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133 魔王、娘がお見合いをOKしたことに混乱する

 ワシなどそのレイティアさんの笑みを見るだけで心が浄化されていくような気さえする。

「魔王、ダメージ受けてるんじゃない? ママ、また発光してるけど」

 しまった、レイティアさんが本当に光を放っていた!


 まだ、レイティアさんはたまに光る時があるのだ。これはどうも魔族のワシに悪影響を与えるらしい……。命にかかわることじゃないがじんわりと疲労感が残る……。


「ガルトーさん、大丈夫ですか?」

「これぐらいは耐えられますので……。それよりも――」

「夕飯のことですか? おなかすいちゃいましたよね」

 違います。


 ワシはテーブルをどんと叩いた。

「使者殿、婚約の件は重大事ゆえ、家族でも協議して決めたい。それでよろしいか?」

 使者は頭を下げた。

「承知つかまつりました。一家だんらんの時間を奪ってしまい、申し訳ない」

 まったくだ。



 使者が帰って、ようやく家に平穏が戻った。

 最も、そんなにのんびりしてもいられないのだが……。


「まさか、人間の国の側でもアンジェリカとの結婚を画策する者がおるとは……」

「人間の国のほうでもってどういうこと?」

 しまった、口がすべった。


「ああ、そりゃ、魔族の側でも、お前は皇太子だからそんな話だって出る。だが、レイティアさんの懐妊が伝わってないという面も大きいから、今は断っておるほうがよいだろう?」

「それはそうね。魔族との結婚なんてぞっとしないし」

 魔族の父親の前でそういうことを言うな。


 でも、アンジェリカが魔族と結婚する意志がないとはっきりわかったので、対象が人間の男にしぼられることになった。話としてはわかりやすくなった。


 ちなみに、使者は資料を置いていった。


 アンジェリカを望んでいるお相手はルーベ侯の四男だという。マスゲニア王国は基本的には長子相続が一般的なので(魔族の世界では強い奴が相続権を得ることも多い)、四男では将来ルーベ侯を継承する可能性は低い立場だろう。

 それなら、婿として、どこかにやりたいというルーベ侯の意図も含まれているのではないか。あるいは四男のほうも地元でくすぶるぐらいなら、外で羽ばたきたいという気持ちもあるかもしれん。


「それで、アンジェリカ、ルーベ侯の四男との婚約だが」

 まあ、アンジェリカのことだ。自分には早いと言って断るだろう。そう言ってくれれば、ひとまずのところ、一件落着だ。


「うん……。そうね……。婚約か……」

 予想外の歯切れの悪い返事だった。

「あらら、アンジェリカ、照れちゃってるのかしら~?」

 レイティアさんが楽しそうに言う。


「会ってみるぐらいなら、いい……かも……?」

 げっ!? まさかそういう反応になるとは!


「お前、正気か!? 付き合ったこともない奴と、いきなり婚約の話になっておるんだぞ?」

「放っておいてよ! それに魔王だって、王族なんだから、結婚経験はあっても交際経験はないんじゃないの? 同じようなものでしょ!」


「…………そういうわけでもなかったんだ。ササヤとの結婚はなかば強引に決めたようなものだし……」

 アンジェリカが目をぱちぱちさせていた。


「え? そうなの?」

「魔王である以上、結婚の候補がやたらといたことはたしかだ。その中で、ササヤは決して上位に来るような家柄ではなかった。だから、お互いに結婚できるために…………この話、やめにしないか?」

 なんとも、こそばゆい。

 他人のノロケを聞かされるのも辛抱ならんが、自分の恋のなれそめを語るのもきついものがある。


「へえ、そうなんだ……。でも、魔王ってママにもいきなりプロポーズしたぐらいだし、後先考えないタイプなのかもね」

「もうちょっと好意的な表現があるだろ」

 情熱的だとか、言いようはあるはずだ。


「アンジェリカ、今度、ササヤさんのお墓のところに行って聞いてみましょうか♪」

「ママ、名案だわ。あの人、全部教えてくれそうよね」

「純粋に魔族の土地の墓は危ないから行かないでくれ!」

 そんな目的で行ってケガでもされたら困る。


「しかし、アンジェリカよ、どうして会ってみようなどと思ったのだ? 心配せんでも豪遊しても、し足りないほどの金は相続させてやるぞ」

「あなた、とっても助かります~。でも、アンジェリカはあんまり無駄遣いしちゃダメよ?」


「ママ、お小遣い感覚で言うのやめてよ。あと、魔王の言うようなお金の心配ではないから」

 アンジェリカが首を横に振った。


「あくまでも、興味があるだけ……」

 頬をかきながら、アンジェリカは目をそらして、つぶやくように言った。

「だって、その人を私と結婚したいと言ってくれたわけでしょ。興味は湧くじゃない。結婚云々の興味の前に、どんな人だろうって興味よ」


「たしかに有力諸侯の子供なら、長男でないとしても可憐な姫君などいくらでも――痛っ!」

 テーブルの下で思いきり足を蹴られた。

「言い方ってものがあるわよ、魔王」


 今のはワシにも問題があったか。反省、反省。

「と、とにかく、会うだけならいいでしょ。サイコスって名前の人だっけ。その人のことを、何も知らないままなんだから」


 アンジェリカが会ってみたいと思うのも無理はない。アンジェリカの中にだって乙女心は(おそらく、平均より少ないだろうが)あるだろう。それを刺激されたのだ。


 だが、怖くはある。


 もし、出会ってみて意気投合して、そのまま婚約ということになったら……。


 皇太子がどうとかという魔族の中における政治的な問題は一回、脇に置く。

 それを絡めると、ものすごく複雑になってしまうし、ササヤとの結婚をかなり強引に決めたワシが、心に決めた相手との結婚を認めないというのは虫が良すぎるというものだ。


 だから、婚約するとアンジェリカが言うなら、それを認めるつもりではいる。親の立場を使って、徹底して反対というようなことはしない。


 それにしたって、寂しい。

 早くも娘がほかの男にとられてしまって、いなくなるだなんていうのは、男親としてきついものだ……。それは血がつながってるかどうかなんて、小さなこととは関係ないのだ。


じわじわコミカライズと小説3巻の発売が近づきつつあるのですが、書影などの告知が可能になったら、一気にいろいろ公開できればと思っております! もう少しお待ちください!

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