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109 魔王、ペット用のオーディションを開く

「よし。ではペット候補を魔王の城のほうで用意しておくとしよう。候補が集まったら呼ぶから、城に来るがいい」


「私も行きたいわ~」

 クッキーをかじりながらレイティアさんが言った。

「はい、ペットと言えば家族も同然ですから、レイティアさんのご意見もお聞きしますし、ぜひいらっしゃってください」


 レイティアさんが飼いたくないと言ったペットは絶対に飼えんしな。レイティアさんがそういう拒否反応を示すところは想像しづらいけど。むしろ、腐臭が漂うゾンビでもかわいいと言って頭を撫でそうでまずい。


「かっこいいのをお願いするわよ、魔王。ゲル状の奴や、やたらヌメヌメしてる奴や、昆虫みたいな奴はダメだからね」

「ワシの美的センスを信じろ。ワシだって飼いたくない」


 少なくとも、スライムとその亜種みたいなのは全部ダメだな。

 まあ、スライムを飼っても全然面白くないし、ある日、いきなり溶けて死んでたりするんだよな……。あれ、生態がいまいちわかってないのだ。



 こうしてワシは、飼える動物(モンスターを含む)にいいのがいないかを魔族たちに募集した。

 募集といっても、直接連れてこいという意味ではなく、アイディアの投稿のみを受け付けた。生き物を持ってこられるとこっちが困る。


 それでいいアイディアだと思ったもの、意見として多かったものをペットショップに用意させたり、捕獲したりする。


 なお、秘書のトルアリーナからは案の定、冷たい反応を受けた。

「しょうもないことを考えますね」

 お前は魔王を否定するのが仕事の勇者かというぐらいの、正面からのディス。


「たまにはこういうのもいいだろう。お前の仕事が極力増えんようにしているし」

「たしかに。今回のプロジェクトはフライセさんが率先して動いてくれていますからね」


 フライセは部屋の隅で関連書類のチェックを黙々とやっていた。

 もともと雑用メインの臨時雇用だから、こういう突発的な仕事には向いている。


「よし、こちらの発送も終わり。うん、いい感じで進んでますね。ふっふっふ」

 こちらが想像するよりよほど熱心に働いている。


 こうして、魔族の支配する領地のいたるところから、様々な動物やモンスターの情報が集められた。

 事前にワシが細かくチェックすると、バイアスがかかってしまうので、その仕事はフライセに一貫して任せた。

 フライセはその情報をもとに、ペットショップや動物園からその動物を調達しているようだ。ここで働きだしてから、最も真剣にやっている。


 最初はこんな奴を採用したら問題ばかりになるのではと思ったが、そんなこともないな。フライセの社会的地位、もうちょっと引き上げてやってもいいかもしれんと思うぐらいだ。


「フライセさん、もっとどうでもいい雑用しかできないと考えていたのですが、正規の職員に劣らないほどの実力をお持ちですね」

 辛口のトルアリーナすら認めたほどだ。

 今回の仕事を見事に果たしたら、中途採用の話を提案してもよいな。



 そして、ついにこの日がやってきた。


===

第1回 皇太子殿下 ペットオーディション

===


 会場のステージの屋根にはそんな看板がでかでかと掛かっている。

 ステージ横のテーブルには審査員、というか飼い主になる家族としてワシ、アンジェリカ、レイティアさんが並んで座っている。


 観客席には魔族がずらっと集まっている。立ち見もいるほどの盛況ぶりだ。


「いやいや、魔王! なんで大会になってるわけ? おかしいでしょ!」

 あっ、気にしないのかと思ったが、やはり文句を言われた。

「お前は皇太子でもあるのだ。だから、城に来てもらってもおかしくはなかろう」

「皇太子だからって、イベントで決める必然性はないでしょ! ギャラリー多すぎじゃない!」


「とってもにぎやかね~♪ 地元のお祭りとは比べ物にならないわ~♪」

「ママは順応しすぎよ! 周囲は魔族だらけなんだし、少しは怯えてもいいのよ?」

 アンジェリカよ、レイティアさんは魔族が多いぐらいで怯える性格ではないのだ。

 

「アンジェリカ、イベントになっているのには理由があるのだ。大目に見てくれ」

 さて、時間だ。ステージに司会者が上がる。


「はい、司会進行を務めます、魔王様の秘書トルアリーナです。本日はよろしくお願いいたします」

 トルアリーナは司会をやる時でもまったく笑わない。このあたりは徹底している。


「観客の皆様が支払った入場料は各種経費に充てられます。本当に感謝いたします。こういった変なイベントもお金を出してくれる方がいるから行えますので。入場料の半分ぐらいは少なくとも楽しんでいってください」

 そのあたりの事情は言わなくていいぞ、司会者。


「ああ、ペット候補を集めたりするのにお金がかかってるのね」

 アンジェリカも理解してくれたか。そう、魔王だからって好き放題はできんのだ。予算にないお金を別途集める必要があった。


「審査をするのはペットを飼いたいと言い出した皇太子殿下を含む魔王様のご一家です。何か自己紹介はいりますか? 家族を代表して魔王様が何か話しますか?」


 最初のあいさつをしないのもなんだし、何かしゃべるかと思ったが――

「皇太子殿下、お前がしゃべれ。お前が言い出しっぺだ」


「はいはい……。その程度の責任はとるわよ」

 アンジェリカが席を立つと、観客から声が上がった。あくまでも皇太子だからな。注目も浴びる。


「ええと、今から最高のペットを選びたいと思います。ところで……私たち見世物みたいになってない……?」

 見世物みたいではなく、見世物だ。


「魔族が集まる中でペットを決めた勇者――これは勇者史上としても初のことではないか。逸話として残るぞ」

「なるほど……。一理あるわね……」

 アンジェリカはこれで納得したらしい。このあたり、案外チョロい。


「ママは何か話すことってある?」

「そうね~、ペコちゃんやフック君とケンカしない子を選びたいわね~」

 ああ、餌付けしている野良猫を食べちゃうようなのは論外だな……。


「王妃様、ご意見ありがとうございました」

 レイティアさんは魔族の世界では王妃という立ち位置である。

「魔王様、最後に何か面白いことを言ってください」

「おい、司会者、横暴にもほどがある――」


「え~、それでは審査をはじめたいと思います」

 トルアリーナの奴……。ワシを舐めない秘書にチェンジしたくなってきた。


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