×鞘香ー03(初期作品)
「鞘香さん、聞きたい事があるんだけど。」
「んー?何かな?」
木工用ボンドで、釘を板にひたすら張り付ける作業を続けながら、聞き返してきた。
えらい原始的な作業だな、今日は。
というか、それに何の意味があるんだ?
聞いてもきっと分からないから、聞かないけど。
最近、最低でも二日に一回はこの、【研究所兼探偵事務所兼占い所】に、顔を出している気がする。
いや、だから何だ、とかはとくに無いんだけど。
「今更って気がしないでもないけど」
と、前置きを挟む。
「うん。」
と、相槌を返してくれる。
それにしても、木工用ボンドとはまた懐かしい。
触ったのなんていつ以来だろう。
独特の匂いが、微妙に心地よかった。
「図書館にさ、【微妙に落とし穴】ってあるよね?」
「んー?うん。」
「アレって、何で、【微妙に何とか型何とか】って名前じゃないの?」
「んーーーー、よし、やっとくっついた。この木は何だか相性が悪いのかな?」
と言った後、木と釘から手を離し、顔を上げて続けた。
「あれは初期の作品だからだよ。」
「初期?」
「うん、最初の頃はね、ああいう名前だったんだ。」
「ふぅん。」
よく分からない。
「何で止めたの?」
「あだ名がつけにくいじゃん?」
「あだ名?あだ名って、【びこつぅ】とか、【びさそぅ】とか?」
「うん、【びおぉ】ってなるし。」
「落とし穴?」
「うん。【びおぉ】だよ?【びおぉ】。気持ち悪いでしょ?」
「いや、まぁ。」
分からないけど。
別に他にも略し方はあるんじゃないか?
うんまぁでも、鞘香さんなりのポリシーがあるのだろう、きっと。
僕が何も言わないでいると、それで話は終わりと判断したらしく、鞘香さんは作業に戻ってしまった。