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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、おめでたを娘に告げるタイミングで迷う編
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123 魔王、妻に検査を受けさせる

 そこに、足音が後ろから聞こえてきた。ネコリンの足音ということはないから、自動的にアンジェリカだ。


「ふあ~あ。妙にどたばたしてるから起きちゃったわ。どうかしたの?」

「お前は、一人だけ呑気でいいな……」

 レイティアさんの体調を話すと、アンジェリカも心配した。


「それは不安ね……。もし、よくない病気だったら、王国で最も高い山の頂上付近にだけ生えていると言われてる、どんな病気でも治してくれる全快草を取りに行ってくるわ」

「なんで、そんな便利アイテムが、そうも到達しづらいところにだけ生えてるんだ……。栽培したりできんのか」


「私に言われても知らないわよ。そういう伝説なの! 文句があるなら伝説を作った奴に言って!」

 そりゃ、道端の雑草が超強力回復アイテムなどということはないか。


 それからはレイティアさんは表面的には回復したらしく、突然倒れ込むなんてこともなかったが――

「食欲はないのよね~」

 朝食にはほとんど手をつけなかった。

 うん、医者行きは確実だな。


「ママ、ここは魔王の言うとおり、お医者さんで見てもらって」

 アンジェリカも不安そうな顔をしている。

「わたしが知ってるかぎりだと、こんなにママの食欲がないことって記憶にないもの。じっくり検査も受けてきて。年齢的にも病気が増えてくる時期だし」


 アンジェリカ、自分でないことに関してはずいぶん客観的にまともな判断ができるのだな……。こんなところで水を差すことでもないから言わないが。

 人は自分の目で自分の全身を見られないということなのだろう。


「アンジェリカ、あまりおおげさにしすぎよ。ママ、まだ体力は衰えてないわ~。食欲がないのもたまたまよ~」

「ダメ! そういう過信が一番よくないの! ダンジョンだってぎりぎりでどうにかなるだろうって状態のまま行くと大ケガしたり取り返しのつかないことになるんだから!」


 そんなまともなことが言えるなら、こいつはどうして相当な無茶をしてワシの城まで攻めてきたんだろう……。もっと手前で引き返さないといけない能力だったぞ……。


「アンジェリカ、魔王の城の医者は腕は折り紙付きだから、そこは安心していい。スタッフ含めて全員女性だから、女性も気軽に抵抗なく受診できる」

「魔族ってそういうところ、やけに進んでるわよね……」


「職場環境を改善したほうが、いいパフォーマンスを発揮できるようになって、長い目で見た時に得になるのだ。職員が病気でドロップアウトすることなく、長く働けたほうが、結局は様々なコストが安くなる」

「人間よりまともな労働環境の敵と戦うのって複雑な気分だわ……」


 それだけ魔族が先進的ということだ。ワシは変なことは言ってないぞ。


「もちろん、アンジェリカのような冒険者が攻めてきた時には医者も頼もしい戦力になる」

「お医者さんと戦うって複雑な気持ちなんだけど……」

「治療に使っていたメスで攻撃するので、ダメージを受けると感染するぞ」

「うわ! 戦いたくない! 最悪!」


「使えるものは何だって使うのだ。あっ、もちろん、レイティアさんの検査には万全を期しますのでご安心を!」


「検査か~。くすぐったいのは、わたし、苦手なのよね~」

 レイティアさんがほわほわした表情でいてくれるのがまだ救いになった。



 ワシは出勤後、早速、レイティアさんを医者のところに連れていった。

 魔王城の医務室はかなりわかりづらいところにある。というか、一見、壁にしか見えないところを進んでいかないとたどりつけない。人間の冒険者がずかずか入ってくると、医療に問題が生じてしまうためだ。


 それとアンジェリカみたいな性格の奴が見たら、魔王城に医務室があると魔族と戦う勇者のイメージが崩れるなどと文句言いそうだし……。

 イメージは別として、病人が並んでいるところに冒険者が出てきても気まずいことになるから隔離したほうがいい。


 担当の医者はメデューサのシュローフという女だ。

 頭の波打った髪はよく見るとヘビになっている。このヘビの目から石化効果のある怪光線が放たれる。


 普段は石化能力を使わないように髪の毛のヘビは眠った状態にさせている。何も知らない者が見れば、緑がかった色の髪をした女と思うだろう。


「――というわけで妻の体調の検査をしてほしいのだ」

「承知いたしました、魔王様。では、最先端の石化エコー検査を行いましょう」


 シュローフからあまり聞き慣れない検査名が出てきた。

「おい、石化エコー検査とは何だ?」


「文字通り、私が患者さんを石化させまして、その間に体を専用のハンマーでこつこつ叩いて、異常がないか判断します。異常があれば音の跳ね返り具合でわかります」

 想像していたものとほぼ同じだった。

「あんまりレイティアさんは石化させたくないのだが……」

 もし、戻らなかったりしたら大変なことになる。


「従来の麻酔は完全に患者さんの痛みが消えるわけではありませんでしたし、検査時の不安感も、麻酔による不快感もあったかと思います」

「うむ、そこはわかる」

「この検査だと石化しているため、痛みもまったくありません。石化が終わって気づいた時には何もかも検査は終わっているので患者さんにも好評です」

 医者としても、患者が動かないほうがやりやすいのだろう。


「ふむ……念のため聞くが、石化が戻らないなんてことはないんだろうな?」

「それなら大丈夫です。石化の解除ができない場合はこの検査を行うこと自体ができませんので。私は免許を持っていますよ」


 女医のシュローフは堂々と大丈夫と言っているので、ここは信じることとしよう。医者を疑って検査を拒んでいたら、治るものも治らないしな。


「ガルトーさん、わたしもやってみようと思うわ。また、倒れてガルトーさんやアンジェリカに心配をかけさせたくないし」

 レイティアさんがワシやアンジェリカのためにと言っているのは、きっと本心からのものだろう。


 家族を不安にさせたくないとレイティアさんも真剣なのだ。

「わかりました。何かあればワシはすぐに駆けつけますからな」

「検査なんですから、おおげさですよ、あなた」


 こんな時なのに「あなた」と言われるのがくすぐったかった。


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