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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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メリウスの思惑


 王弟メリウスとの予期せぬ会合にノエル達は驚きを隠せなかった。

 その中でも特に動揺が大きかったのは、他ならぬダグノラだった。

 だがダグノラは動揺を抑え込み、冷静にその場を対処しようとする。

「メリウス様、これはどういうことですかな? 貴方様が奴隷解放連盟と与するなど、陛下に知られれば」

「それは貴方も同じだろうダグノラ。 兄上が憎んでいる魔帝の息子や五魔とこうして組んでいたのだから。 それともう1つ、私が奴隷解放連盟と与しているのではなく、奴隷解放連盟を私が組織した」

「な!?」

 驚くダグノラに対し、メリウスは静かにノエルの方を向く。

「とりあえず、中に入れてもらおうか。 いくらここが町から離れているとはいえ、いつまでもこの人数が集まっていれば人目につく。 構わないかな、ノエル殿?」

「そうですね。 ダグノラ殿、構いませんね」

「ん、ああ。 承知した」

 ダグノラが了承すると、メリウスは数名を残し他の連盟員を退却させた。






 屋敷の広間に通されると、それぞれ席に付く。

 メリウスは20代後半のホッソリとした体型で、今は他の仲間と同じローブ姿だが王族らしい気品と落ち着きを醸し出している。

 メリウスの後ろに巨体のローブ姿の人物と小柄な人物が控え、その正面にダグノラ、そして二人の間にノエルが座り、その後ろにリナ達が控えた。

 最初に口を開いたのはダグノラだった。

「ではメリウス様、説明していただきましょう。 何ゆえ貴方がこの様な行動に? 貴方はこの様な過激な事をするような方ではなかったはずです」

「確かに貴方の言う通りだダグノラ。 私は貴方は愚か、さして武に秀でているわけでもない兄上にすら及ばない。 本来荒事には向かないのも自覚はある」

「ならばなぜ?」

「やらねばならなかったからだ」

 そこでメリウスの静かな雰囲気が強いものへと変化し始める。

「兄上を始めこの国の者の大多数は現実が見えていない。 今のまま奴隷に頼った政策を続ければ確実にこの国は滅びる。 それは10年前のあの時証明された。 なのに兄上は亜人の事を見直す所かより締め付けを強くしようとする始末。 今はまだ国力の回復を第一としているからダグノラの言葉も渋々聞いているが、また奴隷が増えれば確実にその本性を出し、亜人達を苦しめる。 そうなればこの国の他国への信用は落ち、亜人達からもいらぬ犠牲者が出る。 私はそれを止めねばならない。 だから事を起こしたのだ」

「本当にそれだけですか?」

 ノエルの言葉にメリウスは振り向いた。

「何か矛盾しているか? ノエル殿。 ダグノラが貴方を仲介役に立てたのは理解しているが、これは我が国の問題。 必要以上に首を突っ込まないでもらいたい」

「確かに僕は部外者ですが、今回の件の行く末次第で此方にも影響は出ます。 現に既に僕の仲間の亜人達も拐われた。 貴方達の行動が僕達の仲間に大きく関係している以上、事を正確に知る権利はあると思いますが?」

 退かないノエルの姿を観察するように見ると、メリウスは何かを納得したように頷いた。

「確かにそちらの言う通りだ。 非礼を詫びようノエル殿。 何でも聞いてくれ」

 先程と違い当初の静かな雰囲気に戻ったメリウスに、ノエルはそのまま続けた。

「ではまず、何故貴方が直接ここに? 話を聞く限り貴方はこういった場に出るのは向いていない様ですし、それを自覚してもいる」

「確かに普段は不本意ながら仲間達に任せている。 本来なら私も前線に出たいが足手まといになるのは明白だし、それが一番成功率が高い」

「ではなぜ?」

「先程も言ったがダグノラの事はよく知っている。 彼があの戦争以降変心したことも含めて。 そんな彼が今更極秘で奴隷部隊を作るなど、どう考えてもおかしい。 最も、兄上はその噂に機嫌をよくしていたが。 とにかく、これは何かあると思ったからこそ、こうして無理を言って来たというわけだ。 まさか魔帝の息子や五魔がいるとは夢にも思わなかったが」

