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130 魔王、娘の婚約話を断る

今回から新展開です! よろしくお願いいたします!

 その時、ワシはイライラしていた。

 そのせいで、相手である魔族の男も少しびくびくしていた。

 いや、別にお前のせいじゃないんだけどな……。


 通常業務の合間に会談の時間が入ったりすると、無論、通常業務が滞るのだ……。

 出張でどこかに出かけている間にも、決裁の書類は待ってくれずにたまっていく、それと原理は同じだ。


 仕事が増えて喜ぶ奴は普通、いない。いるとしたら、定職についてなくて、仕事を請け負う量が増えると、その分収入が増える者だけだろう。こっちは定職についているので、そのメリットもどこにもないというわけだ。立場上、残業したからといって残業代が出るわけでもないし。


「それで、バステット伯、どういったご用件かな?」

 ワシはテーブルの向かいにいるバステット伯に話しかけた。


「ああ、その……陛下は今日は何か嫌なことでもありましたか?」

 苦笑しつつ、自分の角をかきながら、バステット伯は答えた。

 ワシの表情のことを言っているな。


 年齢的にはワシと大差ないだろう。基本的に関係もワシと良好だと思う。魔王であるワシを何度もサポートしてくれたこともある。


 だが、そんな相手だからこそ、突然改まって話があると言ってきた理由がわからん。

 重要な話なのは間違いない。

 だからこそ落ち着かん!

 バステット伯が来る理由が、とくにこれといって思いつかんのだ。


「別に何も変わったことはない。妻とも娘とも楽しく暮らしている」

 アンジェリカとは上手くやれているのか……?

 やれているよな。合格点だと思う。うん、やれてる、やれてる。


「実はその、ご息女に関することなのですが……」

 ワシはそう言われて、嫌な予感がした。


 アンジェリカのやつ、ワシの知らんうちに何かトラブルでも起こしたんじゃなかろうな……?

 たとえば、ワシに伝えずに魔族の土地に来て、ダンジョンを攻略するとか言って暴れまわるとか。――うわあ、無茶苦茶ありえそう……。


 きっとワシの顔色が悪くなったのだろう。また、バステット伯がどうしたんだという顔をした。

 いつも以上にワシの顔をうかがっている。面会を申し込んできたのだから当然と言えば当然か。


「ア、アンジェリカが何かやらかしたかな?」

「いえ、そのようなことは何もございません!」

 あっ、違うんだ。よかった!

 ワシは安堵した。自分の顔の筋肉もゆるんだのが実感できる。


 重荷が一気に消えた。それなら、もはや何を言われてもいい。好きなことを話してくれ。

 バステット伯も言いやすい空気になったと感じたようだ。偉い魔族は空気を読むことぐらい、簡単にできるからな。


「さあ、言いたいことを言え、バステット伯。ワシとは旧知の仲ではないか。今更、遠慮などするな」

「ありがとうございます、陛下。それでは申し上げさせていただきます」


 で、バステット伯はこう続けた。


「ご息女の皇太子の婿に、愚息はいかがでしょうか?」


 時間が止まったかと思った。

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 ああ、婿ね。つまり、アンジェリカの結婚相手の話ね。うむ、わかった、わかった。

 ただし、この「わかった」は了承したという意味ではなく、理解したという意味である。


「ならんっ!」


 デカい声でワシが怒鳴ると、バステット伯はすぐに立ち上がって退席した。

「口がすべりました! 今のことは忘れてください! それではっ!」


 相手が消えて、無人になった部屋でワシは――頭を抱えた。

 そうか……。アンジェリカも婚約者がいてもおかしくはない立場なのだよな……。式を挙げるのはまだ早いにしても、婚約者の発表ぐらいはいくらでもありうる時期だ。しかも、皇太子の立場にさせてしまったわけだし……。


 これまで意識しないようにしてきたが、いくらでも起こりうることだ。

 うわあ、心の準備ができてない……。

 以前よりは打ち解けてきたと思ったところに、娘の結婚相手の話だとか、正直、気が重い。うかつにアンジェリカにしたら、すごく怒りそうな気もするし……。


 ここは口に出して思考を整理しよう。

「まあ、待て、まあ、待て。あいつは人間だ。魔族と結婚するなんて絶対ありえないと言い出すだろう。だから、魔族が婿入りの話をしてきたとしても、それはひとまず蹴ればいい。うん、ワシの判断は何も間違っておらんはずだ」

「何をぶつぶつおっしゃっているんですか、魔王様」


 隣に秘書のトルアリーナが立っていた。

「うわっ! お前、いつのまに入ってきた!」

「この部屋、前と後ろの両方に出入口がありますので、後ろからそうっと入りました。会談が終わったあとも一人でぼうっとして、サボっているかもしれませんので」

 まったくワシのことを信用してないな。


「サボろうと思っていたわけではない。ナイーブになる問題に頭を悩ませて、仕事に復帰する気持ちになれなかっただけだ」

「やはり理由をつけてサボるおつもりでしたか」

 秘書なのにワシのことを信用してないにもほどがあるだろ。


「でも、娘さんの結婚ということであれば、落ち着いていられないというのはわからなくもないです」

 当たり前だが、しっかり聞かれていた。


「自分もアイドルの推しが結婚宣言したら、一か月は何もノドを通らなくなって、仕事も辞めてしまいそうな気がしますから」

「推しへの愛が深すぎて怖い」

 こいつはこいつで変なところに深淵をのぞかせている。


「さらに、結婚宣言からの引退なんてことになったら、こんな世界を滅ぼしてしまおうなどと一日に五回ぐらい考えそうですね、ふふふ……」

「人間の考える魔王が言いそうな発言をするな」


「とにかく、魔王様がお悩みになることはわからなくもないです。なので許しましょう」

 秘書に許されるのって何か違う気がするが、面倒なので、とくにツッコミも入れずにいた。


 そのあともワシは職務中、ずっとアンジェリカの結婚について考えていた。

 勤務時間にあまりよいことではないが、娘の将来について思いを馳せるのも親の義務みたいなものだから許してほしい。

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