意外な協力者
ノエルと共に皆の集まる部屋に戻ってきたラグザは、真っ先にダグノラの方へと歩み寄り頭を下げた。
「さっきは悪かった。 少し熱くなりすぎてた」
まだ複雑な心境ながらも素直に謝罪するラグザに、ダグノラは少し驚きながらも穏やかな笑みを浮かべる。
「頭を上げよラグザ殿。 主のその気持ち、しかと受け取った。 私も尽力するゆえ、主の力も貸してくれ」
「・・・感謝する」
素直に礼を言うラグザの横で、ノエルはホッとする。
そんな様子を見ながら、タイミングを見計らいクロード口を開く。
「さて、話し合いの続きだけど、その奴隷解放連盟とやらの足取りは掴めているのかなダグノラ殿?」
「ふむ。 実はそこに苦慮していてな」
「おいおい、まさか連中の居所まで俺達で探せとか言わねぇよな?」
「案ずるなディアブロ。 そこまでさせようとは思ってはいない。 彼の者達が次に狙いそうな場所もいくつか目星は付けている」
「なら手分けして張ってればいいんじゃない? 少し手間だけど、その方が確実だし」
レオナの言に、ダグノラは首を振る。
「うむ。 本来ならそれが一番効率的ではあるが、可能ならその場ですぐノエル殿ときゃつらを接触させたいのだ」
「どういうこと?」
「先にも言ったが、ノエル殿は奴隷解放の象徴たるノルウェ殿の御子息。 向こうにとってノルウェ殿同様に崇拝の対象となり得る存在だ。 その存在を一早くきゃつらに知らせることで、余計な被害が出るのを食い止めたい」
「でもそんなの流石に無理だろ? 相手の居場所がわかっているならともかく、そんなピンポイントでノエルと会わせるなんて。 せめて誘導でも出来りゃ別だけどよ」
イトスの言葉にダグノラも苦い顔をする。
事実イトスの言っていることは正しく、直接ノエルと接触させる為には情報も何もかも足りなかった。
「誘導なら出来るかもしれませんよ」
「! それは本当か?」
ダグノラの問いにノエルが頷いた。
「エルモンドさん。 ゴブラドさんと連絡取れますか?」
「ふひひ、任せてよ」
エルモンドは懐から水晶を出すと、テーブルの上に置いた。
すると水晶が光を放ち、真上にゴブラドの姿を写し出した。
「なんと!? この様なものを持っているとは!?」
ダグノラが驚く中、ゴブラドはノエルの姿に気付き向き直る。
『おお、ノエル様! それに皆様もご無事でしたか!』
「はい、なんとか。 所でゴブラドさん。 彼女達と接触は出来ましたか?」
「彼女?」
イトスが首を傾げる中、ゴブラドは力強く頷いた。
『ご安心を。 既にお会いし話をしていた所です』
「今話せますか?」
『ええ。 少々お待ちを』
ゴブラドは少し消えるがすぐ3人程連れて戻ってきた。
だがその集団にリナ達は驚いた様に立ち上がる。
「てめぇら!? なんでここに!?」
『よう、姉さん方。 お久しぶり』
かつてノエル達と戦ったギゼルの配下、ベータがニヘラと笑いながら挨拶し、その後ろでガンマも軽く手を振った。
部下の軽さにやれやれという表情を浮かべながら彼らの隊長、アルファが表情を引き締めこちらに向いた。
『久しぶりね五魔、ノエル殿。 そしてお初にお目にかかりますダグノラ様。 聖人ウリエル、ギゼル・ラグノア配下、第七部隊隊長アルファと申します』
「聖人だと!? まさか、聖五騎士団か!?」
聖五騎士団の情報を把握していたダグノラが驚き警戒を強めると、ノエルがそれを制した。
「彼女達は大丈夫です」
「・・・これはどういうことかノエル殿? 貴殿は私を謀ったか?」
「いえ、そうではありません。 実際、本来彼女達と僕達は敵同士ですから。 ですよね、アルファさん?」
『まあ、そうなりますね』
「おいおいどういうことだよノエル!? エンモンドになんか吹き込まれたか?」
「ひどいな~リナも。 僕は相談されただけだよ」
エンモンドが一人この状況を楽しむ中、ノエルが説明を始めた。
ノエルはセレノアに向かう途中ノーラから3つの人影が付いてきていると聞き、それがアルファ達だとすぐに察した。
