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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王と勇者、妻の病気を治す薬草探しに出る編
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159 魔王、出かける準備を整える

「けど、ネコリンだけじゃ、いくらなんでも無理があるわ。小麦のお粥も作れないだろうし」

 うん、ネコリンに任せられるわけはないのだ。

 無論、それぐらいのことはワシも考慮に入れている。


「お前の友達の魔法使いセレネと神官ナハリンに看病をお願いしようと思う。どちらかは来てくれるだろう」

「あっ、そうね。その二人なら安心だわ!」


 我ながら名案だと思う。これなら勇者パーティーも活躍できるしな。

 それと……アンジェリカ一人にレイティアさんの看病を任せるのは怖い。病人用の料理どころかまともな料理すら作れるか怪しいし……。

 万全を期す意味でも、アンジェリカをレイティアさんから一時的に引き離しておきたい。


 そんな冷徹な判断を行う自分にあきれもするが、レイティアさんを守ることを最優先するべきだ。レイティアさんを守るためならワシは何にでもなる。


「じゃあ、これでいいな、アンジェリカ」

「承知したわ」


 ワシは早速、空間転移魔法でセレネとナハリンの二人のところを順に訪れることにした。


 まずセレネは即答で承諾してくれたので、一緒にナハリンの修道院に向かう。

 こっちでもナハリンは「御意」とすぐに了解の旨を示してくれた。


 すぐに二人を連れて、家に戻ってきた。空間転移魔法は本当に便利だ。


「わたくし、できるかぎりのことをさせていただきますわ。魔法で氷も作れますし」

「こんな時こそ、神官の慈愛の心が試される。献身的に務めたいと思う」


 よし。留守はこの二人に任せられる。


 レイティアさんも赤い顔で、「ご迷惑おかけするわね」と二人に言った。

 こうも疲弊した様子のレイティアさんを見るのは初めてのことだった。


 あまりにレイティアさんが元気で快活なのでよく忘れそうになるが、レイティアさんはあくまでも人間なのだ。

 魔王であるワシのように頑健な体ではない。


 当然、危険な土地に連れていくような真似はしないが、病にも気をつけてやらねばならん。

 それは魔族でありながら、人間の彼女に恋をして、結婚したワシの責任というものだ。


「アンジェリカのお母様、困った時はお互い様ですわ」

 セレネはレイティアさんの手をぎゅっと握った。


「必ずや、神の加護がある。気を強く持つことが大切」

 ナハリンも何やら祈祷のようなものを行っている。

 青い光が生まれたので、心を安らかにする魔法か何かだろう。


「みんな、ありがとうね。普段、元気だから、体調が悪いことにも気づくのが遅れたかもしれないわね……」

 レイティアさんが苦笑いをする。

 それは健康な人間あるあるかもしれん……。ちょっと病弱で、すぐに医者にかかる人間のほうが体調変化に敏感なので、大病になる前に対処できたりしたりする。


「さっきと比べればいくぶん落ち着いているように見えますな。この魔王ガルトー・リューゼンにお任せください。すぐに医者失業草とやらを持ってきましょう」

 ワシはできるだけ堂々とした態度で言った。

 ここであたふたしてレイティアさんを不安にさせてなるものか。


 それにワシは、今、レイティアさんのそばにいる。言葉もかけることができている。

 ササヤの時は――本当にどうすることもできなかった。

 妻も守れなくて何が魔王だ。ワシは自分の職責を果たす。


「よし、善は急げよ。今すぐ出発しましょ!」

 アンジェリカがワシの背中をばんばん叩いた。けっこう威力が強いので痛い。


「そうだな――と言いたいところだが、今晩は寝る。そして早朝に出発する」

「どうしてよ! 一秒でも早く行くべきじゃないの?」

 こいつ、人間で戻ってきた奴がいないということを忘れてるんじゃないのか?


「ぶっちゃけた話、『深淵の渦』に行くお前と今のレイティアさんだったら、お前のほうが危険だからな。万全の体調で向かう。徹夜で突っ込んでいい場所ではない。今晩のところは兵糧その他の確保だけして、すぐに寝て明日からの体力を作れ」

 ワシはできるだけ事務的にそう言った。


「えっ? 今、頑張らずにいつ頑張るのよ」

「馬鹿者!」

 ワシはしっかりと叱責した。


「頑張ればどうにかなるという価値観は身を滅ぼす。すぐに捨てろ。じゃあ、死んでいった冒険者は全員頑張らなかったのか?」

「えっ……? いや、そんなことはなかったとは思うけど……」

 アンジェリカはワシの反応が想定外だったのか、少し声の力を落とした。


「気合いや頑張りだけで能力の低い素人が達人には勝てることはない。綿密な計画や準備のほうがはるかに有益だ。これはお前のために言ってるのではなく、レイティアさんを助けるために言っている」

 熱血で汗を流しながら治療する医者が来たら、ヤバいと思うだろう。気合いだけで突っ込まれると迷惑だ。


 セレネがうんうんとうなずいていた。

「魔王さんの言うとおりですわね。睡眠が足りてなければ集中力も低下いたしますわ。危険なダンジョンでは、それが命取りになりますから」

「うっ……。また、魔王の肩を持つんだから……」


 アンジェリカもこうなると強く出られない。仲間にたしなめられると、割とあっさりと引き下がる。


「ふふふ、アンジェリカもせっかくだから、ガルトーさんに教育してもらいなさい」

 レイティアさんまでベッドで笑っている。

「もう、私だけ悪者になってるし! わかったわよ! 冷静になるわよ!」

 そのアンジェリカを見て、セレネもまた笑った。場が少し明るくなる。


「アンジェリカ、心配せんでも、明日からは苛酷な旅になるぞ。それに備えろというだけのことだ」

「はいはい。しっかり休んでやるわよ」

 すると、アンジェリカはドアのほうに歩いていった。


「もう寝るから、明日は早く起こしてね。じゃっ」

 で、あいつは出ていった。言葉の通り、寝るんだろう。


 ……いや、明日の準備ぐらいは、やってもらってから寝てほしかったんだけど。今すぐ寝ろってことまでは言ってないんだけど。


「アンジェリカらしい。ただ、前のみを見る。もはや、何を言っても無駄」

 ナハリンが苦笑していたが、それでいいのか。お前たちももうちょっと勇者をコントロールしておいたほうがいいんじゃないか。

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