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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、義理の娘と山に行って親睦深める作戦に出る編
15/178

15 少なくとも戦友

本日中にもう一度更新します!

「目指すは頂上あたりにあるとされる伝説の剣だな」

「ええ、もちろんよ!」

 ただ、そこでアンジェリカはちょっと気弱な表情になる。


「とはいえ、またその道を引き返すとなると、骨も折れそうだけどね……。魔王がいるから全滅することはないと思うけど……」

 ワシは素直に感心した。

「そうか。本当にとことん自分の足で道を切り開く気なのだな。いやあ、やはりお前は勇者だ」


「どういうこと? 戻るのは当然でしょ?」

「うん、お前はいつか歴代の勇者の中でも伝説的な勇者となるだろう」

「そんなこと言っても魔王を倒せないから、伝説になるの難しいんだけど……。あなたをうかつに殺したら、親殺しってことになるし……まあ、そこは五歩譲っていいとしても、ママが悲しむことはできないわ」


 せめて五十歩ぐらい譲れよ。ちょっとした譲歩で殺す気か……。

 だが、アンジェリカが母親思いであることがわかっただけでもよしとしよう。

 思いやりのある人間となら、ワシも仲良くなれるチャンスはおおいにある。


 頂上に近づいていくと、道はわかりやすくなるが、その分、戦闘は激しくなった。


「げっ! ドレイクまで襲ってくるの!?」

 小型のドラゴンとすら呼ばれるドレイクがアンジェリカを狙う。

 尾根伝いの道は森などが切れていて眺望がいい分、空を飛ぶモンスターからも丸見えとなるのだ。


「ねえ、こいつらも魔族じゃないの? 魔王の力で止められないの?」

「ドラゴンは知能も高いので、魔族の社会に属しているが、ドレイクはモンスターだ。子供から育てれば飼い慣らすことぐらいはできるかもしれんが」

「つまり、戦うしかないってことね……。一対一はまあまあきついんだけど……やるっきゃない!」


 ここはワシも支えてやらねばならんな。アンジェリカ一人で倒せるのは二体が限度だろう。一人だと回復魔法を唱えている時間的ロスがかなり手痛い。

 ワシはアンジェリカの前に出た。


「ワシが壁になってやる! 攻撃を仕掛けたら、すぐに後ろに戻れ!」

「わかったわ。今だけはあなたと共闘してあげる。背に腹は代えられないってやつね」

「娘が父親に頼るのはごく自然なことだ。遠慮するな」

「はいはい。こんな危険なことをやってくれるのは魔王か親ぐらいのものよ」


 まだアンジェリカにも軽口を叩ける程度の余力はある。

 ドレイクに浅く切りつけると、すぐさまワシの後ろに隠れる。それでよい。このクラスのモンスターとは長期戦が避けられない。じっくり相手の体力を奪っていく方法にならざるをえないのだ。

 だが、純粋な戦力以上にこちらは不利だった。向こうは空を飛べる。こちらはやせ細った尾根筋に陣取っている。一歩間違えば、崖に落下する。


 アンジェリカが足を踏み外しかけたので、ワシが腕を引っ張り上げた。

 それぐらいの反射神経は魔王なのである。


「ここから落ちると、救助が大変だぞ」

「助かったわ……。魔王の城での戦闘より危ないわね……」

「それはお前があの城をしっかり攻略してないせいだ。ほぼ最短ルートでワシのところまで行ったからだろう。無茶苦茶危ない部屋もいくつも用意してある」

「まさか、魔王に助けられるなんてね」

「義理だが父親でもあるからな」

「……そうね」


 ふっと、アンジェリカがはにかむように笑みを浮かべた。

 よし! 今のは娘との距離、縮まったぞ!

 まあ、腕をつかんだから物理的な距離も縮まったわけだが、精神的なほうもずいぶんと縮まったと思う。


 今のワシらには友情のようなものが芽生えている。

 ともに戦場を戦うことによる信頼関係! それはたんなる登山などよりはるかに大きい!


