×栞ー02(十対五十)
「ねぇ茉莉君。一つ君に相談があるのだが」
気配も無く、いつの間にか枕元に立っていた栞が言った。
英知から勧められた本に、すっかり没頭していた僕は、本気でビビってしまった。
…………何かアレだよね、栞さん。
あなた、もう僕を驚かすことを楽しみの一つにしてるよね?
くっくっ、っと一通り笑った後、栞はもう一度同じ事を言った。
「ねぇ茉莉君。一つ君に相談があるんだ。」
相談はいいんだけどね。驚かすのは止めて欲しい。
「何かな?あ、ところで栞、今何時?」
「今は13時39分だ。――あのね、10円玉と50円玉の勝ち負けを決めたいんだよ。」
時間を分単位まで言うところが栞らしい。
強さってどういう事なんだろうか。
「強さ?」
「うん。常々思っていたんだけどね、硬貨の勝ち負けをしっかり決めておいた方がいいと思うんだ。だからまずは10円と50円。」
「………よく分からない。」
「ふん。じゃあ君は、10円玉と50円玉と、どっちが強いと思う?」
「……………50円玉、かな?」
「何でそう思う?」
「いや、何でって、……………値段?」
「はっ!!安易な。」
いや、馬鹿にされてもさ。
「じゃあ君はどう思うのさ?」
「だからそれを決めるんじゃないか【硬貨レベル】を。」
ずるい!!
それはずるいぞ栞。まぁソレを栞に言っても仕方ないんだけど、その前に気になる言葉が………
「【硬貨レベル】?」
僕が聞くと栞は、気まずそうに言った。
「……………忘れてくれ。」
なんか久しぶりだな。栞のこの微妙に困った表情。
「安易も何も、値段意外に何があるのさ?」
「これだから貧困な想像力の人間は困る。例えば数だ。50円玉は一枚で50円だが、10円玉は5枚で50円だ。」
「…………それが?」
「数の暴力。」
「………少ない方が、嵩張らなくて便利なんじゃ。」
「一枚落としたとしても、10円玉なら被害は10円で済む。50円玉なら50円だ。」
「んな。そうだけど。それは問題が摩り替わってるよ。」
「そうかい?なら―――――」
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しばらくの間意見を交わしたが、結局どちらが強いかは決まらなかった。