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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編
162/178

162 勇者、大発見をする

 本音を言えば今日中に見つけたい。

 ――ぶっちゃけ、ワシが疲れる。


 世の中には接待冒険という言葉がある。

 偉い冒険者の息子とかが冒険に出る時に、偉い冒険者の部下が息子を立てて進むようなことを言う。無論、えらい冒険者の息子にケガをさせるなんてのは論外だ。こういうのは人間の世界だけでなく、魔族の中でもある。


 ワシの場合、立場が立場だから接待しなきゃいけない側になったことはないが――

 今はその手の気疲れがある……。


 アンジェリカもかなり強くなっているので、たいていの場所ならここまで気疲れしなくてすむはずなのだが、モンスターが強いうえに、立地が悪い。


 今日、ワシはほとんどずっとアンジェリカを連れてくるべきだったか否かで自問自答していた。


 やはり、一人で来るべきではなかったか。

 効率だけを優先するなら、そうするべきではなかったか。

 いくらアンジェリカが真剣でも活躍できる限界というものがありはしないか。


 いや、それでも娘を信じるべきだということで、連れてきたのだ。それに連れてきた以上、もう悩む時間自体に意味がない。

 食事休憩をしたことで、行軍中の緊迫感が抜けて余計なことを考えてしまっているな。


「ううん……。やっぱ、なさそうだよ。これより下ってことは考えづらいわよ」

 アンジェリカはまたそんなことを言った。

「いや、気持ちはわかるが、そんなことを言っても何も進展せんだろ。草が隠れられるような場所だってないんだし」


 ワシは少し険のある声で言った。

 ほかならぬレイティアさんのために来たというのに、投げ出したいようなことを言うな。


「いや、私も諦めようなんてまったく思ってないわよ。でもさ、潜るのは効率が悪いと思うのよ」

「かといって、岩を横に彫っていっても見つからん。光がなければ草も隠れられん」


 ヤバい。お互い、疲れでイライラしはじめているので、しょうもない口論みたいになりかけている。

 ここは自制しろ。ケンカしてもしょうがない。ケンカするべき状況でもない。

 無理して笑ってでも、ここは温和に――


 だが、アンジェリカは立ち上がると、いきなり古代魔法語の詠唱をやりだした。

 しかも、それは――爆発魔法のものだった……。


「おいおい! 不穏な空気になってきたけど、キレるにしても早いだろ! しかも物騒な魔法に頼るな! もうちょっとぐらい辛抱しろ!」

 イライラしていると自覚していて、こんなトラブルに発展するのはおかしいぞ! 自覚していれば、落としどころぐらいは見つけられるものなのに!


 しかし、アンジェリカはそんなことお構いなしで詠唱を続けて――


 目の前の岩めがけて、ぶっ放した!


 岩が粉々になって、砂ぼこりが舞う。

「お前な! 何がしたいんだ!」

 ワシはむせながら、目をつぶる。砂が目に入るのだ。


「魔王」

 アンジェリカの声は思ったより落ち着いている。一発爆発させて、すっきりしたのか?

「どうした?」


「例の草ってこれじゃない?」

 まさかと思って、ワシはそうっと目を開いた。


 そこには球のように丸まった葉っぱの草があった。


「うおおおっ! まさしく医者失業草だ! どこに、どこにあった!?」

「ここの岩ってやたらと割れ目ができていたでしょ。その割れた中で生えてないかなって思ったの」


 なるほど。たしかに割れ目が大きければ、その中にかすかに光や雨水も入ってくるかもしれんし、死角になっているから収穫されずに生き残っていたのか……。


「しかし、アンジェリカ、よくこんなところを探そうという発想ができたな」

 もしや、どこかの本で生息場所を読んだりしていたのだろうか。


 アンジェリカはそこでものすごくドヤ顔になった。

「私はね、隠してるものを見つけるのは得意なの」

 まあ、ドヤ顔する権利はあると思うが……。


「人の家に行っても、どこのタンスにへそくりがあるか、勘でわかるわ。これぞ勇者の勘よ」


 ワシは、はっとした。

 そういえば……過去の勇者の話を読んでも、タンスやツボからものを見つけた逸話がけっこうあったような……。


 アンジェリカもやっぱり勇者なのだなと思った。

「でも、それ盗賊のジャウニスが得意なんだったらわかるが、なんで勇者が……」

「ジャウニスとは違うわよ! あくまでも勘が鋭いだけだから! 盗賊のスキルとは似て非なるものだから!」

 アンジェリカが釈明していたが、あんまり説得力がなかった。



 目的の草を見つければ、こんなところ一秒でも用はない。ワシとアンジェリカはすぐに空間転移魔法で自宅の前に戻った。時間で言うと昼頃だろうか。


「見つけてきたわよ!」

 アンジェリカが「ただいま」の代わりに威勢のいい声を上げて、入っていった。


 ちょうどダイニングのテーブルではセレネとナハリンが何か食べていた。


「まことか……? 拙僧、こうも早いとは思わなかった。それは本当に例の薬草か? 別の雑草であったりせぬか? 本当に、本当に大丈夫か?」

 ナハリンは全然信用してなかった。不安になるのはわかるが、本当に雑草であるような気がしてくるので、そこまでしつこく言わないでほしい。


「これぞ正真正銘の医者失業草よ! 多分!」

 どっちなんだよと思ったが、ツッコミ入れている場合でもない。


「アンジェリカ、この草をシュローフに見せるぞ。シュローフは――」

「――レイティアさんのお部屋にいますわ」

 魔法使いのセレネがワシの言葉を接いだ。


 ワシとアンジェリカは揃ってレイティアさんの部屋に入った。

 起きていたレイティアさんは熱のある頬をしていたが、慈愛に満ちた女神像のような目でワシらを見つめていた。


 言葉はすぐには出てこなかった。見つからなかったと言ったほうがいい。

 それでも、レイティアさんと目が合っただけで、気持ちはすっかり通じたと思う。これはワシの錯覚なんかじゃないはずだ。


 なにせアンジェリカもレイティアさんの前では功を誇ったりはせずに、ただ、うなずいているだけだったのだから。

 言葉がなくとも、家族の中だけで伝わるものもある。

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