「昼」「裏切り」「先例のない脇役」 - 「ホラー」
先例のない脇役とかホラーとか無理だろ
とか思いながら書いてたら裏切り要素がほとんど無くなったでござる。
本当は冒険者に裏切り者がいる感じで書いてたのにどうしてこうなった
俺はちょっとした中規模の街の門番。
名前を名乗るほどのもんじゃあない。
ガキこの頃からそれなりに体が動かせて、
読み書きもそこそこ出来て、
まぁまぁ真面目に物事に取り組むことから、
街の兵士にと誘われた。
戦争が起こったり、魔獣が襲ってくれば危険な仕事だが、基本はのんびりしていられる仕事だ。
ある晴れた夏の真っ昼間にその旅人は街を訪れた。
日差しのキツイ夏、街に用がある周辺の村人たちは早朝に街に押しかけて、太陽が中天に登る頃にはさっさと街を後にするか、
朝遅い時間に街にやってきて、夕立が終わってから街を後にするかの二択だ。
だから夏の真っ昼間になると、入れる方も出す方も暇になる。
それでも俺たち門番は日差しよけの屋根の下で街の出入りを監視している。
「先輩、アレ」
昼番の相方である後輩からの言葉に俺は、顔を上げ後輩の指が指す方向に目を向ける。
日差しよけのフード付き外套を纏った4つの人影。
「何だありゃ?」
通常この街を訪れるものは、重そうな荷物を背負うか、荷物を満載した家畜や馬車と一緒だ。
もちろん少人数で荷物も最低限で旅する人々がいないわけではない。と言うか冒険者と呼ばれる人々は大半がそうだが、彼らは長距離をゆくときは隊商の護衛を行うし、この街や近くで仕事を行うときはもっと早い時間か遅い時間に個々に到着することが多い。
つまり、いま遠方に見える4人はちょっとした怪しい人びとだ。
王都に存在している特殊な固有能力持ちなら、目の前に来ただけでわかるそうだが、俺達にそんな能力はない。
来た奴らに形式通りの質問と確認をして問題なければ通すだけだ
「冒険者ギルドEランクパーティ漆黒の翼…ね。こちらに来た目的は?」
「北の国境周辺の仕事が割に合わなくなってきたので、南の迷宮山脈周辺を回ってそこで冬を越すつもりだ」
身分証としては恐らく世界一胡散臭く、しかし世界一正確と言われる冒険者ギルドのギルドカードを確認しながら来訪の目的を聞き出す。
「商隊の護衛などの依頼は受けないのか?」
「冬までに迷宮山脈の麓に行ければいいという考えてのんびり観光しながらだからな。一応この街でも情報を集めて、次の目的地までの護衛依頼があれば考えるつもりだ」
ひとまずその答え自体に問題はないと感じた俺は、規定通りの通行料を受け取り、
4人の腕に門を通過した証である緑色の腕輪を嵌めていく。
そして俺と受け答えしていたリーダー以外の3人は小さく会釈しながら街の中へと入っていった。
4人が門を完全に潜ったを見届けた俺は、控えている後輩の感想を聞く
「怪しいっすね」
「怪しくない冒険者なんているのか?」
「さぁ?」
つまり後輩の判断も現状では問題なしということだ。
「冒険者ギルドから『元』Eランクパーティ漆黒の翼の6人が、北の国境紛争で裏切り・強姦・殺人・放火の容疑で指名手配されてたっすけど」
「問題ないな。世界で最も正確な身分証が彼らが『現役の』Eランクパーティだと告げている」
「ええ、問題ないっすね」
そう、冒険者ギルドのギルドカードは半年ごとに更新が必要で、更新しなかった時点で『元』冒険者ギルドの会員という扱いになる。つまり冒険者ギルドが『元』冒険者ギルドの会員の手配書が回ってきた場合、その手配書が有効になるには最大で半年の期間が必要になる。
実際にこの国の王都や、東の国境都市でそういう判決が出されて、手配された冒険者と誤認して捉えた衛兵が処刑されている。
そのような状況なため、少なくともこの街では冒険者も冒険者ギルドも信用されていない。
少なくともある程度の信用を積み重ねることでなれるBランクも現在は例外事項の適用で投げ売りされており、
犯罪 → 遠方でEランクで登録しすぐにBランクへ → 犯罪 の無限ループ状態である。
門番としてもいちいち相手にするだけ時間の無駄なので冒険者ギルド員はほとんどチェックせずに素通りだ。
一応街の住民に警戒を促すために、商隊に属さす単独で入って来るような冒険者には緑色の腕輪を
商隊に属してやってきた冒険者には青色の腕輪を
元々この街にいる冒険者には黄色の腕輪を嵌めさせている。
ちなみに何も嵌めていない冒険者ギルドの会員は領主権限で牢屋行きで、それで揉めた冒険ギルドの職員の首が幾つか飛んでいる。
翌日の昼間、緑色の腕輪を嵌めた4人の冒険者の死体が街の中で見つかった。
体は見事にアザと穴だらけの凄惨なもので、顔も判別不可能な状況だったらしいが、事件性のない自殺として報告が回ってきた。
「まぁ、いつものことで何も問題ないっすね」
冒険者ギルドから控えめに抗議が来ていると報告にはあった。
「たしかに、いつもの日常だ」
そう言って俺は門番の仕事を続けるのだった。