いきなりの
「だからさ。花梨は我慢しないと。お前が怒るとそりゃあ怖いんだぞ?」
「優人に言われたくないなぁ。優しい人って名前なのに腹黒ってどうよ?外面ばっか良くてさ。」
夜遅くにファミレスで優人と二人。私はチョコバナナパフェ、優人はイチゴのパンケーキ。お酒が飲めない私に付き合ってくれてる、訳ではない。こいつはすごい甘党なのだ。お酒もザルだけど。
中学校に入って初めて会った瞬間からやたら気の合う私こと近藤花梨の大事な友人、野上優人。
中肉中背のそこそこ良い男ではある。
でもこいつの笑顔に騙されてはならないのだ。
「護身術、習いたかったんだよね〜」
なんてノリで私が通っている合気道の道場に私に付いて来て始めたくせに今では私と同じ二段である。
高校時代は太極拳の同好会に二人して入ってずっと習ってたし(師範の免状持ちの教師がいたんである)。
そして腹黒。人付き合いは見切りが早いし、裏切った奴や嘘ついた奴には本当に容赦がない。
でも身内と認識している間は本当に優しいのだ。
周りからは恋人同士と誤解されたことも多いし、そう思って告白しなかったと言われたことだってある。でもそんな風に思ったことは一度もない。
恋人なんぞにしたらアッという間に別れそうだ。
例えば私は料理が好きだ。下手だと言われようが好きだ。
作った料理を不味いと言われても仕方ないけれど、盛り付けのセンスが私より良い上に
「これを足して、その分あれを控え目にしたらもっと美味しくなると思う」
なんてアドバイスをくれる恋人はいらない。
多少味が微妙でも知らん顔して
「美味しいよ」
と言って食べてくれる方が百倍嬉しい。
掃除も裁縫も編み物も私より上手い奴なんか、恋人に出来るもんか!
アドバイスは友人だからありがたいのだ。
優人にしても同様らしい。がさつな私は願い下げ。現にこいつの婚約者の小夜さんはおっとりした美人で、こいつのそういう癇の強いところも柔らかく受けとめる。できた人なのだ。あ、そういえば。
「今日、なんで小夜さん来ないの?結婚式の相談もしたかったんだよね。」
私は友人代表で披露宴でスピーチする。
「それは明後日の 日曜日って。司会の未奈や和也たちも来るから。お前だけに話すと二度手間になるだろうが。それに小夜は営業だろ?今日は仕事が忙しいってさ。それよりお前、大樹と上手くいってんだろうな。」
大樹は私の主人である。結婚して2年。子どもはまだだけど。
「うん。大樹との結婚の時、優人に随分世話になったからさ。なんか役に立ちたいんだよ、私」
私と優人のことを、飲み込むのは難しいらしい。長い付き合いの友人である優人の方が、最近付き合い始めた恋人よりも私のことを知ってるのは当たり前なのに嫉妬するとか。 優人も同様。付き合っても長続きしなかった。
いつもならそれが理由で離れていく男たちをただ見送っていた優人が引き留めて説得したのが大樹だった。
「大樹は花梨に必要な男だよ」
そう言って。
そして、それは本当だった。上手く言葉に出来ないけれど。
私たちが付き合っている時も結婚する時も、誰より親身になってくれ、誰より喜んでくれた優人に私も大樹も感謝してる。
実は小夜さんを優人に紹介したのは私。会社の支店と営業所の合同研修会でグループに分けられた時に同じグループになって、研修成果を発表する為に話し合ってる内に
「この人、絶対優人と合う!」
って思ったんだよね。
半ば強引に会わせたけど、正解だったわ。優人が小夜さんの前で本当に優しい笑顔を見せるのは嬉しい。
今日、本当は大樹も来る筈だったんだけど、会社の飲み会が入っちゃったから仕方ない。
優人に職場の愚痴をぶちまけてスッキリした。
まあ大したことではない。本当に腹に据えかねることをこいつに言うわけにはいかないもの。
言ったら最期、である。
本気で怒った優人は怖い。あの慇懃無礼な笑顔の裏でとんでもないことをやってのける。
優人が「正当防衛」で人を傷つける時は容赦がない。
例えると、真っ当に歩けなくなるが障害者手帳は貰えない状態にするとか、陰険なんである。
社会的なダメージを与えるなんて想像したくもない。だから思い出さないと決めている。
優人に言わせると私の方が怖いらしいが、私はもって回るようなことはしない。最悪服役しても構わないくらいに覚悟してするだけだ。
幸いなことに今まで一度もしなくて済んでいるけれど。
だから、優人はたまに言う。
「俺とお前が本気になったら最強だ」と。
そうかもしれないね。
ファミレスを出て。駐車場を歩く。妙に明るい、そう思った時。
「花梨!」
優人が私を引っ張った。
「え?」
なんで?車が全速力でこっちに突っ込んで来た。
ここまで読んでくださった方に心から感謝申し上げます。
出来ましたら今後ともよろしくお願い致します。
今のところ五、六話までは書いてますのでそれまでは毎日投稿出来ると思います。
それ以降は週に一度くらいのペースで投稿を目指そうと思っています。
なお、この物語は完全なフィクションです。
実在するいかなる人物、団体とも無縁であります。
同性同名の方にはご不快を生じることがあるやも知れませんが、ご容赦くださいますようお願い申し上げます。