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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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それぞれの想い


 その後、ダグノラはノエル達に現在の国の状況や勢力の力関係等を説明し、ノーラから拐われた人達の名前と種族等の特徴を全て聞きリストを作成、更に自身の屋敷をこの国での拠点にするよう申し出た。

「おいおい、そこまでバラして大丈夫なのかよ?」

「気にするなディアブロよ。 大事の前の小事。 この位この国の未来を考えれば些事に等しい。 それほど主達に頼むことは我が国にとって重要なのだ」

「しかし、まさか王宮内の力関係まで話すなんて、貴方の立場的にもまずいんじゃないかな?」

 ダグノラは王宮内では王であるサファイルを筆頭に、元帥であるダグノラ、王弟にして政治、司法の最高位である宰相メリウス、そして各部門の大臣達で影響力や発言力がある者と、それらの人物に付いている貴族や武官、文菅等まで詳細に話していた。

 ハッキリ言って他国の人物にここまで話すというのはあまりにも危険な行為だ。

 クロードの問いに、ダグノラは「構わん」と欠片も気にする様子はなかった。

「私の立場等どうでもよいのだ。 要は民と国の未来。 それが良いものになるならば、私自身どうなろうと構わんのだよ。 それに万一主らを怒らせ、この国で暴れられるより被害は圧倒的に少ないからな」

「ああ、そりゃそうだな。 なんせ内は魔帝よりもおっかねぇのが大将なんだからな」

「ちょっ、リナさん!」

「ふむ、それなら尚更私の判断は正しかったということだな」

「いや、僕はそんなんじゃないんですって!」

「こういう場合はちょっと位ハッタリ効かせた方がいいわよノエル君。 もっと言っちゃいなさいよ」

「本人の目の前でそれ言ったら意味ないでしょ? というか、完全に遊んでますよねレオナさん?」

「そんなことないわよ? 真面目にリナの脅しに乗っただけよ」

「ノエル、怖いのか?」

「ふひひ、ジャバには効いたみたいだね」

「ジャバさん、違いますからね!」

 ノエルが皆に遊ばれ部屋に和やかな空気が流れる中、一人部屋を後にする人物がいた。






「はぁ~・・・」

 屋敷の中庭の隅で、ラグザは地べたに座り深いため息をつき、先程の自分の態度を後悔する。

「なにやってんだ俺は・・・」

 ノエルに迷惑を掛けないと約束し仲間を取り戻すためこの国に付いてきた。

 だから亜人差別の国であろうと短気を起こさず自分を抑え続けようと心に決めていた。

 なのに実際に誘拐に関わったダグノラの存在に血が上り、更に元からあった疑心や焦りも手伝い散々反発、ついにはリナに殺気混じりで諌められるなどハッキリ言って最悪な行為をしてしまった。