そこで、もしかしたら協力出来ないかと思いエンモンドと相談し、ゴブラドに頼み接触してもらったというわけだ。
「今回の目的は拐われた人達の救出です。 なら協力し合えるんじゃないかと思って」
「無茶するねノエル君も。 まあ、今の状況なら彼女達と協力出来れば確かに心強いけど」
苦笑しながらクロードはノエルの策に肯定的だ。
アルファ達の第七部隊の特色は諜報と追跡。
つまり今回のノエル達の目的には適した能力を有しているのだ。
だがダグノラの表情はまだ難しいものだった。
「しかし、アルビア正規部隊の者と手を組むとなると、此度の事は聖帝に露見するのではないか?」
『その点はご安心をダグノラ様。 確かに亜人誘拐は見過ごせない事件だが、我らアルビアも現在火種を抱えている為貴国との争いは望んでいない。 だからここは私の独断で秘密裏にノエル殿と貴殿に協力させてもらう』
「信用してよいのか?」
ダグノラが聞くと、アルファは自身の右腕を外した。
その光景に流石のダグノラも目を見開いた。
『無駄な争乱の愚かさは身に染みて理解している。 だから可能な限り戦は避けたいというのが我らの総意です。 我が主ギゼルがいても同じ事を言うでしょう』
右手を戻すアルファの姿に全てを察したダグノラは漸く表情を崩す。
「なるほど、主らも戦の被害者か。 いいだろう。 どの道ここまできたら主らを信じる他あるまいな」
『感謝します』
アルファは軽く頭を下げるとリナ達に視線を向ける。
『というわけで、不本意だけどアルビアの民の為、暫くよろしくね』
「しょうがないわね。 正直あたし的にはかなり複雑だけど、手を組んであげるわ」
「うがう! 味方増えた! おれ嬉しい!!」
「本当あんたのその無邪気さがたまに羨ましいわ」
昔操られた事を気にせず喜ぶジャバに苦笑しながら、夫を人質に取られたことのあるレオナも了承した。
『でもよ、そっちの元帥が味方なら俺ら出番ないんじゃないか?』
「心配ないですよベータさん。 皆さんにしてもらいたいのは諜報だけじゃないですから」
『ほぉ、なんですかい?』
ノエルの発言に興味深そうにベータはニヤリと笑う。
「その前にダグノラ殿。 この屋敷は好きに使っていいと言っていましたが、大丈夫ですか?」
「無論。 幸いここは町からも離れているから多少の荒事に使われても大事にはなるまい」
「感謝します。 それとアルファさん達は流言を流すことは出来ますか?」
『可能です。 多少の情報操作も我々の管轄なので』
「ならこう流してください。 ダグノラ元帥が独自の奴隷部隊を作ろうと屋敷に亜人を集めていると」
ノエルの提案に皆が驚く中、エンモンドは大笑いをした。
「ふひひ、ふひゃ~っひゃっひゃっひゃっ! なるほど思い切ったね。 奴隷の立場改善に動いていたダグノラ君が、実は裏で奴隷の部隊を組織してるか。 確かに噂の真意はともかく、解放派が動くには十分の餌だね」
「ま、待ってください! それではダグノラ様の評判が!」
ナーニャが反論しようとするとダグノラがそれを制した。
「なるほど、こちらからではなく向こうから屋敷に来るようにするか。 確かに有用な手ではあるな。 それに奴隷部隊設立なら、丁度今日も民から奴隷を取り上げたから信憑性もあるだろう」
「しかしダグノラ様!」
ダグノラはナーニャを安心させるようにその頬に優しく触れる。
「案ずるな。 全てはこの国の民の為、そして住まう亜人の為だ。 多少の不名誉なら喜んで受けよう。 それに、奴隷部隊設立なら、意外と陛下の印象は良いかもしれぬからな」
冗談混じりで話しながらダグノラの目には強い覚悟が感じられ、ナーニャはそれ以上は何も言わず一歩下がり主の意を了承するように頭を軽く下げた。
「というわけだノエル殿。 遠慮はいらぬ。 きゃつらを誘き寄せる為この屋敷と我が名を存分に使ってくれ」
ダグノラの覚悟を改めて感じたノエルは、力強く頷いた。




