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176 魔王一家の新しい朝

 ――一か月後。

 ネコリンがアンジェリカの部屋の前で「アサダー、オキロー」と鳴いた。

 その横にササヤーナもいて「お姉ちゃん、起きろー」と言っている。なんか、ネコリンを姉と認識しているみたいになっている……。


「あぁ……頭が重いわ……」

 部屋からゾンビみたいに生気のない顔でアンジェリカが出てきた。


「お前な、もっとしゃきっとしろ。見てるこっちの気分も悪くなるわ」


「だって……こんなに角が重いだなんて聞いてないわよ。肩がこってしょうがないわ。魔族ってみんなこうなの?」

 アンジェリカは自分の二本の角を押さえながら言った。


「それは個人差がある。お前の場合、やけに大きめの角が生えてきたからな」

 レイティアさんと角の形は似ているが、さらに立派だ。


「はい、卵焼きできたわよ~♪」

 レイティアさんがお皿を持ってダイニングにやってきた。

 もちろんレイティアさんの頭にも角が生えている。あのタマネギを食べた時とまったく同じような角だ。


 正真正銘の魔族の一家にワシらはなった。


 いまだにレイティアさんの家で同じように暮らし続けている。魔族だけが住む家というのを、周囲が受け入れてくれるか不安はあったが、取り越し苦労だった。ワシがこれまで地元に受け入れられる尾力を怠らずにやってきたからな。


 近所のおじさんは「魔王さんの一家がいるなら、泥棒みたいなのもビビって入って来ないんで助かります」と言っていた。防犯目的か……。わからんでもないが。


「まあ、頭が重いのはまだいいわ。我慢もできる。問題はコレよ」

 アンジェリカはパジャマの腕をまくって、力こぶを作るような仕草をした。


「魔族になったら秘められた力が一気に発現して、無茶苦茶強くなると思ってたのに! 人間の時と大差ないじゃない! 見た目だけは角で強くなった分、かえって弱体化した気がする!」

「厚かましいわ! そこは自分で苦労して補え!」

 すぐに力を授かれると思ったら大間違いだ。 


「だって、ママはすっごく強くなってるじゃん。昨日もゼンケイと手合わせして勝ってたよ?」

 そういえば、そうだったな……。

 武道家であるゼンケイの拳を受け止めて、そのうえで掌底のようなことを反射的にやっていた。


「ママはほんとに体が軽いわ~。十代の頃よりももっと元気かもしれないわね」

 レイティアさんはササヤーナを抱き上げながらくるくるっと華麗に回っていた。


「ええ、レイティアさんは以前よりもさらに美しくなったような気がします。いえ、美しくなりました」

 これは断言できる。ていうか、夫として断言する。

「魔王、私に言ってることと違うし! ママだけひいきしたでしょ!」


 アンジェリカがワシの腕をつねってきた!

「知らん! ただの個人差だ! そんな責任までとれん!」


「えー! 魔族になったら、山を一撃で真っ二つにするぐらいの力が手に入ると思ってたのに……」

 その力が手に入ったとして、どこで行使するつもりなんだ?


 こいつには余分な力が加わらなくてよかったな……。ナチュラルに悪用するタイプの奴だ。



 人間を魔族にする「呪法」をワシら家族はやった。

 もっとも「呪法」というのは人間側の価値観だ。ただ、強いマナを含んだ特殊な泉に入るだけのことだ。


 問題は、泉になるだけの水を用意するのに、莫大な額の金がかかることだが、そこは手を尽くしてどうにかした。


 どっちかというと、金の問題より、職場での問題のほうが大きかった。


 昨日も秘書のトルアリーナにすごく冷たい目で、「これが人間の国への親書の下書きです」と見せられた。

 魔王の皇太子が人間から魔族になったので、その報告が対外的に必要になる。つまり、トルアリーナの仕事も一気に増えた。


 目が合ったものに即死魔法の効果がありそうな瞳で「おかげで推しのライブに行けなくなって、知り合いのドルヲタにチケット譲ることになりました」と言われた。

 怖すぎたので本気で謝罪した。「どれだけ謝罪されても、その日のライブはその日一回限りだから、二度と取り返しはつかないんです」と言われてしまい、「はい、そのとおりです」と答えるしかなかったが。


 フライセが「えっ? ここは多額の慰謝料を請求するタイミングですよ! じゃあ、代わりに私が慰謝料をもらうというのでどうでしょう?」などとしょうもないことを言ってたのがまだ救いだった。

 常にトルアリーナと一対一で仕事していたら、本当に胃に穴が空くおそれがあった……。今日もそこそこ出社したくない気持ちがある。しかし、有休を使うと、またトルアリーナにそのことを言われるのでやはり逃げ道はない。


「あれ? 魔王、ものすごく青い顔してるけど、どうしたの?」

 アンジェリカにすらわかるほど顔に出ていたか。

「仕事で悩みがあってな……。だが、それでも仕事には出なければならん。一家を支えるためにワシが働かねばならんのだ……」


 しんどいから辞めますなんて言えたら、どんなに楽だろうか。だが、辞めたところで次の魔王がアンジェリカになるだけなので、ワシの心労はむしろ増えそうである。


 ここは踏ん張るしかない!


 ワシは卵焼きにかぶりついた。

「美味い! レイティアさん、この朝食が活力になります!」


「ふふふ~。いい食べっぷりね~、あなた~」

 レイティアさんの微笑みを見て、気合いを入れるぞ!


「はいはーい。私の前で『あなた』って呼ばないで。それはダメだからね」


 くそっ、しっかりアンジェリカが見張っている。

23日からローソンの一部店舗で再婚魔王のコミックが売られるようです! 詳しくは活動報告をごらんください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想通りとはいえ、ついに魔族になっちゃいましたか… うーん、そうすると体質改善?でレイティアさんの身体が光ることも無くなったのかな?
[気になる点] まずtypoの箇所について。 >ワシがこれまで地元に受け入れられる尾力を怠らずにやってきたからな。 『努力』のはずが『尾力』になっちゃってますね。 で、続いてはtypoの時と同等…
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