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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、おめでたを娘に告げるタイミングで迷う編
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128 魔王、勇者に子供ができたことを伝える

 ワシはアンジェリカの部屋の前に行き、一呼吸置いてから、ドアをノックする。


「アンジェリカ、バウムクーヘンというお菓子がある。お茶もいれるから、食べに来なさい」

 さあ、出てこい、アンジェリカ!


「あ~、あのお菓子だったら、夕飯が遅いから食べちゃったわ」

 そんな声がドアの奥からした。

「えっ!? お前、もう食べたの!?」


「うん。輪っか一つ分はなかなかの量だったけど、おいしかったわよ。さすがに夕飯も食べたらおなかいっぱいになっちゃった。甘いものが別腹じゃなかったら、入らなかったわ。だから、もういらない」


 それ、輪っか一つで一人分じゃないから! 分割して食べるものだから!

 ワシはすぐにお菓子を入れている戸棚を確認した。

 なくなっている……。


「百歩譲って勝手に食べるのはいいにしても、せめて半分は残しておけっ!」

 なんで一人輪っか一つだと認識した!? ドーナツではないぞ!


 ていうか、あいつが食後すぐに部屋に戻ったの、食べすぎできつかったからじゃないのか……?


 こうなったら、話があると言って、正式に呼び出す以外に手はないか。


 でも……少し気持ちの準備をするために、先にお風呂には入ろう……。




 自分は父親になるのか。

 湯船につかりながら、そう思った。


 もちろん、今でもアンジェリカの父親なのだが、自分の血が入っている子供の父親になるというのは初めてのことだ。

 赤子の時から、子供を育てていくというのも今までにない経験だ。


 本当は自分の血を受け継いだ子供が生まれて、その子供を育てるのだということに緊張してしかるべきなのに、アンジェリカにどう伝えるかであくせくしすぎている……。


「父親とは、なんとも難しいものよ……」


 早くこんな状況は乗り越えないと。

 アンジェリカに話すのは、まっとうな父親として子育てを行うための第一の試練だ。

 第一の試練からして難易度が高すぎるのではないか。


 この世界の、年頃の娘がいる女性と再婚して、その女性と子をもうけた男は年頃の娘にどう言っているのだろう? そういうことについて書いてある本があったら金塊を積み上げてでもあがなうぞ。


「気を抜くと、すぐに後ろ向きになる……。魔王が逃げたら勇者に笑われる……」


 風呂から出ると、冷たい水で顔を洗った。

 気合いを入れなおした。


 着替えを終わらせると、ワシはまたアンジェリカの部屋の前に立つ。

 ダイニングのほうを見るとレイティアさんはすでに席についていた。

 その目は、「どうぞ。こちらは何も問題ないわ」と語ってくれている。


 ドアを弱すぎず、強すぎずの力でノックする。

 ノックの音にまでは動揺は感じられなかった。

「アンジェリカ、大切な話がある。ダイニングまで出てきてくれないか」

 自分の声も上ずったりはしていない。魔王としての威厳を見せられている。


 しかし、すぐにはアンジェリカの返事はなかった。

 まさか、あいつ、すでに勘づいて、それで食後、すぐに部屋にこもったのか……?


「おい、聞こえてないのか、アンジェリカ?」

 もう一度、ドアをノックして呼んだ。反応がないまま諦めることだけはできない。

「魔王、ネコリンのエサやりは明日からちゃんとやるから、許してよ~」


「話題はそれじゃない!」

 すっごく軽い問題だと思われていた。

「あっ、明日以降も魔王がやってくれるんだ。ありがとうね!」


「いや、話題がそれじゃないからといって、エサやりをお前がしなくていいことにはならんぞ! それはそれでペットを飼うと言ったお前がしっかりやるべきなのだ! けど、それじゃない! もっと重要なやつ!」


「でも、なんか、注意される流れでしょ? だったら出ないわ。また明日以降に聞くから」

 まさにアンジェリカが、嫌なことは先に延ばしてしまえというマインドでいる!


 当然、腹立たしいが、ちょっと前までワシはこいつと同じような発想をしていたわけで、自分のことも恥ずかしいわ!

 変なところで、親子で似てしまっていた!


「とにかく、来い。家族が揃っている時に、伝えないといけないことなのだ。後回しにするべきことではないのだ!」


 ようやく、アンジェリカがドアを開けた。

 まだ風呂に入ってないからか、パジャマ姿にはなっていない。


 一言で言うと、アンジェリカは怪訝けげんな顔になっていた。

 しぶしぶ出てきたという態度ではない。

 むしろ、こちらを責めるような瞳をしている。


「いったい何? 実はママが悪い病気ですだなんてことだったら許さないわよ。私にウソをついてたことになるから。いったん安心させといて、そうじゃないなんてのは論外だからね」


 なるほど。アンジェリカがそう言うのはもっともだ。

 ワシがもったいぶれば、レイティアさんが病気だったのではないかと心配させてしまう。考えてみれば、妊娠などより、娘として母親の健康を気づかうのは当たり前なことではないか。


「絶対に病気ではない。それだけは確かだ。しかし、今日の検査と関係はある」

 いくぶん、アンジェリカの表情がやわらいだ。

「なら、怒る必要はないということね」

「……怒るかどうかはお前が決めることだ。ワシからはわからん」


「えっ? どういうこと? 何が起きたの?」

「だから、それについて話すからダイニングに出てこい!」

「怪しい。すごくもやもやする」

 アンジェリカはワシのことをじろじろ見ながら、自分の席についた。


 ワシも席につく。

 ばたばたしたが、やっとスタートラインには立った。


 アンジェリカだけでなく、レイティアさんの瞳もワシのほうを見つめている。


 二人の顔を同時に見つめることはできないから――

 アンジェリカの瞳を見つめ返す。


「アンジェリカ、今日、レイティアさんが検査を受けた結果、あることがわかった」

「でしょうね。それで、どうだったの?」

 アンジェリカから目をそらすな。


 ワシが父親として認められるための戦いが、今、行われているのだ。

 肩に力が入る。

 まあ、いい。力んだらダメということはない。


 堂々としていろ。逃げなければそれでいい。

 恥ずかしがったり、苦笑いしたりはするな。生まれてくる子供に対しても失礼だ。


 軽く、息を吸い込んだ。


「レイティアさんに赤ちゃんができていた。おめでただ」


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