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113 勇者、ペットを決める

 でも、ネズミをかわいいと言っていたのはわかったし、今度はネズミの仲間だけ集めて、アンジェリカに選ばせるか。それがわかっただけでも収穫だと考えよう……。


「はい、では最後の候補、出てきてください。ちなみに数合わせで入れた候補です」

 トルアリーナはもう司会者をやる気ないようだ……。


 数合わせということはまたネズミあたりか? ネズミならまだ可能性があるのだが。


 ――と、会場にばさばさと黒いものが飛んできた。


 ああ、漆黒ハシブトガラスか。

 マスゲニア王国にも棲息しているハシブトガラスの近縁種だ。サイズとしては漆黒ハシブトガラスのほうが大きいし、羽の色もよりツヤがある。

 しかし、基本的にはただのカラスだからな……。


 そのカラスは審査員のテーブルに載ってきた。

 野生のカラスはほかの動物や鳥類同様、人を恐れる傾向があるが、ペット候補になっただけあってそこは慣れているのだろう。人間からエサをもらったりすると、その人間の顔をしっかり覚えるという。


「カアカア、カアカア」

 カラスは鳴きながら、アンジェリカを見上げた。


「あっ……」

 アンジェリカがどことなく無防備な声を出した。

「このカラス、か、かわいいかも……」


 何!? 今日初の好感触かもしれない!


「アンジェリカ、それは場を盛り上げるために調子を合わせてるのではなくて、本心なのか?」

「魔王、私はわざわざその場の空気を読むようなことはしないわ」

 アンジェリカが喝破した。うん、それはそうだと思った。


「この子、すごく、くりくりした瞳をしてるの。カラスってこんなに目がキュートなのね」

 カラスの顔はよく見ると、なかなか愛嬌がある。とくに漆黒ハシブトガラスはサイズも王国のカラスより一回り大きいから、目も大きいのだろう。とくにこいつは目が丸っこい気もする。


 とはいえ、ただのカラスに対する反応としてはよすぎるのではないか。もしや、アンジェリカはもともと鳥類が好きなのか? だったら、その情報はもっと早くほしかったぞ。


「そっかこの子……似てるんだわ」

 ぼそっとアンジェリカが言った。

 目は完全にそのカラスをいつくしむようなものだ。


「似てる? お前、幼い頃に鳥を飼っていたことでもあるのか?」

 だったら、なおさら言ってほしい。それを隠してるのは反則もいいところだ。


「いえ、ガルトーさん、我が家では餌付けしている野良ちゃん以外、何も飼ったことはないですよ」

 レイティアさんが鳥がペットだった説を否定した。たしかに、過去にペットがいたなら、少なくともレイティアさんが教えてくれていただろう。ペットなら元家族のようなものだし。


 なら、あのアンジェリカの反応は何に由来するんだ?

「本当に、この子、クーリスさんの飼ってた黒猫によく似てるわ」


 全然違うジャンルの動物を思い出していた!?


「おい、それは言いすぎだろう……。似てるのは色ぐらいのものだろう……。胎生と卵生というところからして違うぞ!」

「魔王、よく見て。この毛並み、あの子にそっくりよ。区別がつかないぐらいだわ」

 アンジェリカは真面目な顔で言った。


「えっ……。毛の質も根本的に違うと思うが……質感だけなら近い……のか?」

「瞳も見れば見るほどあの子を思い出すわ。今にもニャーって鳴きそうよ」

 そんな鳴き声だったら、もはやそれはカラスではない。


「ああ、今、はっきりとわかったわ」

 うんうんとアンジェリカがうなずいた。何をわかったのか、自分の中だけで納得せずに至急教えてほしい。


「私、ペットをほしいと思ったの、あの黒猫にあこがれたからなんだわ!」

 なるほど……。ペットを飼うことに興味を持ったのではなく、特定の黒猫に興味を持ったというわけか。


 ペットを飼いたいと言い出したタイミングを考えるとその可能性はありうる。


「じゃあ、黒猫を集めてもらおうかしら~。家の近くにもかわいい黒猫がいるわ~」

 レイティアさんはご近所の猫コミュニティを完全に把握しているな。


「ううん。私、この子にあの黒猫と同じぐらい惹かれてるわ」

 それは黒いペットがほしいということか……?


 アンジェリカがそうっと人差し指をカラスのほうに突き出した。

 お前、かじられるかもしれんぞと思ったが、そのカラスは足をひょいっとその指に乗せるように置いた。

 犬におけるお手みたいなものだろうか。


「うわあ! かわいい、かわいい! しかも、賢い!」

「うむ、カラスは鳥類の中でもとくに賢いと言われてるからな。人に慣れていればそれぐらいするだろう」


 今度はアンジェリカは腕を前に突き出して、もう片方の手で腕をぽんぽんと叩いた。

 ここに乗れというジェスチャーだ。

 カラスはその意図をくみ取ったのか、腕に乗った。


「うわあ! すごい、すごい! この子、天才かも!」

 間違いなく、今までにないぐらいアンジェリカがはしゃいでいた。


「きれいなカラスさん、わたしにもなつくかしら~?」

 レイティアさんがそう言うと、すかさずカラスはレイティアさんのほうに、とととととっと走り寄った。


「まあ、わたしたちの言葉、わかってるみたいね」

 レイティアさんがそうっと手を出して、カラスの頭を撫でる。カラスは拒否しなかった。


「いいじゃない、いいじゃない! この子でいいわ!」

 アンジェリカが立ち上がった。

「魔王、私、この子をペットにするわ!」

 最後の最後で決まった!


 司会者のトルアリーナが「ええと……見事な逆転勝ちです。ヤラセかと思うほどの逆転勝ちです」とあきれた声で言った。いちいち、ヤラセだとか言うな。


 ちなみに、あとで審査の時間も設定されてるはずなのだが、そういう段取りは無視されている。今までのはすべてボツだったからとくに問題はないが。

 ペット、無事に決定しました。


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