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16 魔王、妻の親御さんへあいさつする

今回から新展開です、よろしくお願いします!

「魔王様、それで娘さんとの登山は上手くいったんですか?」

 職場で秘書のトルアリーナに尋ねられた。


画竜点睛がりょうてんせいを欠いた」

「もっと会議での答弁のように、わかりやすく、かつ、具体的に言ってください」


 しょうがないのでワシは起こったことを逐一説明した。


「なるほど。つまり、娘さんは自力で戻るしかないと思って下山した、そこで空間転移魔法のことを言って、向こうがキレたと。やっぱりキレる年頃なんじゃないですかね。勇者って血の気が多そうですし」

「そういう職業差別みたいな言い方はよくないぞ。それにこっちは娘の問題だから、一般論みたいにして片付けられん」


「まあ、娘さんの自業自得ではありますが、登山なんでしたら事前にエスケープに関する情報も周知しておくべきですよね。そこは魔王様にも非はありますよ」


「ああ、わかっている……。どうせ、ワシにはデリカシーがないさ。子供もおらんかったしな」

 ずっと組織の中で生きてきてしまったので、組織的な思考には慣れているが、親として振る舞うことがどうにも上手くいかない。

 まったくダメというわけではないと信じたいのだが、ズレている気はする。


「それにしても、仕事が多いな。決裁書類が前年度と比べて四割増しだぞ」

 ワシは書類にサインを書いていく。

「それはそうですよ。唐突に人間と戦わないことになったので、余ってしまった軍人なりなんなりを使う仕事が必要になったんです。急遽、公共事業をやりまくっているというわけです。これも魔王様に非がありますよ。唐突に不戦条約を結ぶことにしたんですから」


 トルアリーナは淡々と仕事をしているが、言葉にちょっとトゲがあった。 

「しょうがないだろ。恋というのは唐突にはじまるものだ。計画などできん」

「恋は唐突だとしても、向こうの親族へのあいさつとか式とか入籍とか、そういうのは計画的にやるものじゃないんですか? 結婚式だったら、記念日に行うとか」


 ワシはペンをテーブルに落とした。


「そういや、式をやらんといかんかった。すっかり忘れていた……」

 これはちゃんとしたものにせんと。

 だが、その前に関門があった。


「レイティアさんの親御さんって存命なのかな……?」

「魔王様が知らないなら、私が知るわけありませんよ」

 多分、元夫の親は死んでるか、あまりつながりがないかだと思う。だって、結婚を申し込んだらすぐにOKしてくれたし。

 レイティアさんは自分の親のことも何も言ってなかったし、最低でもいまだにレイティアさんを拘束してるような親ではないのだろう。


 とはいえ、存命だったらあいさつに行かないとダメだろう……。

 完璧に忘れていた……。


「魔王様、ショックを受けるのは休憩時間になさってください。仕事がたまってます」

「こんなことよりもっと大きな仕事が降ってきたかもしれんのだ」

「今は公務なので、家族のことよりこっちを優先してください」


 トルアリーナは冷たく言い放ってきたが――

「しょうがないので、私が四割増しで働きますよ」

 と、てきぱき動いてくれた。

 やはり、頼りになる秘書だ。これからもよろしく頼む。



 その夜、ワシはレイティアさんに親族についてうかがった。


「ええ。わたしの両親はどちらも生きてますよ。港町の高台に引越して元気にセカンドライフを送ってます」

 やっぱり生きてたか。いや、生きてるのを悔やむように表現するのは失礼なのだが。


「ワシと再婚したことは連絡されてますかね?」

「はい。手紙で。でも、どのみちわたしとガルトーさんの再婚の話は全国規模で聞こえてると思いますよ」

 そりゃ、戦争が終わった理由なのだから、広まっていて当然か。


「あの、親御さんのご都合のよい時にあいさつにうかがいたいと思うんですが、いつ頃がよろしいですかな?」

「そうですね~。いつでもいいんじゃないですかね。旅行で何日も留守にしてるなんてこともないと思いますし~」


 なら、できるかぎり早く行くか。遅ければ遅くなるほど、まずい気がする。


 けど、レイティアさんのように、どこかおっとりした人なら、どうにかなるのでは――


「魔王、言っておくけど、おじいちゃんは頑固だよ」

 ぼそっとアンジェリカが言ってきた。

「そ、そうなのか……? でも、そういう場合、お母様のほうがやさしくて、釣り合いがとれて――」

「おばあちゃんは厳しいよ。再婚報告、頑張ってね」


 ワシ、かなりの危機を迎えているのでは!?

 くそっ! ワシめ、なんたる失態……。ついつい、義理の娘のこととの関係だけ考えて、義理の両親のことを軽んじていた!


 しかし、ここはなんとしても円満にワシが再婚相手としてふさわしいと認めてもらわねばならん。

 でなければ、レイティアさんが悲しむことになる!

 それだけは避けなければならない! レイティアさんの笑顔はワシが守る!


「レイティアさん、次の休日にあいさつに向かいます」

「わかりました~。アンジェリカも来なさいね。おじいちゃんもおばあちゃんも会いたいと思ってるはずだから」

「わかったよ、ママ」


 アンジェリカも来るのか。娘が父親として認めてるアピールをしてくれると助かるが、そこは期待薄だな。

 うかつにそういうことをお願いすると藪蛇になりそうというか、魔王が父親なんて勇者として恥ずかしいとか言いだしそうなので、協力はあおげない。

 とにかく、邪魔だけはしないでくれ。アンジェリカがワシを攻撃してきたら、もはや勝ち目はない。


「あの、レイティアさん、ご両親はどのようなお菓子がお好きかご存じですか?」

「そうですね~。クッキーの詰め合わせでも持っていけばいいんじゃないですかね」


 よし、このあたりの老舗でよいクッキーを買おう。

 相手は二人暮らしだから、あまりサイズがデカすぎず、小粋なやつを選ぶぞ。


「アンジェリカ、今度、クッキーを見るの手伝ってくれんか」

「魔王って、そういうところ、しっかりしてるよね……」

「些細なことでも手を抜いてはならん。わずかな気のゆるみが大事故につながるものだ」

「言ってることは正しいと思うけど、魔王、小物っぽいよ」


 娘にひどいことを言われているが、この際、大物じゃなくてもいい。

 ご両親の了解を得られればそれでいいのだ!

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