 要するに何か裏があると感じながらダグノラの真意を確かめるため敢えてやって来たということだ。

 先程のダグノラとの会話での主張といい、物静かに振る舞っているが芯はかなりの行動派なのかもしれない。

 最も、そうでなければ強行手段で奴隷解放などしないだろうとノエルは一人納得した。

「では次に、何故秘密裏にこの様な組織を? 奴隷解放を目的にしているなら、ダグノラ殿と連携すれば事を荒立てなくても済むはず」

 ノエルの質問に、メリウスは少し考え言葉を選ぶ様に答えた。

「そうだな、理由は大きく2つ。 1つはダグノラがどの程度信用できるかという点だ。 ダグノラという人物においては私も揺るぎない信用を置いているが、奴隷に関して彼がどこまで本気なのかというのが見えなかったというのがある。 事実、彼の我が王家への忠誠心はかなり強い。 最終的には亜人ではなく兄上に味方するのではないかと危惧せざるおえない。

 また、仮に我々の望む様なものであっても今のダグノラはあまり現王の印象が良くない。 もしダグノラと組んだとしても事態を動かすのはかなり難しいと判断した。 それだけ、今の兄上、現王サファイルの力は強いのだ」

「もう1つの理由は?」

「単純にダグノラのやり方では遅すぎると思ったからだ。 確かにダグノラのやり方は正しいのかもしれない。 だが兄上を始め多くの大臣、そして多くの国民の意識を変えるには莫大な時間がかかる。 中には死ぬまで亜人に対する考えを変えない者もいるだろう。 断言してもいいが、特に兄上や一部の上層部はその部類だ。 皆この国の亜人は人に使われる為に存在するという考えに芯まで汚染されている」

 メリウスの見解は恐らく正しいだろう。

 どの様な国でも異なるの考え方を受け入れるのには初めは多少抵抗がある。

 ましてやそれが国の根幹を成しているものを覆す様なものなら抵抗や反発は大きい。

 それを徐々に解そうとするダグノラのやり方では、それこそ彼の寿命が尽きても実現しない可能性が高い。

「だがそれでは多くの亜人が犠牲になる。 何も悪事を働いてもいないのに、ただ亜人というだけで強いたげられ、劣悪な環境で使い潰され、何一つ幸福を感じることなく死んでいく。 この国はそういった亜人達の屍と恨みの上に立っている。 その様な連鎖を断ち切るために、私は同志を集い組織した。 今この国が生まれ変わるのに必要な強力な一撃を与えられるだけの組織を」

 熱を込め主張するメリウスに、今までノエルとメリウスのやり取りを静観していたダグノラが表情を変え立ち上がる。

「まさか、反乱を企てているのですか?」

 ダグノラの言葉に周りが静まり返る中、メリウスは頷いた。

「先も言った通りこの国での兄上の力は絶大だ。 正攻法では私と貴方が組んでも覆せないほどに」

「だから武力に頼るというのですか!? それでは国を2つに割り、より国民と亜人の溝を深くするだけですぞ!?」

「ああ、確かにそうだ。 だが早期決着ならどうだ? 軍の最高責任者を味方に付け、兄上と宮殿を始めとした主要施設を一気に抑えれば?」

「!? 私に、反乱に加われと?」

「そうだ。 貴方はその地位に相応しいだけの力を備えた傑物だ。 現に亜人に対する緩和策を唱えながら未だに貴方を慕う者が多い。 その貴方と宰相である私が揃って反旗を翻せば、それはかつての魔帝の衝撃を国民全てに与えるに等しい。 そうなれば皆気付く筈だ。 時代の変化を! この国の変革の必要性を!」

 力説するメリウスに表情を強ばらせながらも、ダグノラも退かなかった。

「お待ちください! 確かに心変わりする者も現れましょう! 今まで表に出せずに迷っていた者で決断する者もいるでしょう! しかし! その変化に付いていけぬ者が必ずおります! そしてそれは内乱を呼び、血が流れます! 貴方はそういった者達を見捨てると言うのですか!?」

