皆が喜んでくれるなら
何か新しい、良いことが出来ないかなぁ。
皆が喜んでくれるような、何か。
思いつくまで考えたかったんだけど。本当にちゃんと考えたかったんだけど。眠気には勝てなかったよ。ぐう。
気がついたら朝だった。
朝の支度をしてベッドにも清潔魔法をかけて、リュートと大教会に向かう。
朝の礼拝で、いつもの祝福魔法をかけようとして。
ふと思った。皆この魔法を喜んでくれてたなあって。
だから。出来る筈なのだ。何でも創造出来ると言われたんだもの。
全ての国中に祝福魔法を。その日の夕方の礼拝でも同じようにした。
本当にどこまで届いたかはわからないけれど。次の日も、その次の日も。ずっとやってみた。
そうして五日くらい経って。大司教に訊かれた。
「祝福魔法が他国にまで届いておると報告が来た。一体どこまで範囲を広げたのだ?」
私は返事をした。
「全ての国中に、と願ってます。どこまでかは私にもわかりません。でも害はないでしょう?」
「いきなり金色の光が降って来たので驚いている民がおる。神からの何らかの前知らせではないかとな。まあ通達は出しておいた。各国の教会が民に説明するから誤解はされんだろう。」
ならいいや。リュートは横で呆れてるけど。
これからはどこで祈っても全ての国中に祝福魔法が届きそうでホッとした。疲れだけでも癒されたらちょっとは嬉しいよね?役に立つよね??
ちょっと嬉しい、どころではなかったらしい。
祝福魔法が届いた全ての国は、それが一時的ではなく継続することを知って、私たちと大教会宛に感謝として何がしかの謝礼と品物を送ってくるようになった。
それが多過ぎたからすぐに大教会を通して最低限の謝礼金で良い、物品を送らないように、と通達した。それでもなお送られて来る物があって。
必要な物は買うから。ちゃんとお金出して買うから。買いたいのよ。私たちのお金の使い道が無くなっちゃうよ。
こんなに送られても必要以上だよ!と悲鳴を上げることになるとは思いもしなかった。
その後各国で豊作が続いて。祝福魔法は土地や植物にまで及んでいることを私が認めざるを得なくなるのは何年か後のことになる。
そしてリュートが作った振り子時計は、船に置いてもそんなには狂わなかった。元々何日かに一度は港に入港するから、その際にギルドの時計か教会の鐘に合わせれば良かったのだ。
今では時計の無いギルドの方が珍しくなっているし、教会の鐘はどの町や村でも振り子時計で時を測って毎日六時と十二時と十八時に鳴るようになった。
またこの世界に時差があることも知られてきた。それは私がハプス島から祝福魔法を世界中に届けてるから分かったこと。早朝や深夜に降ってきたり昼に降ってきたりしてる国があったのよ。
まあ、誰も困ってないけど。そんなこともあるのね、くらいの反応。そりゃそうか。船乗りだって別に困っていないんだもの。ジェット機で移動してるわけじゃないからね。
時計は近頃はちょっと大きな商店とか貴族とかでも注文や購入をし始めてるから、細工師さんは前にも増して多忙になってる。一年に一度のメンテナンス先も増える一方だそうだ。頑張ってね。
カレンダーは木の板に焼き印で書いてあるし、曜日は十曜日にしていてひと月は全部三十日だからいわば万年カレンダーだ。
だから私はそんなに売れ続けることはないと思ってた。一回買ったらずっと使えるもの。
でも夜にその日の日付部分をナイフで削る家が殆どで、毎年買い替える人の方が多いことが判ってきた。
(確かにその方が判りやすい。日めくりみたいで。)
春の一月が最初に書かれているから、冬の三月頃に一番売れるんだそう。
そういう意味では季節商品かも。手帳サイズの携帯カレンダーも結構人気がある。
祝福のお茶の人気は相変わらずで、茶葉を作る為のラフの木とヤムウの木の畑は毎年少しずつ広くなっている。苗に育成魔法をかけて大きくしているリュートの姿も見慣れてしまった。
リュートは敵と見做すと容赦ない奴だけど、身内にはとことん優しい。気遣いも細やか。その優しさが育成魔法として現れたんだろうと私は思ってる。
だとしたら育成魔法はリュートにしか使えないよ。うん。
祝福魔法が全世界に届くようになった以外は大した変化はないんだけど、少しは皆の役に立って喜んでくれてるならまぁいいか。




