11 不戦条約締結と、年頃の娘と親父の問題
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義理の娘で女勇者のアンジェリカの家出が解決した三日後。
ワシは多数の護衛とともに、人間の支配するマスゲニア王国の王都に足を運んでいた。
あんまり護衛の意味もないんだがな。護衛よりワシのほうが強いから。自分の身は自分で守れる。かといって、ワシ一人でやってきてはかっこがつかんので、人数を集めたといったほうが正しいかもしれん。
もっとも、警戒をしているのは、向こうも同じだ。
おそらく著名な冒険者や王家に仕える魔法使いたちがずらりと集まっている。ぶっちゃけ、ここにいる連中を全員血祭りにあげた時点で人間たちは降伏するしかなくなることだろう。そんなことはせんが。
ワシの前にいた秘書のトルアリーナが――
「こちらが魔王ガルトー・リューゼン陛下であらせられます」
と、人間の王国側に伝えた。
いつもと違って今日は対外的な仕事なので敬意もこもっている。
「魔王ガルトー・リューゼンである。そちらの王にも出てきてもらいたい。不戦条約を結ぶには信義というものが必要であるからな」
その言葉を受けて、老体の王が姿を見せた。もっとも、よぼよぼというほどでもないから、まだまだ長生きしそうだが。
「魔王よ、事前にこちらに通知した不可侵条約の話は本当なのじゃな?」
向こうの王がそう言った。
「いかにも。こんな大掛かりなだまし討ちを考える意味などない。すべては書面のとおりだ」
「つまり、女勇者の母親と再婚したので、再婚者の種族である人間も、その国家も攻めたりはしない――ということじゃな?」
人間側にはまだ信じきれてない奴や、あぜんとしている奴もいる。
「本当だ。その証拠に妻も義理の娘も連れてきている」
ワシの後ろでレイティアさんが手を振っている。
アンジェリカは顔を赤くしてうつむいていた。直前まで出ないと言っていたが、どうにかレイティアさんがなだめて参加させるところにまでこぎつけた。
人間の神官がレイティアさんに質問する。
「あの、魔王とのなれそめをお聞かせいただけますか……?」
「先日、ガルトーさんが戦って敗れた娘のアンジェリカを連れてきてくれたんです。そこで彼からプロポーズを受けました。彼の一途な気持ちに心を打たれて、再婚することにしたんです~」
やけに会場がざわつく。ワシの護衛にもざわついている奴がおるな。私語をするな。
「相手が魔王ということは知っていたわけですよね?」
「ええ。でも、大切なのは相手を思いやれるかどうかですから。その面ではガルトーさん信頼できますよ~」
「魔族との争いが終結することは考えに入れられていたんですか?」
「あ~、あの人はそんなことも最初は言っていたようですけど、結局、一目惚れしたって言ってくれましたわ。そこは疑っていません。ガルトーさんはとっても誠実な方なんですよ」
人間のほうから「ノロケだ」「ノロケだな」といった声がする。
ワシとしては恥ずかしいどころか光栄なのだが、アンジェリカはずっとうつむいていた。
「王様、レイティアさんからは操られているような痕跡もまったく発見できません! 自分の気持ちを表明されただけかと!」
誰が魔法で洗脳などするか。だいたい、ああいうのは襲いかかる相手を手当たり次第に替えるとか、そういったあいまいな変化しか起こせん。洗脳されているとわからないほどに見事に洗脳することは魔法では不可能だ。
「次は女勇者のアンジェリカさんにお聞きします。お母様の突然の再婚、しかも魔王と。どのように思われましたか?」
「生き地獄だと思いました」
もう少し言葉づかいを考えてほしい。
「まだ再婚したばかりで、今後どうなるかわからないところも多いです。ですが、話してみたところ、魔王はまともな性格ですし、ママを悲しませることは絶対にしないです。そこは大丈夫かな」
よかった。フォローの言葉が一応来た。
「では、女勇者さんも魔王を信頼していると?」
「それとこれとはまた別です。勇者である自分の家に魔王がいるとか、なかなか拷問ですよ」
そうは問屋が卸さないか……。
「それでも、ママが楽しそうなのはわかるんです。ママが幸せになって、人生にメリハリができるなら再婚も受け入れようと思いました」
「よくわかりました。ありがとうございます。以上、女勇者とそのお母様にご意見をうかがいました!」
人間の大臣たちもうなずいているし、得心がいったということだろう。
再び、王が話しはじめる。
「勇者アンジェリカとその母、レイティアよ、二人の勇気ある行動のおかげで、争いは終止符が打たれた。王として心からお礼を言う」
「勇気があるとしたら、告白をしたガルトーさんなんですけどね」
「それをあっさりOKしたママも勇気があると思うよ……。むしろ、私のほうが何もやってないし」
「アンジェリカが勇者としてガルトーさんのところにまで行かなければわたしとの出会いもなかったのよ。あなたの行動にも意味はあるのよ」
つまり、ワシのところにまで無理をしてやってきて、あっさり敗れたことに意味があったということになるのだが、そういう言い方をしなければ美談で片付くのではなかろうか。
「わかった。王国の国家元首として不戦条約に調印いたそう」
相手の王が自分の名前を書き入れた。
ワシもそれに続いて名前を書く。
「王国はただいまをもって、正式に魔族と不戦状態に入る! 魔族を倒すことを内容にしたギルドの依頼はすべて撤回するように」
「各地にいるボスは武装解除して、ワシらの土地に戻ってくるように! 人間を連れ去っているような者はすぐに返すように!」
ワシと向こうの王はともにその条約の羊皮紙を持って、記者たちに見せた。
これで一仕事終わった。
人間との争いが停止したという、なかなか特別な一日だ。
平和になるわけだし、ワシもより家庭的な男になるぞ!
まず、なによりも義理の娘と仲良くなる! ちゃんと父親として見てもらうようになる!
家族というのはワシとレイティアさんだけではない。アンジェリカも含めての家族なのだ。ワシとアンジェリカの間の関係がぎくしゃくしたままでは健全な状態とはとても言えない。
もっとも、近頃は血がつながっていても、ぎくしゃくした親子など腐るほどいるようだが、だからといって再婚した家族はぎくしゃくしていてよいということにはならんだろう。
では父親として見てもらうためには何をするべきだろうか。
たくましい姿や頼りになる姿を見てもらうのがいいのではないか。
そんなことを考えながら、夜、入浴のために脱衣場に行くと、こんな張り紙をしているカゴが置いてあった。
『魔王はこちらのカゴに脱いだ服を入れること! 私の服と同じカゴに入れたら倒す! アンジェリカ』
うああああああ! 親父の服とまとめて洗濯しないで問題が来たぁっ!
さらにカゴの裏には別の張り紙がついていた。
『魔王は私より先に入浴しないこと! アンジェリカ』
これはワシより先に風呂に入ったから見せる必要がないと判断して後ろにやったな。
これは義理の娘との問題というより年頃の娘との問題なので、一度脇にどけておこう……。