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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王の義理の娘になった女勇者、家出する編

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10 家出娘を連れ帰る

 こうして、アンジェリカを見つけることまではできた。


 だが、これからどうしたらいいんだろう……?

 当たり前だが、年頃の娘を持ったことなどないから、接し方がわからん! 今までもずっとわかってなかったが、この状況はなおさらわからん! はっきり言って難易度が高すぎる!


 アンジェリカもものすごく対応に苦慮しているらしく、こちらと目を合わせようとしない。何もない壁のほうに視線を向けている。


「アンジェリカ、どうして帰ってこなかった? 友達の家に泊まるなら事前に連絡を入れろ。探し回ったぞ」

「…………魔王のいるところに勇者が帰れるわけないでしょ。だから、ここに籠城したのよ」


 どうにか言葉を紡いでいるという様子だ。籠城という表現は使っているが、とても戦うような意志はないらしい。どうしていいかわからず、とにかく、ここに転がり込んだというのが真相だろう。


「ごはんの用意もできている。泊まらないといけない理由がないなら帰るぞ。ワシにつかまれば空間転移魔法で一瞬で帰れる」

 こういう時、この魔法があって心底便利だと思った。


「…………」

 アンジェリカは無言を貫く。何を言えばいいかわからないのだろう。意固地になっているのは、娘を育てた経験がないワシでもわかる。


「アンジェリカ、この魔王さんの顔をはっきりと見なさい。あなたのことを真剣に考えているのはすぐにわかりますわ。女勇者たる者、相手の真意を無視するような振る舞いはいけませんわよ」

 女魔法使いセレネが腕組みしながら言った。こちらの味方になってくれるらしい。


「セレネは魔王が父親になったことがないからそんなことを言えるのよ」

 セレネがちょっと言葉に窮した。たしかに、これだけの異常事態はそうそう起きないからな!


「セレネ、よく考えてみてよ。私たちのパーティーは先日、ついに魔王のところにまでたどりついたのよ? そこで全滅しちゃったけど……それでも、魔王を倒すところまであと一歩というところまで来た。なのに、目覚めたらその魔王が父親になってるって……そんな悪夢、ありえる!?」

 まくしたてるようにアンジェリカが主張している。


「しかも、魔族は王国と和平を結ぶから勇者もいらなくなるとか言われて……急展開すぎて、どうしていいかわからないよ! あの家にいたら、どうかしちゃうわ!」

 アンジェリカも相当ため込んでいたらしい……。これだけ言葉が濁流のごとくあふれてくるとは思っていなかった……。


 これは連れ帰るのも無理そうだな……。まあ、安否はわかったことだし、いいかな……。


 だが、次の瞬間、ありえないことが起こった。

「アンジェリカのバカッ!」

 セレネが杖でアンジェリカのすねを思いっきり叩いた。いわゆる、会心の一撃というやつだろうか。


「つっ! つっ……!」

 すねを押さえて、アンジェリカはぴょんぴょん跳ねている。いや、あれは痛い。痛いとすら言えないぐらいに痛いのだろう。


「何するのよ、セレネ……。杖はそうやって使うものじゃないでしょ……」

「アンジェリカ、勇気ある者と書いて勇者なんですよ。今のあなたは卑怯者ですよ!」

 セレネが啖呵を切った。加勢してくれてありがたいような、かえって話がややこしくなりそうで怖いような、複雑な気分だ……。


 でも、少なくともワシからは何も言えないな……。勇者パーティーの内部の話だからな……。


「セレネだって魔王が父親になったら混乱するわよ! これほどの事態なんてありえないでしょ! 少しぐらいそこのところ、考慮してくれてもいいでしょ!」

「アンジェリカ、あなたはここにいて魔王を悲しませてるんじゃありませんわ。お母様を悲しませているんですわよ! 戻りなさい!」


 その言葉がアンジェリカの胸に響いたのだろうか、彼女の目が見開かれていた。

「そっか……。そうだね……。魔王から逃げるのはいいけど、それでママを悲しませちゃうんじゃダメだよね」

 いや、ワシからも逃げるなよと思わずにはいられんが、事実としてすでに逃げていたのから、どうでもいい。


「それに、この魔王さんも本気であなたのことを心配しているようですわ。わたくし、これでも人を見る目はあるほうですから。でなきゃ、ここにも通しませんわよ」

 ふふふとセレネは笑みを浮かべた。アンジェリカと同じパーティーではあるが、セレネのほうが四つは上だろう。魔法使いというのは知識を扱う職業だし、余計に姉役のように見える。


「魔王が私のことを心配してたとしても……それはママに心配させたくないからでしょ」

「だとしても、お母様のためにそれだけ全力になってくれる方のことをむげに扱うのはおかしいではありませんか」

 はっきり言って理屈の勝負になった時点で、アンジェリカはセレネに頭が上がらない。


 アンジェリカはため息をついて、ようやくワシのほうを見た。

「じゃあ、今から帰宅するわ。連絡しなかったことは謝る……」

「無事でいることがわかってよかった。ワシには謝らんでいいから、レイティアさんに謝れ」

「うん……」


 ワシは空間転移魔法で、勇者の家の真ん前に出た。

 原因不明だが、空間転移魔法は昔から建物の外にしか来れないのだ。

 でも、今はそのワンクッションがちょうどよかった。


「はぁ……ママにどう言おうかな……」

 ああ、悩みはあるよな。


「こういう時はな、率直にごめんなさいと言えばいい。変な言い訳で取り繕おうとすると、かえって損をするようにできている。組織における不祥事発生時の法則だ」

「組織の不祥事と一緒にしないでよ」

「家族も組織の単位だ。考えは適用できる」


 しばらく、ドアの前でアンジェリカは立ち止まっていたが、そこで一度深呼吸をした。

 覚悟が決まったらしい。


「ありがと、魔王。気が楽になった」

 初めてアンジェリカはワシのほうを見て、笑った。

 悪い気はしなかった。


「礼は成功してから言ってくれ」

「お礼じゃないわよ」


 アンジェリカがドアを開けた。

 奥に見えたレイティアさんはアンジェリカを見ると、泣きながら抱きついた。


 ああ、しっかりとアンジェリカを捜してよかった、そうワシは思った。


 それから三人で料理を温めなおして、遅い夕食をとった。

 一家だんらんと言えなくもないのではないだろうか。


 ただ、また、問題が起こった。

「魔王、あなた、食べすぎでしょ……。もう、三人分ぐらい食べてるわよ……」

「いや、普通だろう? アンジェリカこそ、食が細いぞ」


「セレネのところで食べてきたからよ」

「もしかして、夜に食べると太るとか気にしてるのか? ダイエットなどは考えずにばくばく食べろ。太ってから心配をすればいい」

 もしや、それは図星だっただろうか――


「うっさいっ、魔王! いらんこと言うな!」

 アンジェリカにデカい声で怒鳴られた。

 まだまだ義理の娘との距離感はつかみきれていない……。


 だが、そんな様子をレイティアさんがくすくす笑って見ていたので、よしとしようか。


義理の娘の女勇者、家出する編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

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