょ! 私ならグレるよ!」

 今度はワシとアンジェリカの二人が同時にむせた。


 どこまでも攻撃一辺倒の人だ……。

 ワシらはボロボロと言っていい……。


 だが、ワシらがボロボロになるということは、その話が実に重いものだということでもある。

 ワシはアンジェリカに受け入れてもらえるような努力はしていた。

 最初の頃と比べればアンジェリカも少しはワシを受け入れてくれている気もする。


 しかし、それはお互いに本当に危うい話題には触れなかったからこそ実現していたものかもしれん。

 子供をどうするということになったら話だって変わってくる。


「アンジェリカは私にとっての孫だよ。その孫の幸せに直結する事柄だから妥協はできないのさ。しっかりとここで決めてほしいんだ」

 このサスティナって人、過去に勇者だったりしないのか? 一歩も退かない。


 けれど、孫のことともなれば、黙ってはいられないか。

 さっきからお父さんのバインディさんのほうは何も語らないが、どっちが切り出すかも夫婦で事前に申し合わせていたのだろう。


 ここはワシもよほどの決意に満ちた言葉を使わないとダメだ。敵は手ごわい。


 だが、ワシが口を開く前に――

「おばあちゃん、心配しないで」

 先にアンジェリカが立ち上がっていた。


 みんなの視線がアンジェリカに集まる。


「この魔王はそういうところはマメっていうか、適当にできない性格だから。マメってい

うか、基本的に気が小さいの。勇者として観察してきてよくわかった」

 こいつもやっぱり言いたいこと言うな。隔世遺伝か?


「ぎくしゃくはしてるけど、私と仲良くしようって意識だけは感じる」

 その言葉はどこかほんのりと温かかった。


「仮に私に弟か妹ができても、むしろ、この魔王は公平になるようにやたらと気をもむタイプだから。ないがしろにするとかできないから。あとさ、私の弟か妹ってことは勇者の弟か妹だしさ」


 アンジェリカは誓いを立てるように胸に手を置いた。

「勇者が責任持って、立派な人間にするよ。でなきゃ、その子が魔王に育っちゃうかもしれないしね」


 アンジェリカ、ワシとレイティアさんのことを認めてくれたんだな。

 本当にうれしかった。

 そして、サスティナさんに至っては感動して泣いていた。


「アンジェリカ、とことん立派になって……。あなたこそ、勇者だよ。勇者の中の勇者さ……」

 うん、ワシもそう思う。


「ただ、それはそれとして……」

 そこでアンジェリカは顔を赤くした。

「できれば、そういうことやってるのは私に極力わからないように、察知させないようにしてほしいんだけど……。そこは気をつかえ、マジで」

 そりゃ、そうだよな……。


「うふふふ、注意するわ~」

「その点は、ママはいまいち信用できないの! 魔王、そこは細心の注意を払いなさい! いいわね!?」

「わ、わかりました……。万全を期します……」


 ワシは生まれて初めて勇者に敬語を使った。

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