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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編
163/178

163 魔王、回復した妻と語らう

 ワシはもう草をすぐ取り出せるように準備していた。布の袋をシュローフのほうに出す。

「シュローフ、この草でいいな? 万病に効く素晴らしい薬が作れるのだな?」


 シュローフは中を確認し、やがて、覇気のある顔になった。

「いけます! すぐに調合してお妃様に処方いたしましょう!」

 本音を言うと、ほっとした。これで「残念ですが、別の草です」と言われたら、どうしようと思っていた。徒労だけの問題じゃないしな……。


 ――その日の夕方。

 ワシはシュローフに呼ばれ、レイティアさんの部屋に入った。ずっと、横で見守っていると、かえって邪魔なので、ダイニングのほうで過ごしていたのだ。


 その時のレイティアさんはもう、いつもどおりの姿と言ってよかった。少なくとも、表情に病人特有の重苦しいものがない。


「あの薬草を飲んでから二時間ぐらいしてから、体がずいぶん楽になったんですよ。もう、お夕飯も作れそうなぐらい♪」

「レイティアさん、無理しないでください!」「お妃様、そこはご安静に!」


 ワシとシュローフが同時に言った。


「皆さん、もうお妃様の体調は大丈夫です。念のため、数日は激しい運動や長時間の入浴など、体に負担がかかることは避けていただくべきでしょうが、そのうちにすっかり元のように戻るでしょう」


「では、赤子にも影響はないのだな?」

 シュローフはうなずいた。

「魔王様のお子でもあるのです。発熱もこれだけ短時間であれば、関係はないでしょう」


 ワシは胸を撫でおろした。ワシだけの問題ではない。レイティアさんもこれでほっとしたはずだ。


「ふっふっふ! この草は私が大発見したのよ!」

 ここぞとばかりにアンジェリカがドヤ顔した。今はどれだけ偉そうにしても許されるタイミングだ。自分の発見に「大」をつけるなと思わんでもないが。


「私の天性の勘が岩の間が臭いと察したの。勇者の面目躍如ね!」

「勇者らしいと言えなくもありませんけれど、ジャウニスみたいな盗賊のスキルのようですわね……」

 セレネもワシが感じていたことを言った。

 やっぱりみんな同じことを思ってたんだな……。


「それは……勇者はいろんな職業のいいところを合わせ持ってるってことじゃないかしら……」

 やけにいいように解釈したなと思ったが、勇者はリーダーのような存在にならないといけないことが多いから、案外正解に近いのかもしれん。


「アンジェリカ、器用貧乏にならないように気をつけてくださいまし」

「セレネ、ひどいわよ! 器用金持ちを目指すわ!」

「その表現も勇者らしきない響きがありますけど、いいですの……?」


「貧者も金持ちもどちらも救われる、それが神の力というもの」

「ナハリンもちょっと話がずれてますわよ!」


 アンジェリカたちがはしゃいでいるのを横目に、ワシは少し感慨深い気持ちになっていた。


 しかし、ここで涙を見せるべき時ではないな。アンジェリカがまた文句を言いそうだ。もう少し、我慢するとしよう。



 その日の夜、ワシは家事を終えて(アンジェリカが全然手伝わん)、レイティアさんも眠る夫婦の部屋に入った。


 床には寝袋を置いている。ワシが寝るためのものだ。レイティアさんにはベッドをまるまる一つ使ってもらう。かといって、万一何かあった時にすぐに気づけないとまずいので、ワシは寝袋で同じ部屋で寝るというわけだ。


 レイティアさんは起きていて、ランプの灯りをたよりに本を読んでいた。熱も下がっているから、一日の大半を寝て過ごすような必要はないのだ。

「あなた、本当に、一日お疲れ様でした」

 レイティアさんの笑みは、からりとした外向きのものとは少し違う、家族に向けられる優しさ多めのものだ。


「妻の危機でしたからな。お疲れなのはレイティアさんのほうです。まあ、この生活が一週間続くと大変ですが……」

 強がってもしょうがないので、ワシは凝った肩を手で叩いた。


「ただ、ワシは今回のことで少し反省しました」

「反省? 上出来だったじゃないですか~。私はそう思うわ」


「アンジェリカはワシが考えてるよりもずっと、しっかりやっているなと。知らないうちに未熟と決めつけていました。ワシの見誤りもいいところです」


 ワシはうーんと伸びをした。

 アンジェリカ本人には言いづらいが、レイティアさんの前なら言える。


「あいつはあいつなりに多くのものを習得しているんです。その力にワシははっきりと助けられました」


 もしもアンジェリカを連れていかなかったら、薬草探しは難航していたおそれは高い。

 ワシはあんな岩の割れ目の奥に目的のものがあるとは考えもしなかった。


 足手まといも覚悟で連れていった娘に、助けられたというわけだ。


「あなたの言いたいことはよくわかったわ」

 レイティアさんは本を閉じて、微笑む。

 いわば、これは夫の小さな懺悔で、妻はその懺悔を聞いてくれているというわけだ。


「いいかげんなようで、アンジェリカはアンジェリカなりに強くなってるのよ。わたしの自慢の娘だわ。すごいでしょう」

 くすくすといたずらっぽくレイティアさんは笑う。


「いやはや、本当にそうです。あいつが自分を過小評価してるワシに対し、腹を立てていたことももっともだったかもしれない。親として、もっとあいつの実力を正当に評価せんとダメだと思い知りました」

 あいつはあいつでワシの知らないいいところを持っていたのだ。それを見つけられなかったのはワシの側の責任だ。


 問題は直接お前はすごいと言うと、実力以上に調子に乗りそうなところなのだが……。

 このあたりの加減が難しい。褒めて伸ばす教育が大事ということは知っているが、それは一般の傾向であって、個々人によって使い分けは必要なのだ。ダメなものをスルーするのも違うと思うし……。


「ちなみにだけど、さっき、あなたがお風呂に入ってた時間にアンジェリカがここに来たの」

 レイティアさんは実に楽しそうだ。


「自慢話をうんざりするぐらいしておったでしょう? まあ、薬草を見つけたことに関しては文句なくあいつの功績ですから、どれだけ誇ろうとワシも認めます」


「いえ、それがね、ちょっと違うのよ」

 謎かけをするようにレイティアさんはワシの瞳をのぞき込んだ。


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