×栞ー03(確立一)
「ねぇ茉莉君、一つ君に相談があるのだが。」
今日もそう言って、栞は僕に話しかけて来る。
栞の方が頭がいいのだから―――確実にそう、とはもちろん言えないが、僕はそう感じている。【此処】の事や【能力】の事。他にも色々な事を栞から教えてもらっているからかもしれない―――相談も何もないものだ、と思う。
でも、そうやって、変わらずに話しかけてくれる事に、いつしか僕はある種の安心感を覚えているのも事実だった。
安定。
変わらない物。
変わらない者。
僕はそれらのモノを好んでいる。
【能力】が発現してから、周りの人の、
僕を見る目が変わった。
接する態度が変わった。
誰かに通報され、政府の施設に隔離された。
その後…………………あれ、その後、どうしたんだっけ?何で僕は今【此処】にいるんだろう。
…………………まぁいい。とにかく僕は、今のこの生活が好きだ。
だから僕は、何も変わらないように、いつものように栞に答える。
「今日は何かな?」
「英知君に借りた本なんだけど、この部分の探偵の証明は、間違っているよね?」
指差しながら本を僕の方へと寄せる。
その本は、僕も前に読んだ事があるものだった。でも、探偵の証明に疑問なんて別に抱かなかったけど。
栞の指差す部分を見る。がやはり何もおかしい点は無いように思う。
「それで―――」
「…何がおかしいのか分からないんだけど?」
僕がそういうと栞は、少し驚いた顔をして、その後呆れた声で言う。
「君はこの部分に何の疑問も抱かなかったのかい?」
そう言われても。
「いや、別に、何も。」
「この部分の確立の話だよ?」
「いや、ごめん、分からない。」
すると栞は何を思ったか、本をパタンと閉じ、
「仕方ない、じゃ、実際にやってみようか。」
と言って、僕の本棚をごそごそとあさり始めた。
「え?ちょ、何してるの?」
「ん?栞の挟まってる本をね、探してるんだよ。もちろん本に挟む方のだ。」
「それは分かってるよ。…………というか、今持ってる本に挟まってたと思うんだけど。」
「これはデザインが気にくわない。………まぁ君も年頃の男の子だからねぇ。焦る気持ちも分かるよ。ふふ。」
別に焦ってない、と反論する間もなく、栞は、三冊の本をベッドの上に並べながら言った。
「始めようか。」