表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/178

155 魔王の家族、ダンジョンを完全に攻略する

「ママ、とくにこの泉の洞窟は歴史も長いから、新しい発見は不可能だわ。悪いけど、誰も探索してない謎の洞窟でも見つけるほうが、よっぽど簡単――」

「よいしょ、よいしょ! あっ! 岩が動いたわ!」


 レイティアさんが押した箇所の岩がたしかに前にずれたように見えた。

 アンジェリカも「え? 今、動いた?」と素の声を出していた。


「でも、途中で引っかかってるみたいね~」

 もしや、単純に押す力が弱かったから発見されてなかっただけでは?


「ワシも手伝います!」

 ワシはレイティアさんが押している岩の上のあたりに手を置いた。

 魔王の力も足せば、どうにかなるはず!

「「よいしょー!」」


 岩のひっかかりが取れた感覚があり、そこから先は面白いように前に進んだ。

「えっ! マジで? そこに何かあるの?」

 呆然としているアンジェリカを尻目にワシとレイティアさんは、ひたすら岩を押していく。


 やがて、岩を動かしていった先から、光が差してきた。

 ワシらは地上に出たのだ。


「ほら、やっぱり、つながってたんだわ。わたしもなかなか素質があるわね~」

 レイティアさんはアンジェリカに向かってドヤ顔返しのようなことをしているつもりらしい。ただし、あまりドヤ顔にはなってない。


「そんな……。私、何度も何度もここに来てたのよ……。なんで、いきなりママに新発見を持っていかれるの……」

 それは、どうせここには何もないという過信のせいではと思うが、さすがにひどいから黙っておこう。人間、自分が玄人だと思いだした時点で成長も止まってしまうのだ。


「ま、まあ……抜け道ぐらいは見つけられることもあるわ……。で、でも、発見としては難易度が低いほうだから……。五段階評価で言うと星二つぐらい……? なかなかお宝が見つかったりなんてことはないのよ……」

 こいつ、なんでレイティアさんにまで冒険者の先輩としてマウンティングをとろうとしているのだ? そこは素直に反省して、初心に返ろうとしろ!


「あらあら、土に埋もれてるけど、これって宝箱かしら」

 レイティアさんが土をすっかりかぶった箱を見つけた。

 アンジェリカが、「ぶふっ!」と噴いていた。こいつは、しょうもないことでプライドを取り繕おうとするから、かえって傷が深くなるのだ……。


 レイティアさんが開けた箱の中には、宝石がちりばめられたアイテムが出てきた。

「あら、これはペンダント? 何かの護符みたいね」


「レイティアさん、相当に貴重なアイテムですね。水の精霊の加護を受けられるものではないかと思います。本当に冒険者としての素質、ありますよ」

「じゃあ、セカンドライフは冒険者というのもアリかもね~」


 ワシら夫婦がそんな会話をしている横で、アンジェリカは白い灰みたいになっていた。


「私が長年やってきたことって、ママに一日で抜かされるようなことなの……?」

 ずいぶん、ショックを受けているが、八割は自業自得だと思うし、放置しておくか……。


 ワシらは宝箱のあった地上から、そのまま森を抜けて、帰宅した。

 おそらく、今日のワシらによって、あの洞窟は今度こそ完全に探索し尽くされただろう。



 その日の夜、アンジェリカは一つの心変わりをした。

 食卓の前に自分用のタマネギの蒸し焼きを置いているのだ。


「これで私も強くなるわ。最強の冒険者になるのよ!」

 レイティアさんに負けた(?)のがよっぽど悔しかったらしい。

「食べるのはまったくかまわんが、お前、将来、力を求めるためにいろんなものを犠牲にしそうだから、その点だけは気をつけるのだぞ」

 ある種、勇者というより、人間の考える魔王像に近い。


「大丈夫よ。ただ、ほんのちょびっと力がほしいだけだから」

 だから、セリフが勇者じゃなくて、人間の考える魔王的なんだよ……。

 こいつが魔王になると、人間を滅ぼそうとしそうな気がしてきた。こういう、自分は正しいと信じてる奴はどこの陣営に所属していても危ないものである。皇太子とはいえ、こいつに魔王を継がせるの、怖くなってきた……。


「じゃあ、いただきます! うん、おいしい!」

 タマネギは効果は別としても、ハイレベルの味だ。思う存分、味わうがいい。


「美味なうえに力も手に入るだなんて、とんだチートアイテムね!」

 別に力が必ず手に入るアイテムというわけではないぞ。おそらく、結果論だぞ。


「アンジェリカがたくさん食べるのはいいことだわ。育ち盛りだしね」

 角の生えているレイティアさんもうれしそうなので悪いことは何もない。今日からレイティアさんが作ったシチューにも例のタマネギが使われている。ただ、シチュー全体が紫色になって、あまり見た目はよくない。今後の課題だ。


「私覚醒すれば、ママを抜くような力が手に入るわ。勇者のプライドにかかわることだから、ここは負けられない!」

「お前のプライドが安くなるからあまり口にしないほうがいいぞ」


 さて、がつがつタマネギを食べたアンジェリカだったが――

 一時間過ぎても何の変化も生まれなかった。


「おかしいわ! なんで角も尻尾も生えてこないのよ!」

「医者も言っていただろうが。あのタマネギ自体は刺激が強いだけであって、必ず角が生えるようなものではないのだ」


 それと、おそらく、アンジェリカは元から血の気が多いからタマネギの刺激程度では誤差なのだろう。常時、興奮してるようなところがあるしな……。


「ああ! 私も力がほしいよ! もっと力がほしい!」

「だからあんまり口にするな! ヤバい奴にしか見えんぞ!」


 アンジェリカが変なことを口走ることになったが、レイティアさんにとったらいい思い出になったようだし、紫のタマネギはいい働きをしてくれたと思う。



魔王の妻、魔族っぽくなる編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