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168 魔王、娘と二人の時間の沈黙に困る

今回から新展開です! よろしくお願いいたします!

 レイティアさんは産後の疲れを癒やすために、しばらく実家のほうに移った。

 魔族の女は出産しても、すぐに元気に活動する奴が多いので、あまりなじみがないのだが、子供を産んだ後、実家に一時戻るということは人間の世界では自然なことらしい。


 家に帰ってもレイティアさんがいないのは少し寂しくはあるが、やむをえまい。それにレイティアさんの両親も娘の顔も、孫の顔も見たいだろうし。そういう意味ではちょうどいいのかもしれん。


 そんなわけでしばらくワシの生活はこれまでと変わることになった。


 空間転移魔法で帰宅するところまでは従来のままだ。

 ただ、ドアを開けると、もういろいろと違っている。

 アンジェリカがテーブルに置いているお菓子を食べながら本を読んでいた。

「ただいま……」


「あっ、まふぉう、帰ってふぃふぁんだ。おかえふぃ」

「せめて、口の中をきれいにしてからしゃべれ……」


 ワシはそのまま台所に直行する。すでに食材は買い揃えているので、抜かりはない。


 さっそうとエプロンをつけた。

 そう、食事担当も当然ながらワシがやるのだ。

 ※なお、アンジェリカはやらない。三日に一回ぐらいは作ってくれてもいいと思うが、まあ、いいわい。


「今日は魔族の女子の中で流行っているとかいう料理を試すか」

 まずは野菜を切る。あまり細かくしすぎると食感が失われるので、ほどほどにする。


 なおワシが調理をしている間に、アンジェリカはペットのネコリンの食事の用意をしている。それぐらいはやってもらわんとつらい。


 続いて、肉を焼く。そこに野菜も入れて、さっと火を通す。


 肉と野菜をすぐに背を開いたパンの中にはさむ。


「よし、できたぞ! お手軽だけど美味いファーストフード。『パンに肉と野菜をはさんだやつ』の完成だ!」

「名前が雑すぎるでしょ!」


 アンジェリカからツッコミが来た。

「しょうがないだろ。料理名を知らんのだ。女子の使う言葉って独特だからなかなか覚えられんし……。味のほうは問題はずだから、しっかりと味わって食べるがいい!」


 アンジェリカと向かい合っての食事の時間だ。

 レイティアさんがいない食事というのは、独特の緊張感がある。正直、なかなか慣れない。おそらくだが、慣れた頃にレイティアさんが戻ってくるんじゃないか。


 アンジェリカはパンに肉と野菜をはさんだやつを大口でかじった。多少はしたない印象があるが、冒険者だと考えれば普通のことだろう。


「どうだ、美味いか?」

 作った側である以上、感想が気になる。

「おいしくはあるわ。ただ、少し味付けが濃いのよね。男って料理の味付けが濃くなる傾向があるわ。パーティーでも、武道家のゼンケイや盗賊のジャウニスが作った料理は塩辛いし」

「おいしいのなら、いいではないか……」


「それと、料理の品数が少ないのよ。今日もパンに肉と野菜をはさんだやつと、シンプルなスープだけだし」

「そ、それも、ちゃんと、栄養が偏らないようになっているからいいのだ! パンの間に肉も野菜も入っているからな!」


 だいたい、仕事から帰ってきてからの準備だから、時間のかかる料理は向かない。どうしてもシンプルなものを選択しがちになる。


 まあ、時間があるからといってレイティアさんほど、いろんなレパートリーはないのだが……。こんなことなら事前にもっと料理を覚えておくべきだっただろうか。あまりにローテーションが早いとまたアンジェリカが文句を言ってきそうなんだよな……。


 もっとも、それぐらいはどうということはないのだ。問題はもっと別のところだ。

「…………」

「…………」

 アンジェリカが食べている間、あるいはワシが食べている間、会話が発生しないので、沈黙の時間がやってくる。


 この時間がけっこうきつい! ものすごくぎこちない感じを出す!

 こんな時に限って、ネコリンも何もしゃべってくれないんだよな。いっそ、ネコリンに話しかけるか? いや、娘から逃げているような空気を出してしまいかねん。


「な、なあ……次の冒険はどこに行くんだ?」

「そんなに遠くないところ」

「そ、そうか……」

 ダメだ。会話が途切れる!


「アンジェリカは、またおばあちゃんとおじいちゃんのところには行かんのか?」

 何度かアンジェリカも、レイティアさんの帰省しているサスティナさんとバインディさんのところに顔を出していた。

 さすがにずっといるとなるとレイティアさんの負担にもなるから、荷物を届けたりしてはまたこっちに戻ってくるということの繰り返しだが。


「そうね。行ってもいいんだけど、二人とも今は微妙に対応が悪くなってるのよね」

 アンジェリカが少しため息をついた。

「対応が悪い? 孫への対応が悪いなんてことはないだろう?」

 孫と祖父母の仲は何の問題もなかったはずである。


 アンジェリカが遠い目をした。

「それがね、新しい赤ん坊が生まれたばかりでしょ。完全にそっち優先になってるのよね……」

 ああ、後回しになってるのか!


「結果的に、二人から人生で一番の塩対応をされてる気がするわ。塩対応は言い過ぎだけど、これまでのVIP待遇がなくなってるわね……」

「なるほどな……。なんていうか、こういう話を出してしまってすまんかった」

 孫の立場というのも、それはそれで難しいものがあるらしい。


 ワシはまたパンにかじりついた。まだワシのだけで三つ、パンが残っている。いくつも食べないと腹がふくれん。

「…………」

 そして、ワシが食べている間は漏れなく沈黙がやってくる!


 くそっ! アンジェリカとも相当打ち解けていたはずなのに、それは錯覚だったのか? ワシの思い込みだったのか?


 いや、それは悲観のしすぎだ。ワシにも理由はわかっている。

 これまではレイティアさんがいてくれたから、家の空気がものすごくなごんでいたのだ。

 レイティアさんの存在は、人数でいえば五人分ぐらいに匹敵する影響力があった。今のこの家は、いわば歌劇から音楽が消滅したようなものだ。だから、すぐに沈黙が気になってしまうのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 微妙にリアルだなぁ…誰かの体験談?(笑) [気になる点] 一度くらいは、娘も何か作るべき…食べた翌日に魔王が欠勤する事さえ無ければ(笑)
[気になる点] >「しょうがないだろ。(中略) 味のほうは問題はずだから、しっかりと味わって食べるがいい!」 『問題ないはず』が『問題はず』になっちゃってます。 [一言]  父親と年頃の娘が二人だけ…
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