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107 魔王、娘にペット飼いたいと言われる

今回から新展開です! なにとぞ、よろしくお願いいたします!

 その日、仕事を終えて帰宅すると、知らない来客がいた。

 アンジェリカより少し年上といった感じの女性だ。


 こっちが名乗る前から、向こうからあいさつされた。

「はじめまして、魔王さん。戦士のクーリスです。勇者パーティーの方々とは前から仲良くさせていただいています」


「ああ、アンジェリカのお友達ですか。魔王のガルトー・リューゼンです。よろしくお願いします」

 アンジェリカが「お友達」という表現が子供っぽいと思ったのか、あまり楽しくなさそうな反応をしたが、向こうも仲良くさせてもらってると言ってるからいいだろう。


 実のところ、ワシはほっとしていた。

 アンジェリカのやつ、同じパーティー程度しか交友関係がないかもと心配していたのだ。

 性格に多少の難がある……いや、それは言いすぎか、こう…………やはり癖があるな。

 アンジェリカは学校のようなところに入ったこともないから、近い歳の人間と出会う場もあまりなかったはずだ。


 人間というのは、友達からも多くを学ぶものだ。

 友達のいいところを見つけて、自然と同じようなことをするようになったりする。

 とはいえ、いいところに気づけるかも能力の一つだし、クズ同士で仲良くなってしまうケースもあるが……。


 まあ、そんな悪い友達の影なんてものは腐っても勇者だからないだろう、多分。


「クーリスさんはね、王国の若手女性冒険者の中ではすっごく有名人なの。クーリスさんにあこがれて冒険者になった子も多いのよ」

 自分のことみたいにアンジェリカがクーリスさんを讃えていた。

 友達を褒められるというのは美徳である。素晴らしいことだ。


「アンジェリカちゃん、それは言いすぎですよ。ただ、子供の頃から剣術を学んでいたから、その腕を試したくて、この道に入っただけ。そんなに難しいダンジョンを攻略した実績もないし」

 クーリスさんが謙遜気味に苦笑した。


「それは、ダンジョンに行かずに依頼型の仕事を中心にやってるからでしょ。クーリスさんはいろんな町の困ってる人を助けてきた、まさに正義の味方なのよ!」

「ほう、それはご立派ですな。なかなかできることではありませんよ。これからもアンジェリカを指導してやってください」


 この発言はかなり本音である。

 こんなまともな人がアンジェリカを教えてくれれば、絶対にプラスになる。

 しかも、男ではないから、娘に手を出すのではと余計な警戒をする必要もない。


 いや、男女両方いけますって冒険者もいるかもしれないが……多数派ではないだろう。どっちにしろ、男よりは安全だ。


 ただ、室内にもう一つ、何か気配があった。

 人のものではない。もっとずっと小型の何かだ。

 ここが森なら違和感もないが、自分の家だ。野生動物が入ってくることなどないだろうし。いったい何奴だ?


 テーブルの下で何かが動いた。

「そこにいるなっ!」


 ワシがテーブルの下を覗き込むと――

 黒猫がいた。


「……なっ、猫だと?」


 その黒猫はクーリスさんの膝に飛び乗った。

 そして、膝の上で「にゃ~」と甘えた声を出して丸くなった。完全に安心しきっている。


「この子、飼い猫なんです。留守番してろって言っても聞かないのでつれてきたの」

 クーリスさんもいとおしそうにその黒猫を撫でた。


「むしろ、つれてきてくれて私もうれしいです! その子、すっごくかわいいもの!」

 アンジェリカもテンションを上げていた。おお、アンジェリカも女子っぽいところがあるのだな。まあ、男でも猫好きは多いだろうが。

「ねえ、クーリスさん、その子、抱っこさせて、抱っこさせて!」


「いいですけど、人見知りしないかしら」

 猫の動物的本能がアンジェリカを警戒するかもと思ったが、それは取り越し苦労だった。


 その黒猫は最初こそ、アンジェリカの腕にいまいち不満そうな顔を見せていたが、だんだん信用するようになってきたのか、腕の中でおとなしくなった。

 なついたというより、これは観念したという顔だな……。こいつに逆らうと面倒だと判断したか。それで合っている。


「かわい~♪ よしよし~。いい子ね~」

 黒猫はくりくりした瞳でアンジェリカを見上げていたが、たしかにかわいい。


 クーリスさんの帰り際までアンジェリカはずっと猫をあやしていた。

 最後のほうは猫がもう飽きたという顔になって、知らない家の中を探検しだした。


「何? 何? どこに行きたいの?」


 それにアンジェリカもついて歩いていく。猫は「マジでしつこいな……」という顔をしていた。小動物よ、アンジェリカを出し抜くのは難しいぞ。


「あ、その部屋に入りたいの? じゃあ、今、ドアを開けますからね~」

 猫用に甘い声をアンジェリカが出すので、少し不気味ですらあった。


「なんだか、アンジェリカちゃんのほうがうちの子になついちゃってるみたいですね」

「クーリスさん、それ、冗談じゃなくてたんなる事実ですな」


 クーリスさんと黒猫は夕飯の時間までいたが、隣町に宿をとっているということで、食事を済ませると帰っていった。

 ああいう礼儀正しく、アンジェリカの教育によさそうな人はどんどん来てくれてかまわない。百分の一でもアンジェリカがいい点を真似てくれれば万々歳だ。


 クーリスさんが帰ったので、ワシは安心して風呂に入った。来客がいる状態では湯船で歌を歌ったり、パンツ一丁で出歩いたりできんからな……。そんな恥ずかしいことをするつもりはないが、気をつかうことは事実だ。


 で、風呂から出て葡萄酒を飲んでくつろいでいたところに、アンジェリカがやってきた。


「ねえ、魔王。お願いがあるんだけど……」

 アンジェリカは少し前かがみになってワシの顔をのぞき込むように見ている。

 お願いという表現であるからにはワシの承諾がいることなのだろう。そのせいか、敵意や悪意はないよとアピールするみたいに、微妙に笑っている。


「どうした? 新しい剣や鎧でもほしいのか?」

 そういった武具は金がかかるのでお小遣いをくれと言ってくることはありうる。


「私もペットが飼いたい!」

 本当にわかりやすくクーリスさんに影響を受けたな!

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