祝福魔法と祝福のお茶
一度ハプス島を覆う範囲の祝福魔法を使ったら。
大司教と副大司教、大学校長の強い要望で朝夕の礼拝時に私とリュートで祝福魔法をすることになった。
まあ皆の役に立つなら別に構わないけど。疲れが取れるだけの魔法なんだけどなぁ。
でも祝福魔法で心身の疲れが取れるって喜ぶ人がいることは嬉しい。安眠出来るようになったってわざわざお礼を言いに来た司祭さんや神官さんたちまでいたよ。不眠症だったのかな?
でも。まあ、当たり前だけど沢山の人たちから
「どうやれば出来る?」
と訊かれた。しかも同じ人から何回も。
「祝福されることを願って魔力を少し上に向かって飛ばすだけです。」
ってその度に言ってるんだけど。まだ誰も成功してない。
私、リュートは出来ると思ってたんだけど。
「俺はおまえの魔力に自分の魔力を便乗させてるだけだ。一人でやれ、と言われたら出来ない。」
と言われてしまった。何故出来ないのよ?
「俺はおまえほど単純じゃないからな。他人の祝福だけ願うなんて出来ないんだよ。雑念が少しでも入ったらこの魔法は成立しない気がする。あと意外に魔力使うぞ。」
うーん。そうかなあ。ピンとこない。
で、リュートに出来ない理由を礼拝中に話してもらったら皆諦めてしまった。大司教や校長まで。解せぬ。
そんなに色々考えなきゃいけないことがあるのか。
皆大変なんだなあ。
そしてチーズが出来上がってチーズを教会に持ち込んだ時には校長から
「リンが何か思いついた時はまず私に話してね。」
と釘を刺された(あれはそういうことだと思う。間違いじゃないよね?)。
あ、ノルト村のハルさんとベスさんには秋の一月に男の子が生まれた。
コルって名前で可愛くて。リクが生まれた時のことを思い出しちゃった。会いたいなぁ。
そしてフェル村には夏の三月に男の子、秋の二月に女の子が生まれたし。
それでお母さんのお乳の出が良くなるようにとハルさんたちにラフの葉茶の作り方を教えたんだけど。
それも校長に言うべきだろうか?
「あのう、ミモ大学校長?えーと、 ノルト村とフェル村に赤ちゃんが生まれたので…」
ラフ茶を少し工夫してみたら飲みやすくなった話をしてみる。
すると校長はアムラ副大司教を呼んで来て何やら相談し始めた。
ラフの葉の効用はお乳の出が良くなるだけではなく、
貧血やめまいなどの予防にもなるんだって。
勿論身体に問題無い人が飲んでも大丈夫。
なのでラフ茶を飲みやすく出来るなら。
去年から全ての教会で売っている薬草エキス入りラムドル(ギルドでは無添加のラムドルを普通のお酒として売ってる。一方教会では薬草と柑橘類の皮を漬け込んで濾したラムドルを半ば薬として売っている。実際薬効あるし。)と並行して販売したいらしい。
お酒は妊産婦は飲んじゃ駄目だし、稀に私みたいにお酒を全然受けつけない人もいるからね。
確かに万人受けする商品があると良いと思う。
あ。
「リュート、シナモンに似た匂いの葉っぱ、あったよね。あれも入れたらどうかな?身体が温まるんじゃない?」
「この間見つけた…ヤムウだったか。干した葉ならあるぞ。持って来よう。」
リュートが出て行った。気づいた校長が
「リュート君、どうしたの?」
「ちょっと取りに行ってもらってます。お湯沸かしても良いですか?ラフ茶をちょっと…」
「それならミルクを厨房から少しもらって来るわ。待っててね、アムラ。」
大学校長室には小さなキッチンというか給湯室の立派なの、が付いている。気分が悪くなった生徒を落ちつかせる為の薬湯を作る為に作られたそうだ。
まだ干した薬草を使う前の薬湯は不味くて不人気だったし、今では干した薬草の薬湯を厨房で作ってくれてるから、ほとんど使われてないけれど。
一応今日行く村へ持って行くつもりで用意してたラフの葉と炒った大豆を用意する。
小さな鍋が二つあるのは丁度良い。鍋に魔法で水を入れてリュートを待っていると、ほどなくリュートが戻って来た。
「ほら、これ。まずヤムウの葉だけで煮出して味見しよう。」
干したヤムウの葉は、煮出すと香りが強くなった。
お茶にはほんの少し加えるだけにしよう。
ヤムウの葉だけの煮出し汁を飲んでみる。リュートとアムラさんも一緒に。
香りがちょっと強過ぎだけど甘い?うん。甘い!
香りが強いからラフと一緒に煮出した方が良いし、炒った大豆を入れなくてもきっと美味しい。
ミルクは好みで。入れても入れなくても大丈夫。
校長も加わって試飲して。商品の目処は立ったけど、すぐに真似されるよね。これ。
「教会で売るお茶に祝福魔法をかけて『祝福のお茶』として売り出したらどうでしょう?それでなくても祈りを捧げました、とか。」
「それは良い考えだわ。リン。夕方の礼拝の時に祝福魔法してくれる?」
「言い出したの私ですから。やってみましょう。で、何も変わらなかったら、詰める作業をする時に祈りました、にすれば良いと思います。」




