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135 魔王の一家、お見合いへ行く支度をする

 こんな奴は娘を任せるには足りんと思ったら、がつんと言ってやって断るべきなのだろうか。

 だが……。


「あいつ、勇者だからなあ……。ナチュラルに逃避行ぐらいはできるし、実行するんだよなあ……」

 ワシは頭を抱えた。

 冒険者は旅をするのが仕事みたいなものだ。いくらでも、飛び出せる。


「そこは、勇者の母親と再婚するというイレギュラーなことをした魔王様の責任です。好きなだけ苦しんでください」

 家族の問題の話をすると、トルアリーナがより塩対応になる気がする。


「二人とも待ってください! この話には何か裏があるはずです!」

 いきなり、フライセがばーんと立ち上がって言った。

 で、体調があまり思わしくないのか、また座った。何がしたいんだ。

「うう……。やはり、空気が悪いです……、魔王様、瘴気を発しすぎですよ……」


「それで、フライセ、裏があるってどういうことだ?」

「結婚なんて遺産目当てとか、何か打算がないとやらないじゃないですか」 

「お前はお前で、結婚観がゆがみすぎている」


 金に困っているがゆえに、金のことしか頭にない魔族になっているな。

「この世に真実の愛なんてないですよ」

 断言するな。

「アイドルへの気持ちは真実の愛です」

 落ち着いた声でトルアリーナが余計なことを言った。


「まあまあ。万が一、仮に愛があったとしてもですよ? そこに結婚という契約関係はいらないはずです。愛し合ってる二人がいる――以上! それでいいはずじゃないですか。やっぱり、結婚にはメリットがあるからやるんだと思います」

「お前も、たまには鋭いことを言うんだな」


 フライセの意見も極端だと思うが、参考にはなる。

 たしかに愛し合うことと、結婚することの間に必然的な結びつきはない。

 それどころか、政略結婚の中には、愛を一切介在させずに行う結婚もあるだろう。


「まして、お相手の四男は何者かいまいち情報がつかめないらしいんでしたよね? 事情があるに決まってますよ。少なくとも、向こうの諸侯としては結婚してもらうことが得になるんです」


「ふむ……。まあ、損になるなら結婚したいと言ってこないか」

 アンジェリカとそのサイコスという男との間に面識もないわけだし、「真実の愛」がすでに発生している可能性は少なくともない。その点は少しワシを安堵させた。


「だから、何か裏があるんです。気をつけてください!」

「わかった。お前の注意は心に留めておく」

 大きな政治的陰謀の可能性はありうる。ワシは魔王だから、そんなことには慣れっこにはなっている。そこは魔王であるがゆえの有名税のようなものだと諦めている。


 だが、そこにアンジェリカが巻き込まれて、傷つくことだけは避けたい。

 一本気な奴だから、それこそ詐欺師を本気で愛してしまって、裏切られるなんてことはないようにせねば。

 もし、娘の心を弄ぶようなことをする奴がいたら、八つ裂きにしても許してやらんからな。


「魔王様、今回の騒動で傷つくようなことがあったら、私の胸に飛び込んできてください! 慰めてあげますから!」

 ばんばん、フライセは自分の胸を叩いた。


「いや、それはないから、心配せんでいい」

 そんな時は、レイティアさんに慰めてもらうわ!



 そして、アンジェリカとルーベ侯の四男サイコスが面会する日がやってきた。


「おはよう、ママ、それと魔王! 今日もいい天気ね……はっははは……」

 アンジェリカの目を見て、すぐにわかった。

 こいつ、緊張して眠れてないな。だから、テンションが妙に高くなっている。


「まあ、こういうのはいつもどおりの態度で臨めばいいのよね、いつもどおりで! うん、やれてる、やれてる! はっははははは!」

「全然いつもどおりじゃないから、ひとまず顔でも洗ってこい!」


 かく言うワシもまともに眠れていなかった。

 寝室で心配事をレイティアさんに漏らしてもいた。レイティアさんには「はじまる前から不安になってもしょうがないです、ゆっくり寝てください」と言われた。


 そのとおりなのだが、脳内にありとあらゆる選択肢のようなものが生まれてきて、とても心穏やかではいられなかった。


 アンジェリカが顔を洗いに行ったところで、レイティアさんがワシの手をそっと握った。

「あの子もけっこうしっかりしなきゃいけない時はしっかりしてますよ。だいたいは、任せておいて大丈夫ですから。わたしたちは見守っていてあげていればいいんです」

「は、はい……。そうですな……。親としてもっと泰然自若とした態度でいるようにしなければ……。どうにも気持ちが浮わついてしまっております」


「その代わり、アンジェリカだけでどうしていいかわからないことがあったら、アドバイスをしてあげる。それぐらいでいいと思います」

「いやはや、まったくです。こほん、こほん……」


 ワシは淡々と相手を見定めればいい。

 それで淡々とアンジェリカの手助けとなるような判断を下せばいい。


 すると、洗面所のほうからアンジェリカの声がした。

「ママ、ドレスを着るから、手伝って! 言うまでもないけど、魔王は来ないでね!」

 ああ、正装にならねばいけない日なのだった。


「あなた、それじゃ、わたしは行ってきますね」

 レイティアさんは最後にワシの手をもう一度、ぎゅっと強く握った。


 ワシは勇気をもらった。堂々と仕事をこなすぞ。



 会談の場所はルーベ侯の持つ、海沿いの別荘で行われることになった。

 ワシは行ったことのない町なので、空間転移の魔法で一気には向かえない。まず、近くの町まで魔法で移動して、そこから馬車に乗り換える。いきなり、魔法で到着というのも、心を落ち着けづらいからちょうどよい。


 ドレス姿のアンジェリカはなかなか様になっていた。

 肩を出しているのがちょっと気になるが、式典用のドレスとしては許容範囲であろう。とくにいやらしい印象はなく、清潔感がある。


「こういうドレス、冒険で着ることはないから、ふわふわした変な気分だわ」

「そんな服で戦闘に出る奴はそりゃおらんだろう。どこかの湖に住む精霊だとか、そういう類ならありうるかもしれんがな」

「魔王が出会った人間は大半が冒険者だものね。人間っていうと、武装した奴ってイメージなんでしょ」

 皮肉を言われたが、だいたい正しい。

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