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リザレクション  作者: 毛糸
Side: Syu Hashimoto from Jinsyo High School
1/2

1-1 バリヤー


【7-1】


 何度このスコアを確認したろう。

 何度確認しても現実は揺らがない。

 八つのゴールを許した。八度、俺の背後のゴールネットが揺れた。ネットが揺れる度に向こう側の観客席は湧いた。後半、俺らの背後には、俺らの応援団がいる。

「最後まで諦めるな!」

 いや、もう無理でしょ。

 ディフェンダーは止まない攻撃を浴びて足が止まっている。

 攻撃陣も、残り時間が一〇分に迫るこの時間で、ようやく一点を返せたが、当然あきらめムードだ。相手のディフェンス陣は遠目にも元気そうだし、冷静だ。こちらはボロボロなのに随分な違いようだ。右サイドバックの塩山なんて脚が震えている。何より、俺が泣きそうだった。

 七失点。初めてゴールキーパーとして出場した試合はどうだっただろう。負けはしたが、ここまでの失点はなかった。

 まただ、相手のディフェンスラインでぐるぐると回っていたボールが、中盤に回され、ワントップのフォワードへと渡った。こちらのディフェンス陣の肩が、「まただ、もう駄目だ」と語る。

 ワントップ、背番号一〇番。エースストライカーのあいつは、ここまで四得点二アシストだ。化物だ、化物。ドリブルもできるし、パスもできるし、シュートもできる。少なくとも、守備を除けば、奴には欠点が見当たらない。

 センターバックの鷺沢が抜かれた。もう一人のセンターバックの荒川も難なくかわされる。両サイドバックがあいつを追うが、間に合わない。

 一対一だ。決められれば、ただでさえひびの入った俺らの戦意は粉々だ。止めなければいけない。

 もう遅かった。俺の右へとボールが進んでいる。右手を伸ばすが、届かない。




***** 

 



「ねぇ君、サッカー部に入らない?」


 聞こえないフリをした。僕は両耳にイヤホンをはめていたし、そこそこの音量で音楽を聴いていたのだが、勧誘の声の凄まじいこと。

 入学以前に、知り合いの知り合いの先輩から聞いた話によれば、この人翔高校は創立からまだ10年そこいら。学校をスポーツの名門校にしたがる理事長の意向から、部活動に対して力を掛けているらしい。


「ねぇ君、サッカー部に入らない?」


 中学3年生の終わりまで、僕はスポーツに打ち込む日焼け小僧だった。風呂に入る度に、露出していた腕脚と胴体との色の差に笑う日々だった。

 今では肌色は落ち着いた白へと戻っている。チームを引退して以来ろくに日を浴びなかったし、体も、指を除けばまともに運動させていない。腹筋には贅肉が被さっている。それでもまだ痩せ型だから、慌てて体を引き締めることもしなかった。


「ねぇ君、サッカー部に入らない?」


 校則として、生徒は必ず何かしらに入部しないといけないという。入部さえすれば幽霊になっても怒られない部はなんだろうか。運動部に力を注いでいるとはいえ、文化部もまた充実していた。

 音楽が好きだから軽音楽部は魅力的だが、ギターを弾きたいとは思えなかった。

 文芸部は、年に二度、全部員による部誌を発行する。文学の造詣が深かろうがそうでなかろうが、詩だか小説だかを書かなければいけない。さもなくば除名。

 吹奏楽部は、高校から始める勇気はない。たとえ文化部だとしても、吹奏楽のモットーは運動部のそれと似通っている気がする。

 茶道部、華道部、書道部、合唱部、その他もろもろ。どれも魅力を感じない。


「ねぇ君!」


 耳が引っ張られるような衝撃。実際、イヤホンを引っ張られていた。ブツン、とノイズが走ったと思えば、両耳からピースが飛び出た。見ると、見知らぬ右手がイヤホンコードを握っている。視線を上げる。

 女子だ。部活の勧誘なのだから上級生。薄化粧、ていうか化粧をしていない? 女子高生は全員が化粧品で顔面を武装しているんじゃないのか。入学二日目にして初めて、異端者を見た。サッカー部って言うのだから、恐らくマネージャーなのだろう。

 そもそも、どうして俺は、初対面(おそらく)の上級生にイヤホンを無理やり外されたのだろう。


「なってないねぇ、話くらい聞いてよ、新入生?」


 表情から声の調子まで、生き生きしている人だ。例えるなら太陽かマシンガン。恋愛シュミレーションゲームにこんなキャラクターがいたっけか。現実にいたらきっと引いてしまうと思って、敬遠していた攻略対象。実際、引いている。

 何と返していいか分からず、


「はぁ……」


 と会釈してみせる。


「サッカー部に入らない?」


 何度目だ。

 一度で諦めてくれよ。ティッシュを渡そうとして断られて食い下がる馬鹿真面目がいるか。


「いや、サッカー興味ないし、やったことないんで、無理です」


 興味がない奴には食い下がらないだろうと踏んで、とにかく拒否する。


「そこをなんとかさぁ、お願い! 今さ、前の世代が抜けちゃって、ゴールキーパーがいないの」

「じゃあ、やる気のある新入部員に、ゴールキーパーのやりかたを教えればいいじゃないですか」

「それはさ、いや、部員自体は足りてるよ? 今はディフェンダーの一人がやってくれてるんだけど、ぶっちゃけ頼りないの。頑張ってくれてるとは言っても、やっぱり本職じゃないとゴールは守れないじゃない?」

「あの、聞いてました? 俺、サッカーやったことないんですって。ゴールキーパーもやったことないですから、どのみち俺じゃ無理ですよ」

「いや、だから! だからこそね? まだゼロの状態の新人にゴールキーパーのハウツーを叩き込むんだよ。すでにディフェンダーとして成長してる人より、白紙の人のほうが、伸びしろはあると思うんだ」

「でも、俺にはやる気がないんで」

「そこを何とかー、お願い!」

 

 と言って、マネージャーは両手を合わせた。お願いされても困るし、とにかく断るしかない。


「あの、俺ちょっと用事があるんで、もういいですか」


 これが最良だ。嘘を吐いて逃げよう。一方的に壁を建てれば勝利だ。


「そっか。でもまた行くからね。休憩時間も勧誘しに行くから、絶対に!」


 こういうのを負け惜しみと呼ぶのだろうか。俺のクラスも知らないのに。


「……こ、これで勝ったと思うなよ! 橋本秋!」


 ここまで来ると、俺はうざったいのを通り越して、マネージャーさんが可哀想に思えてしまって、ハイハイと手を振った。結局部活は決まっていない。

 また音楽を聴こうとしてイヤホンを探すが、どこにもない。イヤホンはマネージャーの手の中だ。これには参ってしまう。あんな去り方をしたくせに、戻って「イヤホン返してください」だなんて、言えるわけがない。諦めるしかなかった。入学早々に不運だ。変なマネージャーに目をつけられた。

 さっきは気にならなかったが、なぜあの人は俺の名前知ってるんだろう。思い出すのが遅かった。

サッカーの小説書いてみました。ちゃんと続けられるか不安ですが、シナリオはある程度できてあるので、スムーズに投稿していこうと思います。

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