100 魔王、妻の過去に原因があるのではと思う
100話まで来ました! これも皆さんの応援のおかげです! ありがとうございます!
なお、ワシのプチ不調は、レイティアさんと違う部屋を寝室にすることで本当に改善したらしい。
仕事の能率が以前と同じ程度にまで戻っていたのだ。
「魔王様、スランプを脱出したみたいですね。おめでとうございます」
トルアリーナがまったく笑みを見せずにおめでとうと言った。
これが母親の発言だったら、息子はグレると思う。
「うむ。ちと、レイティアさんの聖なる光を浴びすぎていたようだ。そこから距離をおいたら回復した」
「…………魔王様、まだ頭は回復してないんですか?」
「おい、その本当に心配になってる顔はやめろ!」
まだ、バカにしてくれたほうがマシだ!
事情を説明したら、「不思議な話ですが、今日の私は機嫌がいいので信じてあげましょう」と言われた。何様だ、この秘書。
それと、フライセもしょうもないことを言ってきた。
「魔王様~、やっぱり勇者の母親との再婚なんて向いてなかったんですよ~。ここはすぱっと離婚して、私と再婚しましょう!」
「するか! もしもレイティアさんと離婚したとしても、独身を貫くわ!」
「私に似た賢い子を生みますから!」
「お前に似てたら賢くないだろうが! しょうもないことを言うな!」
「ちっ。まあいいです。これから毎日、胸元を強調した服を着てきて、悩殺してやります……。男なんてどうせ下半身で物事考えてるんですから」
お前、逆セクハラとか通り越して、男性差別みたいなところにまで踏み込んでるぞ。
けれども、レイティアさんと上手くいってないと思われることは、いろんな面でデメリットになるな。
フライセの次元ならどうでもいいが、たとえばレイティアさんと別れたら、またワシが攻めてくるのではと人間たちが考えるかもしれん。
不仲なわけでもなんでもなく、今日のお弁当もレイティアさんのお手製なのだが、寝室が同じだったのに別々にしたという部分だけ拡大解釈して、不仲説を捏造されるおそれはある。
政治的な意義のためにも、この問題、とっとと解決せねばならない!
しかし、どう解決すればいいのか。
レイティアさんにもアンジェリカにもわからないわけだし、誰がこの謎を知っているのか。
そんな考え事をしながら決裁書類を一枚、一枚チェックしていた。
職務専念義務違反な気もするが、職務専念度なんて誰も測定できないから大丈夫だ。いざとなったら、そのふんわりしたルールを魔王の権限で変更するし。
――と、変な書類があった。
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深淵解明プロジェクト
深淵にまでつながっているという魔族の土地。この土地の最深層にはいったい何があるのか? この謎を解明するために我々取材班は、地下への大洞窟へと向かった。
つきましてはこのプロジェクトの補助金として、以下の金額の補助をお願いしたき次第……。
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魔族に関わりがありそうな世界の秘密を探る研究だな。直接的な利益にはならんが、こういう事業にも金は出している。夢があっていいと思う。
で、直接的な利益にはならなくても、間接的には意義を持つこともあるのだ。
「この発想、使えるぞ」
ヒントはいろんなところに転がっているものだな。
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レイティアさんの発光する体質はいつ、どういう理由で生まれたのか?
この謎を解明するためにワシら家族は、休日、レイティアさんのご両親の家へと向かった。
もしも、幼少期のことが発光の原因だとしたらレイティアさん本人が覚えていなくても、なんらおかしくはない。だが、ご両親なら強く記憶していることもありうるだろう。
ワシは手土産を出して、早速、事情を説明した。
どちらかというと、お義母さんのサスティナさんのほうが権力を持っていると思うので、そちらに向かって話をする。
「なるほどねえ。同じ部屋で眠れないとなると、大変ですねえ」
サスティナさんは年齢の割には眼光が鋭い。人間だが、あと四十年ぐらいは軽く生きそうだ。
「それじゃ、孫ができづらいから、ほんとに大変です」
「おばあちゃん、そういうことは言わないで!」
こういうネタにはアンジェリカが過剰反応する。いや、アンジェリカにとったら正常な反応なのか……。
「ええと、何か知っていることがあれば教えていただけますと幸いなんですが」
今回もワシはとにかく下手に出る。
印象を悪くしても何もいいことはない。
その時、サスティナさんの隣に座っていた義父のバインディさんが、にやりと笑った。
「それはそうじゃろう。この俺は聖なる力を受け継ぎし一族なのじゃからなあ」
なっ! 信じがたくはあるが、レイティアさんが特異体質であることが事実である以上、あっさりと否定しづらい話だ!
「そんなわけないでしょう。あなた、伝説の勇者ごっこは頭の中だけでやって」
サスティナさんがぶった斬った!
バインディさんが寂しそうな顔でうなずいた。
ワシまで切なくなってきたな……。
「私たちはただの一般人ですよ。レイティアが特別な血を受け継いでるってこともありえない。だから、レイティアが妙な力を持ってるとしたら後天的なものです」
これだけサスティナさんが断言するのだから信じていいのだろう。
「何か知らないかしら? 効果のほうは聖水みたいに魔族に悪影響を与える力のようなんだけど」
レイティアさんがソファから身を乗り出す。レイティアさんにも地味に被害が及んでいるのだ。
というのも夜に自然と発光してしまい、その光が気になって目が覚めることがあるらしい。
すぐに寝つけるレイティアさんだが、光ってしまっては起きてしまう。長い目で見ると、レイティアさんにも健康被害が出かねない。
「そうだねえ。レイティアが子供の頃は家族で旅行にも行っていたんだけど」
サスティナさんがマスゲニア王国の地図を持ってきた。
ワシにはなじみのない地名――と言いたいところだが、ワシも今は王国に住んでいるのでかなり覚えている。旅行の対象になるような、有名な観光地ならなおさらだ。
「ここは三歳の時に行ったわね。ここは五歳の時。ここは七歳の時ね」
そして、ワシがよく知っている地名にサスティナさんの手が動いた。
レナールの泉!
この泉こそ、ワシが家族の飲み水としてまとめ買いしている聖水ではないか!
2月19日にはガガガブックス2巻が出ます! よろしくお願いいたします!