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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編
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164 魔王、娘にありがとうを言う

「いえ、それがね、ちょっと違うのよ」

 謎かけをするようにレイティアさんはワシの瞳をのぞき込んだ。


「あの子ね、あなたに感謝していたわ。自分が足手まといになることはわかっていたのに、探索に同行することを認めてくれたってこと」


 ワシはあっけにとられて、ぽかんと口を半開きにした。

 冗談ではないかとすら思ったが、レイティアさんがそんなウソをつくわけもない。

 アンジェリカにそんな感謝してるような様子、みじんも感じられなかったのに……。


「今回の探索が高難易度の場所ってことはあの子も把握してたわ。けど、わたしが苦しんでるのをあなただけに行かせるわけにもいかないでしょう。勇者の意地ってものがあの子にはあるはずだし」

 ああ、あいつはあいつで勇者という重圧を背負って生きているのか。

 親のためにすら戦えないだなんて、勇者として恥ずかしいことだろうからな。


「それでも、あなたは同行を許した。だからこそ、あの子もなんとしても薬草を見つけるんだって躍起になってたみたい。あの子、前日に早く寝たみたいだったけど、実は自分の部屋でアイテム収集の手引きみたいな本を読んでいたんですって。稀少な薬草の生育場所についてもチェックしていたから、ほかの薬草の知識を応用したのかもね」

 いつも自慢するかと思ったら、そういうことは黙ってやっているのか。


「むずがゆいですな」

 ワシは肩をぽりぽりかいた。本当にむずむずしたのだ。この部屋がレイティアさんのことを考えてほかの部屋より温かくしているせいもあるかもしれん。


「あなたもレイティアも血はつながってないけど、ものすごくいい親子になってるわ。わたしが保証します」

「その割にはすれ違ってる気もしますが……。今回もこうやってあいつは感謝してるだとかワシに直接言えておらんわけですし……。言われても、それはそれで落ち着きませんけど……」

 ワシの立場からすると、すぐに全肯定はしづらかった。面映ゆいのだ。


「そのあたりのところも含めて親子らしいじゃない。常に仲がよすぎる親子はかえって変だわ。だいたい、男親と女親では役割が違うものよ」

 ワシも親に言えなかったことなどいくらでもあったしな。そういうものか。


「それに血がつながってないのなら、この世界の夫婦はたいていつながってないでしょう? それでも信じ合えるわけだから大丈夫よ」

「言われてみれば、そうですな」


 ワシとレイティアさんがこれだけ通じ合っているのだから、アンジェリカともどうにかなるはずだ。

「ねえ、あなた、眠る時に冷たいタオルを頭に載せたいから、用意してくれない?」

「はいはい。すぐ持ってきますよ」


 ワシは濡れタオルを作ると、レイティアさんの頭に載せようとした。

 すると、レイティアさんがさっと体を起こした。もう、それぐらい元気になっていたのだ。


 そして、ワシの頬に口づけをした。


「だ、だまし討ちですな……」

 無性に照れてしまった。魔王が隙を突かれるなんて、人には言えんな。


「だましてはいないわ。冷たいタオルがほしかったのは本当だもの」

 まったく。すっかり手玉に取られている。


「きっと、もうおなかのこの子が生まれるまで何の心配もいらないわ。わたし、そんな確信があるの。男の子か女の子がわからないけど、楽しみにしていてね」

 レイティアさんはゆっくりとおなかをさすった。

「全力で、子育てします。この命に代えても!」

「命に代えるのは困るわね。あなたも元気でいてくれないと」


 その夜はワシのほうがよっぽど寝つけなかった。

 キス一つでたじたじにされてしまうとは……。


 父親の世界も、夫の世界もまだまだ奥が深いなと改めて思った。



「魔王様、やけに熱心に仕事をしていらっしゃいますね」

 トルアリーナが不思議そうな顔というか、不審そうな顔でワシのほうを見ていた。


「昨日、休んでいた間にたまっていたものもあるしな。あと、こうしていたほうが落ち着くのだ」

 今日のレイティアさんは、もうアンジェリカが家にいて見守っていれば十分というところまで回復していた。なので、ワシはいつもどおりに出勤することにした。


 しかし、レイティアさんのそばにいないせいで落ち着かないところもあるので、こうやって仕事に集中することで雑念を振り払っているのだ。


 だが、一度、家から離れる意味もある。


 帰宅してアンジェリカと会ったら、医者失業草の発見のことをとことん褒めてやろう。

 そう決めていた。

 ずっと経ったらもっと言いづらいし、言うこと自体がおかしな感じになるし。

 娘を素直に褒める。それだけのことだ。問題点を注意するより、本来ずっと言いやすいことなのだ。


 でも、これにはこれで緊張がともなう。それまでのアンジェリカの態度にも問題があったわけだが、ワシも逃げずに向き合わないとな。

 こんな気分になるなら、朝のうちに言えばよかったのだが、あいつが寝坊していたせいもあって、タイミングがとれなかったのだ。そのあたりはいいかげんなのだ。


 まあ、いい。今日、帰宅したら言うぞ。絶対に言うぞ。


 ……でも、あまり思い詰めると、かえって精神的に疲れるから、今はあまり考えないでおこう。仕事をしよう。


 そこにフライセが横にやってきた。

「フライセ、お前の植物の話、また聞かせてくれ。あれはなかなか面白いし、ためになる」


「魔王様が私のことを褒めてくださった……。これはもしや……フラグ的なものが立った証拠? アフターファイブは私と浮気するつもり……?」

「七段階ぐらいの飛躍があるだろ!」

 あいさつをしてきた異性は自分に気があると思い込むような奴か。


「……まあ、滋養強壮におすすめの植物があれば教えてくれ」

 レイティアさんの健康に役立つものがあれば使いたいのだ。

「媚薬ではダメですか?」

「答えるまでもないからノーコメントな」


 その日、ワシに礼を言われたアンジェリカはドヤ顔をしたりはせずに、やけに照れていた。

「ゆ、勇者が魔王に感謝されると、なんか変な気分ね……」

 誰しも、堂々と言われるとかえって困惑するものだ。




魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

そして、コミック2巻の表紙が公開になりました! 活動報告をごらんください! 11月19日発売予定です!

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