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146 魔王、野菜を買う

「もしかして、商品価値のない野菜をどこかの農家からタダで譲り受けているだとか、そういったことか?」

 それならコスト0の理由もわかる。


「いえ、私もこれでも貴族のはしくれですよ。そんなことしません。さあ、問題です。どうやって私はこの野菜を手に入れたでしょう?」

 またトルアリーナが「本当にはしくれですけどね」と言った。言ってやるなよ。


「じゃあ、近所に生えてるものを拾ってきたのか?」

「いえ、世の中、こんないかにも野菜という野菜は生えてませんよ。少なくとも、この中には含まれてません」

 この言い方だと、ちょくちょく雑草も活用してるな。まあ、個人の自由だし、おいしい野草もあるとは思うが。


 と、トルアリーナがフライセの肩にぽんぽんと手を置いた。

「フライセさん、窃盗はいけません。おとなしく自首してください」


「ちょっと! さっきから信用が低すぎませんか!?」

「あなたの立場ですと、新聞に『魔王の執務室で働く職員が窃盗で逮捕』と報道されてしまい、大変迷惑です。いや、それなら、このまま隠し通してもらうほうがいいですね。やっぱり自主しなくていいです」


「だから、野菜は盗んでません! もっと貴族らしい入手の仕方をしてます! さっきからヒントも匂わせてるのに、当てる気ないでしょ!」

 だって、フライセから貴族的な要素などどこにもないしな。


「まあ、犯罪をやってないなら別に何でもいい。答えを教えろ」

「問題なんだから、わずかでも考えようとしてくださいよ……。私があほみたいじゃないですか……」


 だが、フライセの口にした真相は、たしかに貴族らしいものだった。

「これは自分の領内から送られてきた野菜なんです! だから、無料で手に入った品物なんですよ!」


 初めてフライセの貴族らしい一面を見た!


「領内の農家五軒から新鮮な取れたて野菜を産地直送でもらっているわけです。青果店で買ったらすっごく高いような食材がタダで手に入るんですよ。だから肉を入れたりしなくても、野菜だけで十分においしいんです」


 フライセはドヤ顔している。こいつが昼食を食堂で揚げ物中心にするのもそのせいか。そこでバランスをとっているんだな。


 ただ、ドヤ顔は長くは続かなかった。

「本当は土地を貸したりして、そこから入る収入で食っていけたりすれば最高なんですが……田舎すぎてそんな話、いっこうに来ないんですよね……」

「そっか、この野菜は貢納の一種か……」

 農家にとっても個人消費用の野菜なんてたかがしれてるだろうし、気楽に送ってくるのだろう。



「ですが! ですが! この野菜はどれもハイスペックなんです! その点に関しては保証できます! たとえば農家のバルエンジさんが丹精込めて育てた紫色のタマネギ、なんと通常のタマネギの三十倍の栄養素があるそうです!」

 その発言にワシはぴくっと反応した。


「三十倍だと?」

 それは本当にとんでもないぞ!


「そうです。この紫色の部分は、ええと、なんとかって成分が多く含まれていて、それで通常のタマネギよりもなんとかがはるかに多いわけです。すごいですね」

「肝心な名詞の部分がぼやけていて、よくわからん」

 もっとも、成分の名前を聞いても正しいのか判断できんけど。


「こっちの農家のドベッスさんが毎朝おはようと言い続けて育てた紫色のカブも、なんとかが通常のカブの五十倍も含まれているんです!」

「おはようと言ったことは確実に関係ないと思います」


 トルアリーナが冷たく指摘した。

「でも、トルアリーナさんも推しのアイドルが毎朝おはようって囁いた野菜は栄養価が高くなると思うでしょう?」

「ですね」

 淡々としたテンションで納得するな。


 ただ、おはよう問題は別としても、やっぱり、その栄養は魅力的だ。


「どれも生産量が少なくて、市場に出回ってない貴重な野菜ですよー! これで健康的な生活をエンジョイすることも可能というわけです!」

 ワシはそのタマネギを一つ手に取った。


 紫というより、ほぼ黒だな。色のせいか、やけに重く見えるが、一般的なタマネギよりはるかにずしりとしている。タマネギ自身が俺は栄養のかたまりだぞと主張しているかのようだった。


 これこそ、ワシが追い求めていた答えではなかろうか。


「なあ、フライセよ」

「はい、何でしょうか? 私を愛人にすると、もれなくこんな高品質の野菜がついてきますよ!」

 自分より野菜をプッシュするっていうのもどうなんだ。


「この野菜、売ってくれんか? 金はそれなりに払う」

「それは、もしかして……………………プロポーズですか?」

「なんでだよ」


 どういう解釈をしても、そうはならんだろ。


「栄養のある野菜がほしいのだ。望みの額を言え。それを払おう」

 なにせ魔王だからな。こういうところでは強気になれる。無論、国家予算の一パーセントをお願いしますなんて言われたら無理だが。


「やったー! 現金収入だー! 野菜で現金収入が手に入るんだー!」

 フライセはあほみたいにはしゃいでいる。本当にあほなだけかもしれん。


「それでは魔王様、タマネギが一つ二百魔族ゴールド、カブが一つ、百五十魔族ゴールド、キャベツは三百五十魔族ゴールドでいかがでしょうか?」

 フライセ、こういうところで値段を吹っかけてこないあたり、根は案外堅実な奴なのかな……。


 ワシはとりあえず、今日フライセが持ってきた野菜をいくつか購入した。

「これで今日のC定食にはデザートをつけますよ! 午前中に頑張った自分にご褒美です!」


「魔王様、あそこまで庶民的に生きて、小さな幸せを喜ぶことができるのって、一周して幸せなことかもしれませんね」

 一部始終を見ていたトルアリーナが淡々と感想を述べた。

「そうだな。幸せというのは、そのへんに転がっているのかもしれんな……」


 それはそれとして、素晴らしい食材が手に入った。

 ワシは早速、野菜の調理法について城の図書館で調べた。

 料理コーナーで調べたら、あっさりと見つかった。いきなり栄養学だとか専門的なところに踏み込まずに、まずはそっちを探すべきだったのだ。


「ふむふむ、『素材の味を楽しむならタマネギは庭で蒸し焼きにすると、甘みが強く出る。いいタマネギならそうやって楽しむことができる』と書いてあるな」

 これならすぐにでも試せそうだ。

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[一言] 146話ですが、 と、トルアリーナがフライセの肩にぽんぽんと手を置いた。 「フライセさん、窃盗はいけません。おとなしく自首してください」 「ちょっと! さっきから信用が低すぎませんか…
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