工夫の続き
干し柿が両親に喜ばれた翌日、家の裏庭に渋柿の実を四つ、埋めてみた。日本では「柿八年」と言われてたけれどここでは成長も早かった。三年経った今、四本の木それぞれに少しだけど実がなっている。
この分ならあと二年くらいでわざわざ裏山に行かなくても充分な量の干し柿を作れそうだ。
あとはリンゴの皮からパン酵母を作るのも成功した。
爽やかな香りがするから母さんがパン生地を捏ねている時に生地を少し分けて貰って入れてみたらふわふわのパンが焼けた。母さんがリュートにどうやったら酵母が出来たのかすごく真剣に尋ねてきた。
それまではただ粉を捏ねて焼くだけだから堅いパンだったのよ。酵母の作り方に慣れた母さんが酵母を使ってふわふわしたパンケーキを作ったら近所の皆さんに大好評。
一年経った今では村中で酵母を作ってパンを焼いてる。だんだんに近隣の村や王都にも広まってるらしい。
シードルは今年の秋に、リンゴジュースを貰ったら作ってみようとリュートと話してる。ジュースだとすぐ傷むから飲む度に作るんだけどシードルにすれば一年くらいは保つからね。とにかくそのままでは売り物にならないリンゴは沢山あるから、シードルが売り物になると父さんが判断してくれるといいなぁ。
リュートのスキル「知恵」は優れものだった。リュートが欲しい物がどうやったら手に入るか教えてくれる。
私も持ってる「鑑定」では見ている物が何なのかを教えてくれるけれど、何と何をどうすればこれが出来るとかは教えてくれない。
だからリュートにチーズを作る為に欠かせない凝固材はどうしたら出来るか「知恵」で調べて貰うことにした。
そうしたら「創造魔法で合成出来る」って。
要するに魔法で作れるってことだよね。もう少し待たなくちゃ、かあ。
仕方ない、今出来そうなことにチャレンジしよっと。
味噌作り、やってみよっか?リュート。
リュートの「知恵」で作り方は判ってる。
じつは今年の春にうちの庭の隅に味噌の材料になる豆を撒いて育ててる。ニワトリのエサにもなるから親は黙認。麦も少し、っても二キロくらいは使っても良いよと言われてる。パン用ではない、エサ用のだけど。
空の樽(山菜の塩漬け用に買ってたやつ。今は干してるから要らなくなった)があったからそれを貰って父さんに中をよく洗ってもらった。逆さにして水を切って日向に置いてよく乾かした。
麦を母さんに炊いて貰って木の板の上に麦を平す。それに洗った布をかけて上に灰を振りかける。
数日日陰になる倉庫の棚に置いて布を除けると麦麹が出来てる。出来てるかは鑑定で確かめられる。
その日に合わせて豆を煮る。煮上がったら水気を切って潰して塩と麦麹を混ぜて樽に詰め、蓋をする。重しを乗せて三ケ月か四ケ月経ったら甕(以前果物の塩漬けを作ってたやつ。以下略)に移して更に三ケ月。秋の一月に作って出来たのは春の二月だった。私は六歳、リュートは九歳になっていた。
ちなみにシードルは冬の二月に無事に出来上がり、父さんと母さんが狂喜乱舞。
そして来年からは村中共同で作ることになった。何しろ今まで購入しなければならなかった酒を自分たちで作れるのだ。
リュートに感謝する大人は多かった。
うちは干物を作り始めてから塩漬けの物をほとんど作らなくなった。それで塩が余り気味だから味噌を作れたんだよ。「鑑定」では麦味噌ってなってるけど。味はどうかな?
指で掬って舐めてみたら、少し甘いけど紛れもなく味噌だった。このままキュウリにつけて食べても美味しそう。
出来た味噌を葉っぱに少し載せて母さんに持って行った。お椀に注いだスープに溶かして味見してもらう。
すると母さんは父さんを呼びに走り、戻って来た父さんは味噌の入ったスープを一口飲むと
「リュートは天才だ!」
そう叫んでリュートを抱きしめた。
…私も一緒に作ったんだけどな…ちょっといじけた。
そんな私を見た母さんが抱きしめてくれた。
「リン、リュートのことを一所懸命手伝ったのね。偉かったわ。」
と言ってくれた。
まあ、そう見えるのは仕方ないよね。
麹の作り方は滅茶苦茶簡略してます。
あれでは多分無理だよなぁと思いながら書きました。
本気にしないでくださいませ。
この物語はフィクションであり、架空の事柄を書いております。ご了承ください。