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101 魔王、妻の体質を改善する

 レナールの泉!

 この泉こそ、ワシが家族の飲み水としてまとめ買いしている聖水ではないか!


「すいません、このレナールの泉で何かありませんでしたか?」

 ワシの直感がここに何かあると告げていた。

「泉に? 水がきれいで景色がいいぐらいしか――――あっ!」


 がばっとサスティナさんが立ち上がった。


「この子、ここの泉に転落したことがあるんだよ! それで溺れちゃって、大変だったねえ。あの時は私たち夫婦も肝を冷やしたもんさ……」

 ついに我々は答えにたどりついた気がする!


「救助されたんだけど、かなり水を飲んでね。なんとか助かったのよ。ところがその夜、泉の精霊を名乗る変な若い女が来てね、『普通の泉だったら助かってませんでしたよ。気をつけてくださいね』って言ったはずだわ」

「おい、俺はそんな話、初耳じゃぞ!」

 今度はバインディさんが立ち上がった!


 かなり重大な話が共有されていなかったらしい。


「だって、泉の精霊が来たなんて言っても信じてくれないでしょ?」

「そんな心躍る展開なら信じたぞ! やはり自分の一族は特別な運命に弄ばれていたのだと思えただろうが!」

 あっ、この人、自分の伝説の勇者ごっこに利用しようとしている……。


「そうそう、その精霊が『魔に強い体質になったから、むしろ儲けものだと思ってください』なんてことも言っていました」

 絶対にこれが正解だ。


 バインディさんが「泉の精霊と出会って力を得る契約を交わしたかったわい……」などと言っているが、本筋と関係ないので無視する。


「そっか。ママは魔王と近づくことで、長年、閉ざされていたその泉の力が発現した――そんなところね」

 アンジェリカが上手にまとめてくれた。そういうことなのだろう。


「さ、最近……二人は同じ部屋で眠るようになったし……」

 アンジェリカに言いづらいことを言わせてしまった。


 レイティアさんが、ワシのほうを向いて、少し妖艶に微笑した。

 ワシはつい視線をそらした。ここにはアンジェリカだけでなく義理の両親もいるのだ。


 はい……。おそらく、それがきっかけになったのだと思います……。それに、同じベッドで寝てるとなると、すぐそばに長時間、魔族がいることになるわけで、レイティアさんの体が反応したのだろう。


「答え、出ましたね。うれしいわ♪」

 レイティアさんも心の重荷が一つ取れたからなのか、いつも以上ににこにこ笑っていた。

 原因不明であれば、気味が悪くて当然だからな。


「でもさ……答えはわかったけど、この光ってどうやって抑制するわけ?」

 アンジェリカのその言葉が無慈悲に響いた。

 本当だ。これ、レイティアさんが意識して出しているものではなくて、いつのまにか発動しているものだ。止められん。


「そうねえ……私の目が覚めちゃうのは、アイマスクでもすればいいと思うわ~」

 ワシとしてはレイティアさんが不便になるのは申し訳なかったが、何か提案も出しづらかった。


 結局、レイティアさんの発光をなくしたいというのは、ワシの目的でもあるのだ。それをレイティアさんのためという顔で言うのは気が引けた。


 そこで、もう一度レイティアさんはワシの側を向いた。

「ガルトーさん、この光を弱める方法、何かご存じじゃありませんか?」

 その少し垂れ目がちな表情で尋ねられて、ワシの心ははっきりと動いた。


 レイティアさんもこの体質を直そうと考えているのだ。

 それも、ワシのために。


「泉の水による効果なら、手はなくはないです」



 後日、ワシら家族は魔族の土地のとある場所に来た。

「うん、なかなかいいお湯ね~」

 レイティアさんも喜んでくれていてなによりだ。足をゆっくりと動かして、リラックスしている。


「アンジェリカも入らない? 気持ちいいわよ~」

「嫌よ。そのお湯、血の香りがするぐらい不気味だし……」


「それは血の香りではない。鉄分が強いせいだ」

 もっとも、血の香りという表現はあながち間違いではない。かつて、ここを訪れた人間の勇者が、血でむせ返る呪われた土地だと評したことがある。


「それに、なんか臭いし……」

「硫黄のせいだな。人間の土地にだってある成分だろう」


 ワシらがいる建物の屋根にはこういう文字が書いてある。


懺悔ざんげ温泉 足湯』


 ワシとレイティアさんは足湯に足をつけてリラックスしているというわけだ。


 ここの温泉は魔族が飲むと健康にいいが、人間が飲むと成分がきつすぎて体を壊すと言われている。温泉としてつかるぐらいなら問題はないが、長湯はよくないらしい。


 いわば、聖水の真逆だと言える。


「だいたい、懺悔温泉ってなんでそんな変な名前なのよ」

「かつて、不正がバレて殺されそうになった商人がこの土地まで逃げて頭を地面に打ちつけて懺悔しまくったら、お湯が湧き出たという伝説がある。商人は温泉を出したという功績で処刑を免れた」

「なんか、地名で損してる気がするわ」

 血だまり温泉などでないのだから、許容範囲だろう。


「まさか、光っちゃう体質を抑えるのに、また温泉旅行に来られるとは思わなかったわ~」

「確信は持てませんが、聖水と対になる場所といえば、ここかなと。あとで温泉に入りましょう。前に旅行したシルハ温泉と比べると泉質が強烈なので、少しつかっては湯船から上がるぐらいがちょうどいいですが」


 このあと、においで文句を言っていたアンジェリカも、大浴場につかっていた。

 聖なる力が失われたら勇者としてまずいだろうが、ぶっちゃけ、アンジェリカにとくに聖なる力なんて備わってないしな……。


 この旅行のあと、レイティアさんの発光は無事に収まった。


 やはり、魔族の土地の「泉」は、人間の土地の「泉」の効果を弱めるだけの威力があったらしい。

 泉の精霊には悪いが、レイティアさんがぐっすり眠れるようにするためにも、あと、ワシがレイティアさんと同じベッドで寝られるようにするためにも、こうさせてもらった。


 それからワシとレイティアさんは、また同じ部屋で眠るようになった。

 今でも、ごく稀に夜に光ることがあるが、やさしい淡い光程度なのでたいしたことはない。むしろ、光を見ていると心がやすらぐ。


 レイティアさんは言葉のとおり、これからも光り輝く女性でいてほしい。



魔族、妻の輝きに驚く編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

昨日19日に、ガガガブックス2巻が発売となりました! なにとぞよろしくお願いいたします!

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