表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/178

177 魔王、笑うしかなくなる

 くそっ、しっかりアンジェリカが見張っている。

 もっといちゃつかせてほしい。また、すぐにでも冒険に行ってきてくれんかな。


「今、冒険に行けって思ったでしょ。悪いけどしばらくはのんびりするわよ。あんまり魔王とママがベタベタしないように見張るからね。それが年頃の娘の仕事よ」


 アンジェリカはレイティアさんに引っ付いているササヤーナの角を撫でた。そんな仕事なんてないわ。


「かわいいわね~。でも、お姉ちゃんよりかわいくならなくてもいいからね~」

 そこは「お姉ちゃんよりかわいくなりなさいよ」と言うところだ。自分が幼い妹に勝とうとするな。


「お姉ちゃん、魔族になったから結婚のことも当分気にしなくていいし、気楽なの。悩みも一つ減ったわ。これで、のんびりできるわ。当面、大きな事件もないだろうし。魔王の地位も、あの魔王が心労に耐えながらやってくれるみたいだし~」

 できれば心労はないほうがいいのだが、やむをえん。


 だが、何かまだあった気がする。

 アンジェリカに言っておかねばならんことが、残っていたような。


「お姉ちゃん、なんでそんなに元気なの?」

「それはお姉ちゃんが勇者だからよ! ササヤーナもお姉ちゃんみたいに元気に育ちなさい。いわば、勇者である私の唯一の継承者なんだから」


 アンジェリカみたいにおてんばというか、雑な性格になって育ってほしくない。

 完璧なタイミングでネコリンが「アホーアホー」と鳴いた。あれ、自分よりアンジェリカのほうがアホだと認識しているな。


 しかし、そんなことはどうでもいい。

 言い忘れていたことを思い出した。


 この場でいいか? もう、勢いで言ってしまったほうがいいだろう。レイティアさんもいるし。


「なあ、アンジェリカ、ちょっと話がある」

「何? ササヤーナを皇太子にするのはいいけど、勇者にするのも止めさせないわよ。私の継承者はササヤーナしかいないわけだもの。弟子がいたりすればいいんだけど、勇者である私に気後れして志願者がいないのよね~」

 アホだと思われて避けられているのでは……。


「そのことなんだが、え~とな……継承者候補ができる」

「どういうこと? 魔族の中で弟子入り志願者がいるの? まっ、私が魔族になってるんだし、魔族が勇者に弟子入りしてもおかしくない時代だけどさ」


 あっ、この反応だとまだ理解してないようだ。

 ちらっとレイティアさんに目をやると、楽しそうに笑っている。うん、恥ずかしいことではないのだから言わなければならん。



「レイティアさんにまた赤ちゃんができた」



 アンジェリカの瞳がやけに大きく見開かれた。

「…………へ?」

「レイティアさんにまた赤ちゃんができた」

 二度は言いたくなかったが、黙ったままアンジェリカの次の反応を見るのも落ち着かなかった。


「えーっ!? また? またなの!?」

「そうなのよ~。ほら、前にアンジェリカが十日間ほど冒険に出ていってたでしょ。あの時にシュローフさんに診察を受けたら、次の子ができていますって言われたの」

 レイティアさんは優しく自分のおなかを撫でた。


「次はどんな子かしら~。男の子でもいいわね~」

「なんか、ハイペースでできすぎじゃない? 私、二人に勇者の特訓をする自信はないわよ」

 アンジェリカがわけのわからん心配をしていた。


「そんな特訓はせんでもいい。むしろ、するな」

 アンジェリカみたいな子供が三人いたら、さすがに家庭崩壊しそうで怖い。


 でも、そんな話題のままなら、まだよかった。

 アンジェリカが白い目になった。

「年頃の娘がいるのに、そんなにいちゃつけるものなの? 私にはよくわからないんだけど」

 うっ! その反応が一番つらい!


「べ、別によいだろ! 悪いことをしたわけではない! ワシとレイティアさんの間はまだ新婚の範囲だ!」


「そうよ~。ガルトーさん、とっても優しいのよ」

 そこでレイティアさんは顔を赤らめて、両手を頬に添えた。


「なのに、激しくもあるの。わたしと相性がいいのかもしれないわね、ふふっ……」


「ママ、冗談抜きでやめて!」

 大声でアンジェリカが叫んだ。離れた隣の家にまで聞こえそうな絶叫だった。


「そういう話は絶対にやめて! 次やったら、本当に家出するからね! 親子の間でもセクハラはダメだから! 許さないから!」

 うん、これはアンジェリカの反応が正しいな……。


「レイティアさん、その手の話はやめておきましょう」

「そうね、あなた」

 目がどことなく妖艶だった。朝からやけにそわそわしてしまう。


「だから、あなたって呼ぶのもダメ! 私の前では距離感を保って!」 


「ケンカだ、ママとお姉ちゃん、ケンカしてる~」

 ササヤーナが楽しそうに笑っていた。いや、楽しくはないぞ、我が子よ……。


「アンジェリカも、あんまり叫ぶとササヤーナの教育に悪いからほどほどにしなさい……」

「魔王も、朝から娘に赤ちゃんできましたって報告しておいて、教育に悪いも何もないでしょ!」


 あっ、表現がまずかったか!?


「ずっと黙っているのも変だろうが! それに、赤ちゃんを作ることは恥ずかしいことではない! お前だって、ササヤーナをかわいがっているだろ!」

「赤ちゃんを作るだとか、堂々と言わないで! ああ! やっぱり、魔王のせいでこの家がおかしなことになってる!」


 ササヤーナがきゃっきゃと笑っていた。そんなにワシらの困惑ぶりが面白いのか、娘よ。

 こいつは、将来、魔王になる素質があるかもしれんな……。


 だが、レイティアさんも笑っているし、これでいいか。

 ワシもヤケクソのように笑った。


 笑いの絶えない家族というのは、きっと悪いものではないはずだ。


次回最終回の予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あぁ…ついに、その時が…作者先生自ら最終回予告…
[一言] 最終回…ということは ついに勇者が艱難辛苦を乗り越えて魔王を倒すときが来たのですね! …そこまではいかないでしょうが せめて一本くらいは取りたいですねえ
[良い点] 更新お疲れ様です。 おお、第二子ご懐妊とはめでてぇ!! 結婚当初は色々ありましたが、ホント見てて羨ましくなる家族になったもんです···後残す所は孫の顔が見られるかですね(笑) それでは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