 モンスターがこんなにアンジェリカを狙うのは想定外だったが、上出来ではないか。


 では、少し娘に楽をさせてやるかな。

 ワシは腕を前に突き出した。


ぜよ!」

 ドレイクの腹が爆発して、そのまま落下していった。


「えっ、なにそれ……。ズルくない?」

「爆発魔法だ。お前たちのパーティーと戦った時にも使っただろう。……いや、使ってなかったか。あれはもっとこちらが追い詰められた時に使うものだった。お前ら、第一段階で返り討ちだったからな……」

「悲しくなるようなこと言わないでよ! なによ、魔王のところに行けても、全然惜しくなかったんじゃん……」

 アンジェリカが落胆していたが、こっちとしては当初の目標は達したも同然なのでかまわん。


 もはや、山頂は近い。

 ワシらは険しい道を歩き――

 山頂付近の小さな洞穴で、ついにそれを見つけた。


「あっ、宝箱がこんなところに! しかも錆びてないきれいなやつ!」

 うっ……。そこはもっと古い箱とか用意しろよ……。設置した部下の仕事が雑だった。バレたらどうするんだ!


 だが、アンジェリカは気にせず、宝箱を開けた。

 そこから出てきたのは、細身だが実に鍛え抜かれた名刀と言っていい一品。


「すごい……。これ、間違いなく、今まで使ってた剣よりも立派……。天使がもたらしたって話も信じられる……」

 本当は魔族の刀工が作ったものだが、それでも魔族国宝の刀工の仕事によるものだ。すごい剣には違いない。

 立場上、魔王なので立派な剣は事あるごとに献上されたりする。なので、城の倉庫にはこれぐらいはごろごろ転がっている。


「よくやったな。これはお前が苦労して山に登った報酬だ」

「いいえ、私だけの力じゃないわ」


 アンジェリカが手を伸ばしてきた。


「魔王、あなたとパーティーを組んだからこそできたことよ。礼を言うわ」

 来た! もはや、ワシらは戦友だ! レイティアさんもきっと仲良くなったワシらを喜んでくれるだろう!


「娘を助けるのは当然のことだ」

 ワシもその手を握った。

 若い娘にしては鍛え抜かれた手ではないか。


 そこで、アンジェリカは青い顔になった。

「さてと……問題はこれまでの道をまた引き返さないといけないことなんだけどさ……。でも、やるしかないか……」

「そんなにつらいなら、すぐに家に帰るか?」

 こっちとしても目的は達したしな。


「いや、そんな都合いいことできないでしょ」

 やはり見上げた根性だ。帰りもアンジェリカは苦労しながらも、ついに下山しきったのだった。


「よくやった、アンジェリカ。きっとレイティアさんも褒めてくれるぞ。お前こそ真の勇者だ」

「そりゃ、せっかくいい武器を手に入れて、帰路で屍になるなんてやってられないからね……」

 肩で息をしながらアンジェリカが言った。


「空間転移魔法を使えば、頂上からでも一瞬で家に戻れたのにな」


 アンジェリカがぽかんとした顔になっていた。

「忘れたのか? 一度行ったことがあり、かつ具体的にイメージできる場所なら移動できる」

「……も、もっと……早く言え~っ! 死ぬ気で戦ってたのに! なんか損した気分っ!」


 新しい剣をアンジェリカが振り回してきた!

「おい! それ、けっこう危ないんだ! やめろ!」

「うっさい! やっぱり、あなた最悪だわ!」

「言おうとしたけど、お前が言えないような空気を作ったり、さえぎったりしたんだ! こっちのせいにだけするのはおかしいだろうが!」

「うっさい、うっさい!」


 義理の娘との仲は一歩進んで三歩ぐらい戻ったかもしれない……。


義理の娘と登山編はこれでおしまいです。次回からは新展開です!

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