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103 魔王の家族、修道院での修行体験をすすめられる

「今のアンジェリカは勇者というより、魔王の忠実な配下のように見える! このまま看過するわけにはいかぬ!」

 ナハリンの瞳が大きく見開かれていた。

 こいつは口元は隠しているので見えないが、その分、眼力がすごい。ただの子供ではなく、れっきとした冒険者だしな。


 しかし、この表現ではアンジェリカは――

 あっ、案の定、立ち上がった。


「もっと納得がいかないわ! 私のどこが魔王の配下なの? 義理の娘であることは認めざるをえないけど、配下はおかしいわ! 上下関係なんてないわよ!」

 そう言うとは思っていた。


「しかも、私、魔王から給料もらってないし! 配下ならお金もらえるはずでしょ!」

 気にするところ、そこか!


「あら~。でも、前にガルトーさんからお小遣いもらってなかった?」

「ママ、お小遣いはまた別よ!」

 そこは別なのか。まあ、いいが……。


「こほん……。小遣いはどうでもよい。そういった枝葉末節にこだわるつもりはない」

 よかった。ナハリンはまともなので、これ以上話がズレていくことはなさそうだ。

「だが、しかし、アンジェリカ。少し前に魔王の皇太子となることを認めたはず」


 ナハリンの瞳がアンジェリカを射抜いた。たんに眼力が強いというより、なんらかの力を持っている眼だな。弱いモンスターなら、それで体を麻痺させるぐらいのことはできるかもしれん。


 というか、アンジェリカもびくっとしていた!

 肩が不自然に上がっている。あれ、麻痺してるのか……?


 いや、たんに都合が悪くなったという顔をしていた。


「ははは……あれは、魔王に泣いて懇願されてね……仕方なく名義上の継承者になったのよ。本当に形式だけ、形式だけ」

「おい、ワシ、泣き落としみたいなことまではしてな――」


 だが、アンジェリカがこっちをにらんできた。

 余計なことを言うなという視線ということはすぐにわかった……。


 ああ……。神官であるナハリンからすれば素直に受け入れがたいということか……。

 その立場でなあなあで仲間の勇者が魔王の後継者ですということまでは認められんよなあ……。

 ワシのせいでアンジェリカの交友関係が壊れるのは好ましくない。娘の友達を奪ってしまう父親など最低だ……。


「ふむ。名義上か。それは真か?」

「真に決まってるでしょ! ほら、私って勇者よ? 勇者がウソつくわけないじゃん。そんなの勇者失格でしょ。はっははは~」

 よく数秒前に話を盛った直後に勇者がウソつくわけないって言えるな! ある意味、肝が据わってて勇者らしい気もしてきた。


 しかし、ワシもアンジェリカと話を合わせるしかない。もう少し様子見だ……。


「けれども、他国の勇者と戦う時に魔王と見まがうばかりの装備で挑んだのはなぜか?」

 アンジェリカの顔が青くなった。

 痛いところを突かれたという反応だ。


「ええとね……。あれは勝つためにはしょうがなかったのよ……。私が負ければ、王国全体の恥となるわけよ。つまり、あれはわたくしを捨てておおやけをとった――そう、あえて、みんなのために魔族の装備を借りて戦ったわけよ。自己犠牲の精神なのよ!」


 強引に解釈してきた!

 すごいな……。その場を誤魔化すためなら根も葉もないことを言えるのか。今更だけど、ほかに王国に勇者候補、いなかったのか……?


 ナハリンの張り詰めた表情が、ふっとゆるんだ。

 笑みがそこに浮かぶ。

 どうやら、弁解が効いたのだろうか。

「もう、よい、アンジェリカ」

「ああ、ナハリン、わかってくれたのね」


「仲間の前でも平然と自分をごまかし続けるとは! 今のおぬしの性根は勇者にふさわしくないにもほどがある! 修道院で勇者としての心を学んでもらう必要がある!」

 ダメだったか!


「おぬしは勢いで突っ走るところがあり、不安視はしていた。だが、そこに魔族の力が加わることで闇のほうに魂が向かう一歩手前というところまで来ている……」

 ついつい、ワシもうなずいてしまっていた。

 将来、ワシよりも人間がイメージするような魔王になりそうである。


「今のうちに良識というものをもう一度教育しておかねば、取り返しがつかぬことになるかもしれぬ! 修道院に来るがよい!」

「え~! だって、面白くない説法聞かされたり、ひたすら掃除する羽目になったり、ごろごろする時間もとれなかったりするんでしょ? 絶対行きたくないわ……」


 すでに勇者としてふさわしくない性根だぞ……。

 だが、あんまりだらけすぎていると魔王候補としても困る。


 もしも、明日不慮の事故でワシが死んだりした場合(どういう事故だと死ぬのか自分でもよくわからんが)、今のアンジェリカが魔王になるのだ。

 このアンジェリカが今すぐ魔王になったら――


 割と魔族の国家崩壊の危機かもしれんな……。

 片っ端から部下に丸投げしてくれればまだいいのだが、こいつの場合、わからんなりに暴走するおそれがある……。


「よし、アンジェリカ、いい機会だし、みんなで修道院に行こうか。うむ、それがいい」

「ちょっ! 魔王、娘を売るなんてどんな心をしてるの!?」

「むしろ、親の愛だと思ってくれ。娘に少しでもまともに育ってほしいのだ」

 良識を持ってくれたほうが、魔王になった場合でもありがたい。


「え~、今のままで大丈夫だって。これぐらいだらけてるほうがフレキシブルに行動できるんだって。やたらと正論言いまくる奴のほうが危ないのよ。正論のとおりに無理矢理やろうとして、トラブル起こすものなの」


 こいつ、以前の勉強の成果なのか、口だけは達者になってるが、性格はずっと変わってないのだよな。だからこそ、怖いのだ……。

「だとしてもだ。お前はお前でもう少し誠実さというか、忍耐力みたいなものは身につけたほうがいいと思う。現状のお前は自分が楽しいほうにばかり舵を切る面があるからな」


「誠実さを魔王に説かれる勇者って何なの……?」

 しょうがないだろう、お前に欠けているものなんだから。


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