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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、義理の娘と山に行って親睦深める作戦に出る編
13/178

13 親子登山開始

 こうして、ワシとアンジェリカは登山をすることになったのだが――

 登りはじめて、いろいろと問題があることに気づいた。


「うむ、さわやかな空気だな! 心が洗われるようだ!」

「いや、明らかに澱んでるわよ。魔族の土地ってほんとに陰気ね……」


「おお、道端では花も咲いているぞ」

「うわっ、花がグロくて、キモい……。そこにとまってる虫もデカくて不気味……」


 アンジェリカの価値観というか、若い人間の女の価値観と魔族の山がいまいち合っていない。


 いや、まだ冒頭だ。登山の醍醐味はある程度歩いてからだろう。開始五分や十分で「楽しみがわかりました!」とか言われても、それはそれで疑わしくなる。


 だから、ここは我慢だ。いずれ、義理の娘と話す機会も――


 大きな羽音とともに人間のサイズ程度の大きなハエが数匹飛んできた。

「むっ、これは冥府バエだな。このあたりに棲息しているモンスターだ」

「わっ! 攻撃してきたし! なんなのよ! 魔族と王国は不戦条約を結んだんじゃなかったの!?」


「いやいや、それはあくまでも魔族であって、モンスターは無関係だぞ。これはいわゆる野生動物だ。人間の国に住んでる野生動物に魔族を襲うなと命令しても無駄なのと同じだ」

「つまり、戦闘になるってことね……。いいわよ、やってやろうじゃない!」

 アンジェリカは剣を抜くと冥府バエに斬りかかった。

 一匹はアンジェリカが見事に一刀両断した。この年齢にしてはよい太刀筋をしている。まだまだ甘いところがあるが。


「よーし! こんなの楽勝よ! 勇者に攻めてきたのが運の尽きね!」

「油断するな。冥府バエは必ず集団で行動する。十匹ぐらいは最低でもいると思え」

 まだ羽音は消えていない。冥府バエの群れがアンジェリカのほうに迫ってきていた。


「げっ! セレネの攻撃魔法がないから一掃できないのよね……。ダルい……」

「確実に倒していけ。ハエの攻撃力自体は低い。人間はたまに毒状態になるらしいが」

「じゃあ、ゆっくりしてられないじゃない! ああ、鬱陶しい、鬱陶しい!」

 バシバシとアンジェリカは冥府バエを仕留めていく。いい経験値稼ぎになりそうだな。


「ていうか、魔王のところにはハエが来てないっぽいんだけど」

「モンスター魔族の恐ろしさを本能的に察するのだ。だから、魔王ともなればモンスターに攻められることは滅多にない」

「待ちなさいよ……。じゃあ、私だけ集中的に今後も攻撃を受けるってこと……?」

 白い目でアンジェリカがこちらを見ていた。


 信頼関係がむしろ低下した気がした。

「まさかと思うけど、あなた、私を人気のない山に連れてきて、亡き者にしようと計画してるんじゃないでしょうね……? それでママと二人で暮らす気なんじゃ……」

 ずいぶん失礼なことを想像されている!


「違うぞ、違う! お前だってワシの娘だ! 娘を手にかけるようなことはせん!」

「娘って言うな! まだ、父親って認めてないからね!」

「そんなこと言っても、娘と認識せずに粗雑に扱ってもお前はもっと怒るだろう! いったい、どうしたらいいんだ?」


「それはそうだけど……と、とにかく、このハエを殺すのを手伝いなさいよ! 手が空いてるんだから、何かやって!」

「……わかった」


 ワシは打撃でハエを撃墜していった。魔王の攻撃力に耐えられるような存在はここにはいない。

「うむ。所詮、ザコだな。では、アンジェリカ、先を急ぐか」

 ――アンジェリカはさっきより多くの冥府バエに囲まれていた。


「無茶苦茶来るんだけど!  まるで久しぶりに見つけた獲物だってぐらいに来るんだけど!」

 事実として、そうなのかもしれん。人間がこんなところに足を踏み入れることなんて、まずありえんからな。


「くそっ! 私も攻撃魔法は少しは使えるけど……ここは温存したい」

「ああ、炎系の魔法はダメだぞ。国立公園法で山火事の原因になる魔法の使用は禁止されている」

「なんで遵法意識が高いのよ! 魔王なんでしょ!」

「お前な、王が法を全然守らんほうがまずいだろ」


「じゃあ、ハエの駆除をもっともっと手伝って! マジできりがない! パーティーじゃない状態で戦闘するときつい!」

 そりゃ、攻撃が分散せずに一人に集中されるからな。


 しかし、呑気に見ていられるほど余裕もなさそうだな。ザコとはいえ、魔族の土地に棲息しているモンスターは攻撃力がそこそこ高い。

 ワシも冥府バエを攻撃して、数を減らしていく。


 五分ほどの戦闘ののち、やっとハエを殲滅できた。

「はぁはぁ……。かなり苛酷な戦いだったわ……。パーティーの重要性を再認識した。みんなにやさしくするようにしよう……」

「そうだぞ、一人ではつらい戦いでも、四人だとぐんと楽になるものだ」

「魔族に言われるの、なんかムカつくわね……」


 しかし、また嫌な羽音が聞こえてきた。

「ちょっと! あのハエ、どんだけ来るのよ! 数が多いって!」


 ワシは内心で思った。

 魔族の土地の山を選んだの、失敗だったんじゃないか?

 アンジェリカがモンスターに徹底的に狙われてしまって、登山どころではない。感覚としては、高難易度のダンジョンに分け入ったのと同じような状況になっている。


 少なくとも、父親と娘で打ち解けた空気になるみたいなことはない。

 常在戦闘って感じで、殺気立っている……。


「よしっ! 殺したわよ! 殺しきったわよ! さあ、魔王、先に進むわよ! こんなところで止まってたまるもんですか!」

「あ、ああ……わかった……」

 当初の想定とかなり違うなと思いつつ、ワシも先に進むことにした。


「でも、これで少し信用できる気がしてきたわ」

「信用? 何のだ?」

「この山になら、伝説クラスの武器があってもおかしくないわ。ここを攻略できる冒険者なんてそうそういないからね。進んでやろうじゃない!」

 これは引き返そうとか言えんな……。そんなの作り話だとか言ったら、絶縁どころかこの場で娘が殺しにきそうだし……。


 この先、どうしたものかと思いながらワシはアンジェリカと登山道を進むのだった。


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