私たちの欲しいもの
王宮の部屋に留め置かれた三日間。
それぞれ一人に一部屋あてがわれたんだけど、司教は昼間はどこやらへ呼び出されているとかで会えなかった。その後の容態とか訊きたかったんだけど。
教会での仕事も沢山あるだろうしね。仕方ない。
私とリュートはフック国でしたことの報告書作りと、ここで新しく使った創造魔法についての報告書作りでほとんど部屋に引き籠ってた。リュートの部屋でだけど。
食事もリュートの部屋で三食取らせてもらった。創造魔法の検証も色々してみたり。
創造魔法と祝福魔法を併用すると、魔力を相当必要とするから、祈り魔法と創造魔法の併用では駄目なのかとかをリュートに実験してもらったり(私では実験にならないんだよ。魔力に不自由しないから、つい祈り魔法を祝福魔法にしちゃう)。
うーむ。それでも何とかなりそうなんだけど、イメージをきちんと持たないといけないのと、治すべき箇所を正確に特定出来ないといけないのがネックだ。
あと、創造魔法は魔力が結構必要だって(リュート情報)。
私とリュート以外では難しいかな?
大司教なら…うん、難しいかも…
なんてことをやってると呼び出しが来た。
呼び出された先は王宮の広間。司教と、副司教三名も揃ってた。
玉座に座っている王様と、隣に座っているお妃様の前に跪いて顔を伏せる。が、すぐに楽にせよ、と言われてホッとして前を向いた。存外若い(と言ってもおじさんだけど)王様だった。まあ、子どもも幼なかったものね。
あ。ベッドサイドにいた貴婦人、正妃様だったんだね。顔色も良くなって美人さんになってる。良かった良かった。
そんなことを思ってたら王様から
「この度はわが息子の病を癒してくれたこと、礼を言う。妃に何か報酬を、と申し出たそうだが、そなたらの欲しい物を渡したくてな。何か望む物は無いか。」
と言われた。
私は別に無い。リュート、あんたは?
リュートは私の表情を見て取ると一歩踏み出して言い出した。
「恐れながら王様。お願いが一つ、ございます。」
「良い。申せ。」
「この国にしばらく滞在して、あちらこちら見物したく存じます。許可をいただけますか?」
「そのようなことなら造作もない。わが臣下を一人か二人、護衛につけよう。馬車も一台。どうか。」
「ありがたき幸せでございます。つきましては本日、ハプスの教会への報告書を託しにギルドに参りとうございます。旅の出発を明日か明後日にしていただけますと…」
「そうだな、では出発を二日後に致そう。臣下も準備をさせんとな。」
…そっか、リュートはちょっと楽な旅をしてみたくなったのかぁ。言ってくれたら馬車代くらい奮発したのに。気がつかなくてごめん。
私たちは広間を辞した。侍従らしき人がギルドまで案内してくれると言ってきた。
一度リュートの部屋に戻り報告書を手にする。
そして私たちと侍従さんとでギルドに向かった。馬車も出してくれた。ありがたい。
私は、私たちが退出した後の王様たちの会話を当然聞いてない。
「司教。あの者たちは何者か。ただの神官ではあるまい。」
「仰せの通りです。陛下。本来なら彼等は司祭かそれ以上の位についている筈。もしやすれば我等より。」
「あの、息子を治した魔法。王宮どころか王都全てを覆った光の、祝福魔法とやら。どれも初めて知った。
しかも祝福魔法の光に覆われた皆の体調が良くなり、心が軽くなるとは。」
「かの子どもたち、妹の方は魔法に優れ、兄の方は聡明であること、我々大人も及びませぬ。また、欲のないことも。かくの如くでありまして。」
「それにとても優しい子どもたちです。私に報酬は後で良いと言ってくれました。
私にそんなことを考える気持ちの余裕がないことを察していたのです。あの女の子はとても心配そうに私を見ていました。」
「まるで聖女と賢人のようだ。まだ幼いが。」
「御意。」
「我が国にずっといて欲しいが、そうはいかぬのであろうな。」
「そうですな。大教会が離さないでしょう。けれども彼等はあのように、彼等が必要とされる所に行くことを厭いますまい。」
「ではせめて神に祈るとしよう。彼等を通してこの国に神の恵みがもたらされることを。」




