×栞ー04(天秤)
「ねぇ茉莉君。一つ君に相談があるのだが。」
「うん。」
「大切な人がいるとするだろう?それは、家族でも、恋人でも、友人でもいい。」
「それは複数でもいいの?」
「ああ、複数でも、一人でも構わない。とにかく、自分の命と金の次くらいには大事だと思える人だ。」
「何か言葉にちょっと棘を感じるけど、まぁ分かった。それで?」
「その人が死んでしまうのと―――」
一度言葉を切る栞。
僕の顔を見つめている。
否、観察しているという表現が近いか。
いつもの冗談のような話の一つかと思ったが、それにしては真剣な表情をしている。
…………………物騒な話だな。
まるで僕が死んでしまうみたいな…………いや、違うか。全然違う。
僕は死なないし、栞の中で僕がそんなに大きな存在の筈がない。
心理テストか何かなのかもしれない。
「―――その人に、殺してやりたい程に憎まれるのと、君なら、どっちがいい?」
「………どっちが、いいって、そんな。」
「どちらかと言われれば、だよ。いわば、その人を生かしておきたいかどうか、だ。」
「……………そんなの、生きてて欲しいに決まってるじゃないか。」
「本当に?大切な人に、憎まれるんだよ?ただただ純粋な憎悪を、向けられ続けるんだよ?いつ自分がその人に殺されてしまうかも分からない。」
「……………うん。」
「聞き方が悪かったかもしれない。君は、大切な人に憎まれるのに、耐え続ける事が出来るかい?」
「でも、生きてれば誤解が解けるかもしれないし。」
「誤解が解ける事はない。そもそも、誤解なんてものは存在しない。さらに、何かの漫画で有った様に、どちらも選らばないなんて事も出来ない。必ずどちらかを選ばなければならない。…………………茉莉君。君はどっちを選ぶ?」
「……………………………………それでも。…………………生きていて欲しい。僕は。」
「……………………………………。…………………すまない。ちょっと悪ノリしすぎたかもしれない。ところで茉莉君、【硬貨強度】の件だけど、あの後一つ思いついたんだが―――」