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171 魔王、娘の名前を報告する

 続いてサスティナさんの出した案。「レナリア」というものだった。


「無難だわ……」とアンジェリカが言っていた。ワシもそう思うけど、名前ってそもそも冒険しなきゃいけないものじゃないからな。方向性としてはそれでいいのだ。


「この名前はね、総画数がとてもいいのよ。将来成功する字画なの。大商人にもこの総画数の人が多いの」

 占いのようなものを基準にしているのか!


「おばあちゃんって占いなんて信じてたっけ?」

「アンジェリカ、名前をつけるっていうのは一生に一度の大切なものなんだよ。どうせなら縁起を担ぎたいっていうのが人情じゃないか」

 たしかにわざわざ不吉な総画数のものに決めなくてもいいとは思うが……。


「それじゃ、最後はわたしね~」

 レイティアさんがノートのようなものを取り出す。

「実はね、ここでゆっくりしている間、時間があったからどんな名前にするかずっと考えていたの。動き回れるほど体力は回復していなかったしね」


「ノートまで用意しただなんて……。本当にずっと考えてたのね……」

 アンジェリカも驚いている。レイティアさんがぱらぱらめくったノートにはいくつも、いくつも名前の候補が並んでいる。


 だとしたら、レイティアさんが名前を考えている期間としては、圧倒的に一番だな。

 考えてみれば、それは当然のことだと思った。レイティアさんが自分のおなかを痛めて生んだ子なのだ。どんな名前にするべきか、誰よりも真剣に考えて不思議はない。


「せっくだし、いろんなアプローチから考えてみたわ。魔族の王族の女性にあった名前も調べたし、総画数や発音から縁起のいいものも調べたの。もちろん、かわいい響きになるかという方向でも考えたわ」

「ワシらが検討したことはすべてやられていたんですな……」

 もはや名前選びの専門家みたいなものだ。


「いい候補もいくつかあるんだけど、みんな一つずつ発表していたし、わたしも悩んで一つを選んだわ。みんなの意見を聞かせてちょうだいね」

 ちらっとレイティアさんはワシの顔を見た。

「とくに、あなた」


 ワシはきょとんとして、自分の顔を指差した。

 どういうことだろう。父親にも強い決定権があるということだろうか?


 だが、その疑問はレイティアさんが書いているノートの一番後ろを開いたところで氷解した。


 レイティアさんはどうしてその名前にしたかをゆっくりと説明した。ワシはレイティアさんの誠実さを心から感じた。ワシとしては異論はなかった。

 なにより、赤ん坊がその名前を聞いた時に、少し笑っていたのだ。


「本人がいいって言ってるみたいだから、これでいいんじゃないかしら」

 アンジェリカの言葉にみんながうなずいた。



 後日、ワシは一人でササヤの墓を訪れた。

 すぐにササヤの幽霊が出てきた。もはや死者と出会っているという感慨みたいなものもないぐらいにカジュアルに出てくる。


「あら、あなた、お久しぶり。何か変わったことでもあった? 変わったことといえば、新しいお子さんが生まれたことよね」

 よく知ってるな……。これまでも何度か報告に来てるしな……。


「まさにそのことだ。新しい娘のことでお前に話しておこうと思ってな」

「律儀ね~。でも、そんな律儀なところがあなたらしくもあるわ」


「もし、お前が嫌だというなら、違う名前にするつもりだ」

「ん? なんでわたしの意見が必要なの? 自分で言うのもなんだけど、娘の名前をつけるのに前妻の意見を聞くっておかしいでしょ?」

 ササヤは首をかしげている。これだけだと、ワシの意図もわからんよな。


「娘の名前なんだが、ササヤーナというものにしようと思う」

 ササヤの瞳が大きく見開かれた。

 すぐにササヤという名前とつながりのあるものだとわかるだろう。


「命名したのはレイティアさんだ。魔族としても違和感のない名前で、かつ、総画数とかでも将来が開けるという意味で、人間の国でも女性らしい響きに聞こえるものだ。なにより、ササヤのような気高く、そのくせ元気に生きてほしいという意味が込められている」

 気恥ずかしいからか、自分でも少し早口になっているのがわかる。

 でも、言うべきことは言った。


「もう、レイティアさんって、そういうことを真正面でやっちゃうところがあるのよね」

 ササヤの目に涙がたまっていた。

 その涙の粒は頬から落ちると、すぐに消えていく。


「普通、夫の前の妻の名前を使う? そんなところが抜けてるというか、天然なのよね。だけど、あの人がものすごく考えて選んだっていうのはわかるわ。だったら、それを信じるしかないでしょ」

 ササヤは自分の涙を拭いて笑った。


「だったら、この名前でいいな。ササヤーナ。ワシの新しい娘はササヤーナだ」

「ただし、一つだけ約束して」

 ササヤはワシの胸に手を当てた。

 透明な体だから当たっているという感覚はあまりないはずなんだが、じんわりと心がぶつかってきてるような気はした。


「わたしよりもササヤーナちゃんを愛してあげて。それが父親としての責務よ」

「うん、約束する」

 ササヤも本当にお人よしだ。いつも、いつも自分以外のことを考えて生きていた。それがいきすぎて、反乱があった時に死ぬことになった。


 いや、今はそんな、もしもということを考えるのはよそう。ワシは、今のワシができる人生を全力で生きるだけだ。


「また、ササヤーナちゃんを連れてこられるようになったら、わたしにも見せてね」

「それは無論だ。ただ……このあたりの出現モンスター、強いんだよな……」

 当面は難しいのではなかろうか。


 しばらくすると、レイティアさんがササヤーナとともに我が家に帰ってきた。

「今日から家族四人とカラスのネコリンとの生活ね~」

「徹底的にレイティアさんを支えますからな! なんなりと言ってください!」

「私も妹を素晴らしい人間にするよう教育するわ!」


 そのアンジェリカの計画は少し怖いが……。

 とにかく四人での生活がスタートするのだ!

魔王、娘の名前を決める編はこれでおしまいです。次回から新展開です! というか、これからだんだんとクライマックスに入っていくかと思います。大団円を迎えられるよう、しっかり書いていきます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ササヤーナ…良い名前なんですが、丹波地方出身なんですか?(※小ネタ) [一言] えっ!?…クライマックスが近づいて…って、『もう』終わりが近づいているんですか? (※個人的には)是非とも…
[一言] ササヤーナ皇女殿下命名おめでとうございます 愛称はサーヤですかね きっと可愛らしい眼鏡っ娘に育ってくれそうなry 魔王「よすのだ、それ以上はなんかヤバい」
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