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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、おめでたを娘に告げるタイミングで迷う編
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125 魔王、娘に告げるタイミングを考える

「妊娠してるって言われて、わたしもそうだと思ったの。ほら……」

 レイティアさんは照れながら、一方で、どことなく艶っぽい笑みを口元に浮かべて、わずかに瞳をそらした。

「……たくさんあったから。そろそろ授かってもおかしくないなって」


 ワシも赤面した。

 とくに、レイティアさんと同じ部屋を使うようになってから……夫婦の営み的なことは、それなりに……。


「ははは……。元気な子が生まれるといいですなあ……」

 他人事みたいに言ってしまった。自分の腹を痛めて産むわけにはいかないので、そういう面では身体的には自分に関することではないのだが……それでも他人の問題なんかじゃない。妻の問題だ。


 はっきり言って、とてつもなくうれしいのだ。そんなことは決まりきっているのだ。

 しかし、言葉のほうはなかなか出てこない。シュローフという第三者がこの場にいるというのもあるとは思うのだが、外野がいなくても事態はあまり変わらなかっただろう。


 本当にうれしいことがあると、言葉にしづらいものだ。

 どう、言葉にしても何か違う気がする。もう、いっそ、レイティアさんを抱き締めたほうが早い。


「魔王様のお子様ということになりますと、政治的な意味合いも帯びてきますし、このことは職務上知りえた秘密として他言無用といたしますね」

 シュローフはこの場でも落ち着き払っている。さすが偉い医者である。


「うむ……そうだな。絶対に、絶対に、誰にも言うな。妻の命が狙われるなんてことはあってはならんからな」


 シュローフに言われて気づいたが、王位継承権を持つ者が増えるわけだから、それを阻止しようとする奴が出てくる危険はあるわけだ。


 現状、ワシの血が入ってないアンジェリカがとくに危険もなく生きているぐらいだから、そんな大きな危険はないと思う。だが、腐ってもアンジェリカは勇者だから自衛もできるが、レイティアさんはそういうわけにはいかない。


 恩赦を連発して、犯罪者の解放でもしてやりたいところだが、そういうわけにもいかんようだ。。このことは文字通りの国家機密だ。


 それと、夫として、レイティアさん自身の身をいたわることにも全力を注がねば。


「レイティアさん、今後は母体に悪い影響が出ないよう、徹底してご自愛ください。なんなら、いいメイドを何人か雇いましょう」

「いえいえ。まだまだ出産までは時間もあるし、関係ないですよ。本当に苦しくなったら、無理せずに言いますからね」


 レイティアさんがこう言うのはわかっていた。

 だが、レイティアさんの仕事をあまり奪ってしまうのもよくないと言えばよくないか。職業が冒険者というわけでもないしな。


「ガルトーさん、照れちゃってる自覚はあるけど、わたし、すごくうれしいんですよ」

 まさしく母親然とした優しい顔で、レイティアさんはいつくしむように胸に手を置いた。

 人間の宗教における聖女のようだと思った。


「これで、アンジェリカもお姉ちゃんになるのね」


 その言葉を聞いた時、新たな懸念が頭に浮かんだ。


 アンジェリカにこのこと、どのタイミングで言おう……。



 レイティアさんには、ワシの勤務時間が終わるまで医務室で休んでもらっていた。

 石化が解けたからといって、すぐに激しい運動はせずにじっとしているほうがいいというシュローフの言葉に従ったのだ。

 シュローフいわく「たまに石化が解けるのが不十分でぽろっと腕がとれちゃうこともありますから」とのこと。正しい方法をとれば大丈夫なこととはいえ、やっぱり石化を伴う検査は危険もともなうな……。


 それは極端な例としても、体の筋肉などが動きづらくなっているので、こけたりする危険が高くなっているらしい。


 もっとも、レイティアさんが帰宅した時には石化の影響は何も残っていなかった。

 なにせ、空間転移魔法で戻ってきた庭でスキップをしているぐらいである。

「ふふふ~、不安がなくなるといつもより気分がいいものね~♪」


 ただ、ワシとしてはとある問題に頭を悩まされていた。


 どんなふうにアンジェリカに言ったらいいのだろう?


 これがすでにいるつまりアンジェリカが五歳や六歳なら何一つ躊躇する必要もない。「アンジェリカはお姉ちゃんになるんだよ」などと笑顔で言ってやればいい。


 多分、娘も喜ぶだろう。「父親が違うから微妙だな、この義理の父親は血のつながってない自分とつながってる妹を差別するんじゃないかな」なんて幼い子供なら普通は思わないだろうし、全員がハッピーで終わる。


 しかし、年頃の娘の場合は、そんな単純にはいかん。


 だって、その……赤ちゃんがどうやってできるか知っているということなのだ。

 赤ちゃんを作るようなことをしたから赤ちゃんができたわけだし、赤ちゃんができたイコールそういうことしましたと公言したことになる。


 夫婦なわけだから不貞でも不倫でもないし、アンジェリカもワシら夫婦が同じ部屋で寝起きするようになって、何かしらやっていると認識しているはずだが――それは黙認という形をとっているのだ。


 赤ちゃんができたと言ったら、引かれたりしないだろうか……?

 表現が下種かもしれんが、あいつにとったら「お前の母親を孕ませた」と言われたような衝撃にならんか……? 理窟ではわかっても、生理的には受け入れられないということになったりせんか……?


 夫婦の間ではとんでもなく幸せなことなのに、娘の視点で見たら義理の父親をとことん軽蔑する事態に見えるかもしれない。


 かといって、言わないわけにもいかないことだ。

 ただでさえ、病気かもしれないということで検査に行ったわけだし、気のせいだったなどと誤魔化したとしても、つわりは今後も起こるだろうから、治ってないじゃないかとアンジェリカがまた心配することもありうる。


 ううむ……。

 カミングアウトするの、本当にどうしよう!

 難問にもほどがあるぞ。勢いでプロポーズをしたワシからすると、プロポーズなどよりはるかに悩ましい問題だ。


「あなた、どうしてドアの前で頭を抱えてるの?」

 レイティアさんの言葉で我に返った。

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