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150 魔王の妻、勇者パーティーに魔族になったところを見せる

「まあ、ずっとママが魔族になられても嫌だし、もうあのタマネギを食べるのは禁止ね」

 アンジェリカに禁止されてしまった。


「毒がないのだから、食べてもいいではないか。お前も立太子の儀で角つきのカチューシャをつけるのに、とくに抵抗はなかっただろうが」

「本物の角が生えたりするのは別よ。私は食べないからね。せめて、刺激が弱そうな紫色のキャベツだとか、そういうのを食べるわ」

 そこは一理ある。タマネギはとくに刺激的だったということもあるのだろう。


「わかりましたわ~。それじゃ、この姿での生活をちょっとだけ満喫することにしようかしら」

 すべては一段落した。最初はびっくりもしたが、事情がわかってしまえば、どうということはない。アンジェリカもほっと胸を撫でおろしていた。


 しかし、レイティアさんが帰り際に残したこんな一言が少しに気になった。

「どうせなら、この姿で記念になるようなことができたらいいんだけれど、何かないかしらね」



 それから数日、レイティアさんは近所の人たちのところに角と尻尾の生えた姿であいさつに行ったらしい。

 こっちから行って状況を説明したほうが相手も落ち着くだろうし、それはよいことだと思う。


 休日に遊びにやってきたアンジェリカのパーティーの者たちもかなりの衝撃を受けていた。


「このタマネギ、高値で売れるんじゃないかな。金の匂いがする」

 ジャウニスは盗賊らしく、発想がセコい。でも、フライセは喜ぶかもしれんな。


「これで一時的に肉体も強化できるなら、武道大会でいい成績が残せそうだね。ボクもちょっとほしいかも」

 武道家のゼンケイもどちらかというとセコい感想を持っていた。お前ら男はそんなところにばかり注目するな。


 一方、神官のナハリンは手を合わせて何か一心に拝んでいた。

「悪霊退散、悪霊退散……」

 いや、そもそも霊ではないから、何も退散せんぞ。拝む分にはタダだし、好きなだけやればいいのかもしれんが。

 久しぶりにアンジェリカのパーティーが揃っているのを見るが、やはり癖が強い連中だ。冒険者という時点でお堅い職業ではないし、変わり者も多いのだろう。


 その点、パーティーで最も常識的な考え方をする魔法使いのセレネは、常識的に驚いていた。そういうのは目を見ればわかる。

「こんなこともあるんですわね……。人間というのは、まだまだ底が知れない部分がありますわ」

「セレネちゃん、魔族スタイルも慣れてくると楽しいわよ。炎も吐けちゃうし。がお~」

「ママ、危ないって! 本当に炎が出ちゃうから用心して!」

 アンジェリカがあわててレイティアさんを止めた。

 実際、炎が「ぶおっ」と少し出かかっていた。


 まだ、部屋の壁が一部、焦げたままだからな……。炎を吐ける力というのは、そこそこ危ないかもしれん。

 この家が引火しやすいガスが出ているような地域になくてよかった。魔族の土地だとちょくちょくそういうところに住んでる者もいるのだ。


 あと、カラスのネコリンはレイティアさんの尻尾に反応して、ぴょんぴょん追いかけていた。カラスでも尻尾に反応するのか。名前のとおり、ネコみたいな反応をするんだな。


 勇者パーティーもしばらくすると慣れたらしく、ダイニングで雑談をはじめた。

 ワシもアンジェリカの友達のことなので、同席して話を聞いている。


「それじゃ、次のダンジョンの計画だけど、北部のこの山が面白そうだね」

 ゼンケイが地図を出してきた。その地図にはやたらとメモらしきものが書いてある。宝の情報みたいなのもあるので、ジャウニスの字だろう。


「よさそうね。空気もきれいそうだし、次はここにしてみようかしら」

「ただ、今は北部の山は雪が積もってるから、二か月ほど先にしたほうがいいですわ。高い薬草も雪に埋もれて見えませんし」


「それは絶対、雪がなくなってからにしようね! 金目のものがないのに遠方まで行くのは俺っちは勘弁したいよ……」

「――ということで、ジャウニスもああ言ってることですし、異論がないようでしたら二か月先に予定を合わせましょう」

 セレネの言葉にほかのパーティー全員がうなずいた。


 ああ、この者たちは根っからの冒険者なのだな。性格は違えど、計画を建てている時、どいつもこいつも楽しそうな目をしている。


 ワシは計画を聞きながら感心していた。これだけ充実した人生を送れているのなら、その人生はきっと成功と呼べるだろう。


 もう一人感心している人がいた。

 レイティアさんも見守るような目でその様子を眺めている。

 娘が頑張っているところを見ているようなものだし、しかも楽しそうにしているとわかるのだから、それも当然か。


 けれど、結論から言うと、ワシの考えは違っていた。



 夕方になって、冒険者パーティーの連中は帰っていった。

 いつもの食卓だ。ちなみにフライセから買ったタマネギ以外の野菜は影響がないので、アンジェリカも食べている(それでも、最初に食べる時は抵抗を示したが……)。


 タマネギに関してはワシだけで消費することになったので、個人的にタマネギ料理を作っている。タマネギ自体は美味だが、だんだんと飽きてきた。


 とくに味が濃くて自己主張が強いので、添え物にならんのだ。あくまでもタマネギが主役の料理になってしまい、目立ちすぎる。その分、飽きも早い。困ったものである。

 もっとも、今日のタマネギ料理はなかなかの出来栄えだ。それを一人でたいらげるので、なかなか空しいが……。


「うむ、タマネギを羊の肉と一緒に甘ダレで焼いたこの料理は美味いな。美味いぞ」

「魔王、説明口調にもほどがあるわよ。どれだけオススメしても食べないからね」

 アンジェリカは徹底的にタマネギを忌避している。


「豪快なところがあって、おいしそうなのにね。わたしは食べたいんだけど」

「ママもダメ。定期的に食べてたら、いつまでたっても、その魔族のスタイルから変わらなくなるでしょ。魔王の策略に乗らないで」

 そんな策略などなくて、単純にいい出来なので食べてほしいだけなんだが……。かといって、いつまでも魔族の姿のままというのも、問題かもしれん。


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