「変化に犠牲は付き物だ! 本意ではないが、犠牲を怖れては変革は為し得ない! その事は貴方も理解しているだろう!?」

「しかし! その犠牲を払うのは我ら覚悟あるべき者であるべきです! 貴方のやり方では、覚悟無き民にに犠牲を生む! その様な変革に価値があるとお思いか!?」

 真剣に互いの想いをぶつける二人だったが、まるでその緊迫した空気を壊すように小さな笑い声が聞こえてくる。

「なにがおかしいルシフェルよ?」

 笑い声の正体に気付いたダグノラが多少怒気を混じらせながら聞くと、エルモンドは笑みを浮かべたまま謝った。

「いやいやすまないね。 別に君の事を笑った訳じゃないよダグノラ君。 どうも彼の言が可笑しくてね」

「私の言葉に何か可笑しなことでもあったか?」

 自分の真剣な想いを侮辱されたと感じたメリウスが睨み付けるが、エルモンドは気にする様子はなかった。

「いやだってね、君のやろうとしていること、君の兄上と全く同じなんだよメリウス君」

「!? それはどういうことだ!?」

 思わず声を荒げるメリウスにエルモンドはまるで子供に言い聞かせるように丁寧に話した。

「だってそうだろ? 自分の意見に従わない者、考えに付いていけない者は見捨てるか処分する。 自分の役に立たない奴隷や亜人を守ろうとする者を排除しようとするサファイル君と殆ど同じじゃないか。 ただ対象が亜人かサファイル君側の人間かの違いだけさ。 やってることの本質は何一つ違わないさ」

 エルモンドの言葉に衝撃を受けながら、メリウスは尚自身の正当性を主張する。

「わ、私は全ての者を排除しようとは思っていない! それに私は正義の、この国の未来の為に!」

「そこも同じだよ。 恐らく同じ質問をすればサファイル君も同じ答えを言うだろう。 何故ならサファイル君達にとって、君の言葉を借りれば自分達の考えこそ正義であり、この国の未来の為なんだから」

 メリウスはエルモンドの言葉に胸を貫かれた様な感覚がした。

 同時に理解してしまった。

 エルモンドの指摘が正しいということを。

 エルモンドに完全に自身の正当性を打ち砕かれ、メリウスは動揺のあまり軽くよろける。

「メリウス様!」

 後ろに立っていた巨体のローブの人物が慌ててメリウスを支える。

「貴様! メリウス様の考えを愚弄するか!」

 メリウスの後ろに控えていた小柄なローブの人物が、怒りを露にし小刀を抜きエルモンドに飛びかかる。

「!? なに!?」

 だが小柄なローブの人物は空中でその動きを止めた。

 いや、正確には風が彼の体を包み空中で拘束したのだ。

「ふひひ、ありがとうシルフィー」

 エルモンドの言葉に答えるように、半透明の羽を持つ小さな妖精がエルモンドの横に現れてニッコリ笑った。

「四大精霊か」

「これでも五魔だからね。 これくらいは出来るさ」

 ダグノラにそう答えると、エルモンドは興味深そうにシルフィーの風で露になったローブの人物の子犬の様な素顔を見た。

「ほぉ、コボルトか。 これは珍しい」

「コボルト?」

「そう。 犬みたいな顔だけど獣人ではなく、正確には小人の一種だよ。 アルビアでもなかなかお目にかかれない希少な種族さ」

 ノエルに説明するとエルモンドが風を消すと、コボルトはテーブルの上にどかっと落ち「痛っ!?」と尻をぶつけた。

「本来戦闘に不向きな種族なのにあれだけ動けるのは大したものだけど、君の場合少し思慮が足りないね。 メリウス君は一番は気付かされたくないことを言われたにも関わらず、なんとか受け止めようとしている。 普通自分の認めたくないことを言われた人間は君みたいに襲ってくるか頑なに認めずわめき散らすんだけどね。 流石この国の宰相を勤めるだけの器はあるね。 君が彼に強い忠誠心を持つのはわかったけど、それなら尚更主をもっと見ないとね」

 エルモンドに諭されると、コボルトは小刀をしまうと詫びるよう小さく頭を下げ、テーブルから降りた。

 そして当のメリウスは支えられながら、ショックを受けながらも思考を巡らせる。

「なら・・・・どうすればいいのだ? このままでは我々は・・・・」

 絞り出す様な声のメリウスに、ノエルが言葉をかけた。

「メリウス殿、貴方は何をそんなに焦っているのですか?」

 無言のメリウスにノエルは更に続けた。

「貴方の亜人に対する想いはわかります。 ですが、貴方のその焦りは少し異常です。 そこには他に何かあるんじゃないですか?」

 メリウスは思考を続けながら自身を支えるフードの人物に視線を向ける。

 フードの人物が頷くと、メリウスは意を決した様に口を開く。

「わかった。 正直に話そう。 ヨア」

 メリウスが名を呼ぶと、メリウスを支えていたフードの人物がフードを捲り、素顔を見せた。

 それは普通より少し背の小さいトロールの女性だった。

「その者は確か、貴方の侍女では?」

「ああ。 そして、私の妻だ」

「「・・・・・・・・・え~!!!?」」

 メリウスの告白に、その場にいたほぼ全員が驚きのこえを

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