ハプス島に家が出来た
冬の一月の半ば。無事ハプス島に帰った私たちは大教会に報告をしに向かった。
最初大学校に行ったんだけど、私たちは卒業扱いになってたのよ。え?じゃあどこに行けば良いの?
私たちの今の所属は大教会内の「特別部署」なんだって。部員は私とリュートだけだけど。
何よそれ?まあ「秘密部署」とか「特務」とかじゃなくて良かったかな?
まあ冗談はともかく。
それより本当にびっくりした。私たちの家が出来てたよ。
大教会の受付にいる神官さんに案内してもらう。
小さい畑と小さい果樹園付きの二階建ての家。
部屋は一階に台所と居間と小さな部屋が一つ。二階には部屋が二つ。あと別棟で食物小屋と物置小屋。
一階の部屋は客用の寝室で折り畳みのベッドが二つあるだけの部屋だった。
二階の二部屋が私たちの個室らしい。既にベッドと机とクローゼットが置かれていて、私たちの替えの服や靴まで置いてある。
あれ?上着の色が司祭の赤なんだけど。
何かの間違いだろうと思ったら、ハプスにいる間は司祭服を着るように言われた。でないと村の人たちが納得しないんだって。えーなんでかなぁ?
でも、何にせよ一番納得出来ないのは私たちに家が与えられたことだ。
基本、大教会か大学校で働く既婚の神官や司祭に家が与えられる。
神官は各国の教会から大教会の求人に応じて来る。
司祭は大学校を卒業した後、故郷に戻らず大教会や大学校で職員になる人がいる。教授たちがそうだ。
でもいずれも独身の内は寮住まい。大学校を卒業して働くようになっても独身なら寮で生活する。
また大学校在学中は原則結婚は認められない。
ただし入学前に結婚した場合は例外。たまに神官としての働きを認められて司祭になる為に大学校に入学する人がいるのだ。その場合は仮住まいの家を与えられて、そこから通うことになる。
各国の教会でも事情はほぼ同じ。王都の教会に付属している学校を卒業して数年経って一人前と認められても独身の神官は大体王都の教会か学校の職員となり付属の寮住まいとなる。
大司教によると私たちは本当に例外なのだそうだ。
なんでも私たちが結婚するのを誰も想像出来ないらしい。
おまけに私たちは二人で一緒にいるのが互いにとって良さそうだからそう決めたんだって。
ノルト村とフェル村の人たちが交代で家の中のことや畑なんかの手入れまでしてくれるって。至れり尽くせりだわ。
でも良いのかしら?こんなに皆に甘えて。
「あのな、リン。神官は神官同士で結婚しなきゃいけないだろう?それでなくてもさ。俺たちのパートナーが見つかると思うか?」
難しいかなあ。やっぱり。
「少なくとも俺はこのことに関しては諦めてる。」
まあ、相手がいたらその時に考えればいっか。
「リュート、私はあんたが幸せでないと嫌だからね。それだけは言っとくよ?」
「お互いさまだ。そんなもん。」
別に結婚だけが幸せのかたちではないし、私はリュートが側にいてくれれば安心出来るし、今は結構幸せなんだよ。
でも、リュートに寄りかかってばかりだから気になるんだよね。だから無理はしないで欲しいんだ。
二階の廊下で立ち話をしていると階下で扉が開く音がして、
「こんにちは。リュートさんリンさん。夕食持って来たわよー」
と階下で女性の声がした。
降りて行ったらノルト村のハルさんの奥さん、ベスさんがテーブルにパンと、ミルクの入った水差しと、ヨーグルトがたっぷり入った壺を置いているところだった。ハルさんは台所のカマドにスープの入った鍋を置いている。
「置いて行くわね。残りは朝ごはんにして。あ、これもあるから。」
そう言ってベスさんは干しぶどうを入れた蓋付きの器とチーズを一つとオレンジを五つテーブルに置く。
「ありがとうございます。」
「何言ってんだ?器や鍋は使い終わったらテーブルの上に置いといてくれ。回収するから。昼は大教会で食べるんだろう?」
「そうですね。」
「それならまたこれくらいの時間に誰かが食事を置いていく。掃除は昼頃に誰かがするから。それじゃあまたな。」
ハルさんとベスさんはさっさと帰って行き、神官さんもハルさんたちと一緒に出て行ってしまった。
え、これ、二人で食べるの?二食分の量じゃないよ?
チーズの固まり一キロがゴロンって。
「まあ、オレンジは明日の朝食とおやつにするんだな。明日も大司教のところに行かなきゃいけないし。精々食べようぜ。お腹は空いてるだろう?」
うん。じゃ、スープ温めて夕食にしようか。
あ、これ野菜と貝のミルクスープだ。美味しそう。
すごく余った。パンやチーズや干しぶどうは取って置くとしても、スープは絶対あと二食分以上残ってる。
明日の朝も気合い入れて食べないと。




