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149 魔王、妻を医者に連れていく

「違う! 食べると人間が魔族になる野菜があるなんて初耳だ!」

「一応信じてあげるわ。食べるのを思いとどまって正解だった。ダンジョンでも得体の知れないものは食べないのが鉄則なのよ……」


 アンジェリカは恐ろしいものを見る顔で、タマネギに視線を向けた。そんな、もうちょっとのところで毒殺されるところだったみたいな反応はしないでほしい。野菜に罪はないのだ。

 いや、野菜に罪はあるのか。こうなったのは、野菜のせいだしな。


「ママ、本当に大丈夫? 邪悪な気持ちで 心が支配されたりしてない?」

「アンジェリカ、気にしすぎよ。どう見てもいつものママでしょ?」

「ヴィジュアル的には、いつものママじゃないから気にしてるのよ!」


 ワシももっとおろおろするべきな気がしてきた。冷たい奴に見られては困る。

 だが、レイティアさんよりおろおろしたのでは害悪のようなものだしなあ……。


「レイティアさん、角と尻尾以外に肉体に変化はなさそうですか?」

「どこも痛いところもないですよ~。そうね、たとえば炎を吐いたりできるのかしら。がお~、がお~」

 レイティアさんは両手を上に上げて、おそらく襲いかかるぞというようなポーズをとった。ぶっちゃけかわいいので、そのまま襲いかかってほしくもある。


 ――その口から炎が出た。

 ブワアアアアアアアッ!

 奥の壁に炎が当たって、少しばかり黒く焦げた……。

 わずかな間ではあったが、威力としてはそれなりのものだった気が……。


「あらら、本当の炎が出ちゃったわね。これは気をつけないと火事になってしまうわ」

「ママ、完全に特異体質になってるわよ! ていうか、魔王より確実に人間離れしてるし!」

 たしかにワシは口から炎までは吐けない。大半の魔族もそんな火竜みたいなことはできん……。


 さて、そろそろ本格的に行動を起こさんといかんな。

「レイティアさん、今から城に詰めている医者のところに向かいましょう」

 状況確認と、できれば、どうしてこんなことになったかも知りたいところだ。


「ですよね。知らないうちに炎を吐いて、家が燃えてしまったら大変だもの。寝てる間に火を吐かないかの確認はしたいわ」

 やっぱり、どこかずれてる気もするが、火事の防止も大事なことだから間違ってもいないのか。



 空間転移魔法があるおかげで、城に飛んでそこの医者に診察を受けることは容易だった。

 なお、アンジェリカも家で待つ気になれないということでついてきた。事態が事態だから、家で待っていろとも言えない。


 今日の担当もメデューサの女医、シュローフだ。過去におめでただという判断をした医者である。レイティアさんとも面識がある者だったのは不幸中の幸いか。


 シュローフもレイティアさんに角と尻尾が生えていたことにあきれていたが、紫色のタマネギを見せたら、何か腑に落ちたようだった。


「ああ、これはまた、とてつもなく栄養価の高いタマネギを食べましたね……。気になってるでしょうから、先に断っておきますが、危険はないです。むしろ、栄養満点で健康なぐらいだと思います」

 最重要ポイントはこれでクリアできた。

 有害じゃないということがわかったので、ひとまず一息つける。今のレイティアさんが一息つくと、火事になるおそれがあるけど。


 では、第二の点を確認しよう。


「このタマネギには、人間を魔族に変えるような、そんな異常な効能があるのか?」

 ワシもアンジェリカも、そこが知りたい。レイティアさんは案外、どうでもいい可能性がある。


 シュローフは首を横に振った。

「いえ、あくまでも栄養価の高いタマネギです。しかし、栄養価が高すぎることで、こういう事態が起きてしまったようですね。人間の土地にはない品種なので、まず、こういった問題は起こらないんですが」


「じゃあ、栄養価が高い食事は人間を魔族に変えてしまうってこと?」

 アンジェリカが首を前に突き出して尋ねた。

 今度はシュローフは首を縦に振る。


「基本的には、『YES』です」

 アンジェリカがそんなバカなという顔をした。ワシも正直、信じられん。

「言葉だけでは承服できないですよね。その仕組みについて、簡単に説明いたしますね」


 シュローフはワシが持ってきたタマネギを手に取り、逆の人差し指で指差した。


「このタマネギはいわば滋養強壮の爆弾とでも言うべきものです。しかもタマネギは刺激性も強い食品なので、その効果も大きいんです」

 この時点では有害というように聞こえるな……。


「その刺激によって、王妃様の血に入っていた遠い魔族の記憶が呼び起こされてしまったということでしょうね。いわば、先祖返りです」

 聞き逃せないようなことをシュローフは言う。


 案の定、アンジェリカが反応した。

「ちょっと、ちょっと! それってママの一族が過去にも魔族と結婚してたってこと?」


「でしょうね。ですが、決してありえないようなことでも、奇跡のようなことでもないです。何千年、何万年とさかのぼっていけば、魔族と人間の間に通婚がまったくなかったと考えるほうが不自然です。そもそも、はるかな過去には魔族と人間は完全に同じ種だったという話もありますから」


 シュローフは診察室のボードにさかのぼる系図みたいなものを書いていった。ちょっとトーナメント表に似ている。

 今のレイティアさんが生まれるまでに、とんでもない数の先祖がいることになる。

 一世代、さかのぼるごとに先祖の数は一気に増えていく。


「先祖の数も何千、何万といれば魔族が混じっていてもおかしくないでしょう。その血がタマネギの威力で一時的に眠りを覚まされ、魔族の特徴が出たということですね」

「なるほどね~。忘れていたことを久しぶりに思い出したってことなのね~」

 レイティアさんは尻尾を首に巻いたりしていた。もう、すっかり使いこなしている。


「はるか昔のご先祖様の力が復活するだなんて、ロマンがある話だわ」

 自分の体の変化をロマンで片付けるって、魔族でもなかなかいないぞ。アンジェリカもほどほどに見習ったら、もっと落ち着いた性格になるんじゃないか。


「ところで、この角や尻尾はいつまで続くのかしら~?」

「長くても二週間というところではないですか。病気ではありませんので、そこはご安心を。繰り返しますが、このタマネギには毒性はありませんから」


 ならば家族の心配はこれでなくなったということだ。

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