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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編
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160 魔王と娘、薬草を探しに行く

 その後、ワシは城に飛んで、兵糧を用意したり、簡易の寝袋を用意したり、医者失業草の絵図や生育環境が載っている本を用意したりした。

 いや、親が娘の面倒を見ていると考えれば、なんらおかしくはないんだろうけど、こういうのは同行するアンジェリカも手伝ってほしかった……。まあ、いいか。


 準備を終えて、家に戻ってくると、レイティアさんはもう眠っていた。わずかにやつれてはいるが、持ち直しているようではある。


 あと、シュローフにも残っていてもらったままだった。

「お妃様のお体に関してはほぼ大丈夫だとは思います。あとは早く全快させて、赤ちゃんへのダメージをいかに減らすかですね。とはいえ、魔族全体にかかわる問題ですから、しばらくはここに詰めさせていただきます」

「わかった。極力、早く戻ってくる」

 医師が家にいてくれるというのは心強い。


「魔王さん、今晩はナハリンとで数時間ずつレイティアさんを見守るということにしているのですが、よろしいですか?」

 セレネの提案にワシもうなずいた。


「それでお願いしたい。セレネとナハリンの二人にも心配をかけているな。かたじけない」

 ワシは改めて礼を言った。自分が魔王とはいえ、何人にも分裂できるわけではない。こんな時は人手がいる。


「未知のダンジョンに入ることを思えば、本当にどうってことありませんわ」

 それは案外、冗談ではなく本心から出た言葉かもしれないと思った。


「拙僧が起きている時は、ずっと祈祷を行うようにいたそう」

 効き目があるかはわからんが、今は人間の神にも頼りたい時だし、ナハリンにも気張ってもらおう。

「よろしく頼む。あと、この時間に起きている担当のほうにお願いしたいのだが――」


 ワシは夜の三時にナハリンに起こされて、早朝の出発までレイティアさんの横に座っていた。


 すぐに戻ってきます、レイティアさん。



 ――朝四時。

 ワシはアンジェリカとともに『深淵の渦』へと向かう旅に出た。


「魔王、ものすごく荷物が多いね」

 ワシの背中には巨大な革袋が背負われている。


「お前の分の兵糧も全部入れているからな。お前が身軽に動けないことのほうが怖い。一歩足を踏み外すと、落下していくようなところだと思うし」

「でも、私もずいぶん強くなってるはずよ。ところで、前の魔族の装備はダメなの? あの鎧とかかなり装甲が硬いと思うんだけど」


 以前、アンジェリカは他国の勇者との戦いで、魔族に伝わる装備でトータル・コーディネートして挑んだことがある。勇者というよりは、勇者に討伐される側の見た目になっていた。

「ステータスとしては向上しても、あれだとお前の動きが遅くなる。足下も悪いだろうし、身軽なほうがいい」


 ワシは家の前で空間転移魔法を使い、『深淵の渦』のもよりの農村に飛んだ。


「全然着いてないわね。ここから遠そう」

「しょうがないだろ。普通に生活をしていたら、人生で一度も行くことがないような土地だ。城から騎乗用ワイヴァーンで行ってもいいが、このあたりは空も危ないしな」


 まだ夜は明けいないうえに、魔族の土地なので空は薄暗いが、怪鳥のモンスターなどが舞っているのが見える。

 ワイヴァーンに乗りながらの戦いは技術が要求されるので、リスクが高い。転落するおそれもある。面倒でも歩いていくほうが無難だ。


 そして夜が明ける頃。

 ワシとアンジェリカは『深淵の渦』の入り口である深い崖へとやってきた。

 底をのぞき込んでみる。

 光もろくに当たらないせいか、まさしく深淵である。


「どこまで続いてるかわからないわね」

「そうだな。のぞいていると、まさしく渦みたいに飲み込まれそうだ」

「ここでヤッホーって叫んでいい?」

「絶対にやめろ! それで寝ているモンスターが攻めてくるかもしれん」

 危機感が足りてない! ほどほどには緊張しておけ!


「これ、落下していかないといけないわけ?」

「絶対にやめろ。それは死ぬから……」

 発想が力業すぎる。


 ワシは自分たちの側の崖の奥を指差した。

「あそこに下っていく道がある。一人通るのがやっとの道だとは思うが、壁にへばりつきながら底を目指していくぞ」

「え~、それは危なくない? 落ちたらヤバいじゃない」

「だから、危ないって言っただろ! そりゃ、こんなところだから危ない道しかないわ! ワシが荷物を担当してるのもそのせいだ! 徹底的に気をつけて進め!」


 スタートの時点で前途多難な感じがするが、しょうがない。自分の娘のことだし、なかば自分の責任でもあるのだ。



 ゆっくりゆっくりと、崖にへばりつくように細い道を下っていく。

 崖のせいか、やけに地層がはっきりと見える。地質の研究者なら喜びそうだが、慎重に下りていかないといけない。崖は下りていくにしたがって、幅が浅くなってはいるようで、どうにか下ってはいける。


「ねえ、こんなところに草が生えてるのかしら? 石と砂ぐらいしか見えないんだけど……」

 アンジェリカが不審のある声で言った。

 それもわからなくもない。草木がはびこっているような環境とは似ても似つかない。


「本にも書いてあったし、信じるしかない。それに植物というのは、案外どんなところにでも生えてくるものだ」

「そういえば、昔、私の部屋に草みたいなのが生えたことがあったわね」

「それは清潔に保ててないだけじゃないか……? とにかく行くぞ」

「行くって言っても、なかなか速く進めなくてかったるいわね……」


 ふっと、アンジェリカが谷底のほうに身を乗り出した。

「落下していったら、たどりつけないかしら?」

「シャレにならんからやめろ! ただの身投げになるぞ!」

 アンジェリカの場合、気が短いからマジでそのうちやりそうで怖い。


「ちなみに医者失業草ってどんな見た目なの?」

「なんでも、葉っぱがボールみたいに丸まっているらしい。乾燥地帯だから、そうやって水分を蓄える性質があるそうだ。その水分が様々な病や体調不良を治す特効薬になる」


「へえ、魔王、詳しいのね。やっぱり、大学出てるだけあるわ」

「昨日、お前がすぐに寝た後に調べたのだ……」

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