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148 魔王、妻が落ち着きすぎていてあきれる

「お前なあ、なんでレイティアさんに毒を食わさんといかんのだ。そんなこと絶対にせんし、しかも、ワシも事前に食べている。しかも、それを日常的に食べている奴もぴんぴんしていた。これだけ大丈夫という証拠が揃っていて、問題があるわけない」


「理屈ではわかるわよ。だけど、怖さはあるの……。念には念を入れて避けたいわね」

 どこまで疑り深いのだ。冒険者というのはよく死線をくぐるから、慎重にならないといけないのはわかるが、親の持ってきた食材を見た目だけで判断して怖がるのはやりすぎだぞ。


 もっとも、アンジェリカもそこまで本気で疑っているわけでもない。

 レイティアさんが食べているのを止めたりしないことからでも、それはうかがえる。あまり乗り気になれないといった程度のことだろう。見た目はお世辞にも美味という雰囲気もないしな。


「アンジェリカ、用心しすぎよ~。ママ、おやつを食べたのかなって思ったぐらいだわ。タマネギ観が変わるから食べてみなさいよ」

 ほら、レイティアさんもワシの味方だ。多数決でもこっちに分がある。


「ま、まあ……ほかにもおかずはあるし、まずはほかのを食べてからでもいいでしょ」

 アンジェリカは極力避けるつもりらしい。

 好きにすればいい。このタマネギの真価を知るのは時間の問題だ。


 今回の件はフライセに感謝せねばならんな。厳密にはフライセの治めるダットルという土地の農家の方にだが。狭い土地でもこれだけのものを作れるなら、十分に暮らしていけるだろう。


 けれど――そこで変なことが起こった。

 レイティアさんが胸を押さえたのだ。


「あらら、なんでかしら。ずいぶんと胸が熱いわね」

「ママ、大丈夫? 毒のせいで苦しいんじゃない?」

 アンジェリカがすぐにタマネギを疑った。

 そんなことあるわけない――と言いたいところだが、ワシとしてもレイティアさんの体調に変化があった以上、等閑視はできん。


「レイティアさん、異常があるようでしたら、すぐに回復魔法をかけたうえで、医者に連れていきます!」

 レイティアさんはワシらに向かって笑みを見せた。

「二人とも、心配しすぎよ~。胸が苦しいんじゃなくて、熱いだけだから~。お酒を飲んだ時に近いような感覚かしら。でも、お酒は飲んでないのにおかしいわね」


 どうやら、至急どうにかしないといけないということはないようだ。それでも、あのタマネギが原因ということは容易に考えられるので、気がかりな部分はある。


「きっと、栄養がありすぎて、のぼせたようになっちゃってるんでしょうね。ちっとも苦しくないから大丈夫よ~」


 今はレイティアさんの言葉を信じたいところだ。

 体が芯からあったまるということはありうる。


 しかし、それだけでは終わらなかった。

 今度はレイティアさんが頭を軽く押さえた。


「ママ、頭痛でもするの?」

「違うわよ。頭がね、むずむずするの。それと、お尻も同じようにむずむずするわね」

 どういうことだ? お尻がむずむずする毒なんて聞いたことがないぞ。


「あっ、むずむずは消えたわ。よかったわ~」

 もっとも、それは症状が表に出てきたせいだった。


 レイティアさんの頭から突如、二本の角が生えてきて――

 さらには尻尾までが現れたのだ!


 魔族そのものの姿になっている!


「わー! ママ! 大変よ、大変! 大変! 大変!」

 アンジェリカがパニックになって、語彙力が低下している。


 一方、ワシは呆然とその様子を見つめていた。


 一方、レイティアさんはというと、表情のほうはいつものほんわかとしていて、それでいて母性にあふれたもののままだった。とくに苦悶の声を漏らしているだなんてこともない。


 角と尻尾がなければ、完全に普段のレイティアさんである。


 レイティアさんは頭の角に手を伸ばした。

「あら、ちょうどむずむずしてたところに、何かついてるわね」

「はい、角が生えてます」

「魔王、淡々と説明してる場合じゃないでしょ! 角がママに! ママに角が!」


 いや、こういう時、アンジェリカみたいに全員取り乱すと共倒れになる危険がある。冷静になっておかんとかんのだ。

 ていうか、冒険者なんだから、そこは不測の事態でも適切に対処しようとしろ……。


「それと、尻尾も生えています、レイティアさん……」

 レイティアさんは尻尾を動かして、自分の腕のほうに持ってきた。

 尻尾はどの魔族にでもあるというわけではないが、ついている者もそれなりにいる。なお、レイティアさんのものはかなり長いほうだ。フライセよりもずっと長い。


「へ~、これが尻尾ね~。毛が多くてマフラーみたいだわ」

 レイティアさんはその尻尾を触って楽しんでいる。

 まるで昔から尻尾があったかのような落ち着きぶりである。


 だいたい、こういう時って本人が一番パニックになるから、それをほかの者が落ち着かせるものだと思うが、レイティアさん本人が平常運転なので、ワシもかえってどうしていいかわからん。


「ちょっと、鏡で様子を見てくるわね~」

 レイティアさんは洗面所のほうに向かった。

 一分ほどして楽しそうに戻ってきた。


「角もしっかり生えてるわ~。魔族になっちゃったわね~」

 さすがに神経、図太すぎる!

 レイティアさんが堂々としているのは前々から知っていたが、ここまでか! ワシだって尻尾が生えたら、もうちょっと気が動顛どうてんするぞ!


「あの、改めてお聞きしますが、何ともないですか?」

「尻尾をつねると痛いから痛覚はあるみたいね。踏まないようにしてね」

 違う。そういう細かいことを聞きたかったわけではない……。


 アンジェリカがぽんぽんとワシの肩を叩いてきた。

 振り返ると、疑惑に満ちた顔をしていた。


「魔王、あなた、ママを魔族にするためにあのタマネギを食べさせたんじゃないでしょうね?」

 疑われている!?

 だが、疑われてもやむをえんかもしれん。しかも勇者的な嫌な予感が的中したようなものだし……。


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