とりあえず
ヤンさんが家を出て行ってしまったので私は慌てて後を追った。
「ヤンさーん」
大声で呼びかけると気がついて立ち止まり、振り向いてくれる。
「あの、二、三日リュートと教会休ませてください。家族ともリュートとも話をしないと。」
そう私が言うとヤンさんは笑って
「何日休んでも君たちなら他の子たちにすぐ追いつくさ。落ち着いたらまた教会においで。」
と答えてくれた。
「ありがとうございます。」
私は言いながら手を振ってヤンさんを送ってから家に戻った。
それから。両親にはこれからどうしたいかリュートと決めたい、決めたらちゃんと相談する。教会はしばらく休んで良いと言われたからちゃんと考える。と言った。リュートも頷いてくれた。
父さんは午後の仕事に慌てて行こうとしたから、引き留めて計算器を特注したい旨を相談した。
それは明日職人の所に母さんが連れて行ってくれることになった。
父さんも母さんも仕事に行って、家には私とリュートが残った。
「リュート、私はあんたが神官になりたいとは思ってない気がするんだけど。」
「別に構わないんだが。」
「いや、あのね、人には向き不向きが」
「俺たちが生まれ変わる前に聞いたあの声な、神様だって知ってたか?」
「最後に聞いたわ。それ。」
「お前らしいな。でさ。ここは本当に神様が居る世界なんだよ。俺たちはそれを知ってる数少ない人間なんだ。いいか、信じてるんじゃない、知ってるんだ。そんな人間を神様が取り込もうとしないなんてまずありえない。」
それに、とリュートは続けて言ったのは、この村でリュートは(多分私も)いずれ住み辛くなるだろうということだった。ならば神官になって何処かへ派遣された方が良い、何なら司教副司教を目指すのも面白そうだと。
そっか。あんたが良いなら私もそれで良いよ。
しばらくして先に家に戻って来た母さんに神官を二人して目指したいことを伝える。母さんは笑って
「父さんもあなたたちが神官になるのは神様の望みじゃないかって言ってたわ。」
だって。
教会の方から声をかけられて神官になる者が出るのは家族にとって名誉なことなのだ、家族の徳の表れなのだと母さんは言ってくれた。
でも。
「母さん、私もリュートもこの家と農園が好きなの。後を継ぐ子がいなくなるよ?」
私がもう一つの懸念を口にすると母さんがいたずらっぽい顔をした。
「大丈夫よ。再来月くらいにはあなたたちの弟か妹が産まれるわ。」
ええっ!全然お腹目立ってないんですけど?
「リュートの時もあなたの時もそうだったわ。体質ねきっと。」
明日、王都に行くの辞めようかな。
「何言ってるの、行きますよ。シードルのお金があるから心配いらないわよ。」
いや、お金の心配なんかしてないよ母さん。