 事を荒立てる事が仲間を危険に晒す事も、ダグノラの申し出を受けた方が早く助けることが出来るのも頭で理解している。

 だがどうしても感情が先に動いてしまう。

 それは鬼人(オーガ)の血の気の多さのせいでもあるが、彼らの纏め役としてはあまりにも短慮だ。

 現に長でもないノーラがあれだけ割り切り、進んでダグノラとの協力体制に同意したのだ。

 鬼人(オーガ)の長である自分がこんな体たらくではあまりにも情けない。

「ちっちぇえな俺は・・・」

 思わずそんな言葉が漏れてしまう。

 元々戦闘民族である鬼人(オーガ)は戦闘力と指揮能力の高さで優劣を決める。

 ラグザが若くして鬼人(オーガ)の長になったのもそこが大きな要因だ。

 その為戦闘では無類の強さを発揮するが、この手の場面ではどうしても遅れを取ってしまう。

 サクヤを初めとした仲間達の事を想って乗り込んだが、今はただただ己の無力さを感じるしかなかった。

「ラグザさん」

「! ノエル殿!」

 不意に後ろから声をかけられ驚き立ち上がろうとするラグザを、ノエルは制した。

「ど、どうしてここに?」

「少し休憩することになったんで。 隣、いいですか?」

「ああ」

 ノエルに隣に座られ、ラグザは気まずそうな顔をした。

 勝手はしないと大口を叩きながら結果迷惑をかけたのだ。

 気まずくなるのも仕方ない。

「大丈夫ですか、ラグザさん?」

「え、いや、俺は別に・・・」

 自身の気持ちを悟られまいとしたラグザだったが、ノエルに向き直り頭を下げた。

「すまんノエル殿。 折角の好機だってのに俺が自制出来なくて、本当にすまん!」

 いきなり謝るラグザに最初戸惑ったノエルだったが、すぐ小さくクスリと笑った。

「な、なんだよ?」

「あ、すみません。 ちょっと人を思い出しちゃって」

「人?」

「ええ。 ライルさんって言って少し前まで一緒に旅をしてたんです。 あの人もよくリナさんに怒られていたな~と思って」

 すぐ感情が出てしまうライルも、よくいらないことを言ってはリナに殴られていた。

 許せないものに怒り、過ちを認めれば素直に頭を下げる。

 自身の感情に正直なラグザを見て、少しライルを思い出してしまったのだ。

「そいつ今どうしてんだ?」

「自分を鍛え直す為に父親の所にいます。 きっとすぐ戻ってきてくれますよ」

「信頼してるんだな」

「ええ。 ちょっとおっちょこちょいでしたけど、大切な仲間です」

 よく泣いたり怒ったり笑ったり、単純な所もあったけどその素直で正直な所がノエルは好きだった。

「そんなライルさんも色々抱えているものがあって、でもそれを飲み込んで前に進もうとしてます。 だから僕達もそれに応えないと」

「強いな、あんたらは」

「ラグザさんだって強いじゃないですか」

「俺は、駄目だ。 ノーラですら割りきってんのに、それすらできねぇ」

「いいと思いますよ、それで」

「は?」

 予想外の言葉にラグザが戸惑うと、ノエルはなんでもないように続けた。

「誰でもそんなに簡単に割り切れる訳じゃありませんよ。 足掻いてもがいて、漸く整理がつくことだって沢山ありますし」

「それは・・・」

「ノーラさんだって、簡単に割りきった訳じゃないと思いますよ? もしかしたら仮面の中で凄い形相だったかもしれませんし」

「仮面の中・・・ブフォ!」

 ノーラの素顔を知らないラグザだったが、冷静に振る舞いながら仮面の中で凄い表情をしている姿を想像し、それがなんだか可笑しく吹き出した。

 だが、そのお陰で少し気が楽になった気がした。

「はは、確かにそうかもな」

「そうですよ。 だからラグザさんも、今のままでいいんです。 ゆっくり自分を納得させていけばいいんです。 実際色々見ながらね」

 ノエルの言葉が不思議と自分の中に染み込んでいく感覚がした。

 まっすぐで強く、そして温かい言葉。

 それはノエルが旅の中培ってきたからこそ出る言葉なのかもしれない。

 それを感じ取ったラグザの中で、張り詰めていたものが緩まっていく。

「ありがとなノエル殿。 お陰でちっとはマシに向き合えそうだ」

「よかった。 それじゃ、そろそろ戻りましょう。 これからの事を話し合わないといけませんからね」

「ああ」

 ノエルに続くようにラグザは立ち上がる。

(不思議な人だ。 ノルウェ様とはまた違う魅力ってやつなのかな? もしこの人が王になってたら、どんな国になんだか少し興味あるな)

 ノエルが王を目指すことを知らないながらそんなことを考えると、ラグザは気持ちを新たにノエルと共に部屋へと戻っていった。

 その光景を、影から見ている人影が1つ。

「ふひひ、面白かったかい、エミリア君?」

 背後から声をかけられたエミリアは一瞬ピクッと反応するが、すぐ平静を取り戻しエルモンドに向き直る。

「なにか用?」

「いやね、休憩がてらちょっと屋敷を見て回ろうとしたら君がここにいるのが見えてね。 ついつい好奇心に負けて覗いちゃってた訳だよ」

「あまりいい趣味とは言えないわね」

「自覚はあるよ。 でも君も似たようなものだと思うけど」

「私はたまたま、通りかかって出ていきづらかっただけよ」

「なら来た道戻ればいいだけだと思うけど?」

 バツの悪そうな顔をするエミリアに、エルモンドは変わらぬ笑みを浮かべる。

「それでどうだった? ウチの王様は?」

「別に。 あなた達を束ねてるんだから、あれくらいは当然でしょ」

「でも、気にはなるんだろ?」

 無言で返すエミリアに、エルモンドはふひひと笑う。

「どうだい? もし気になるならこのまま僕達と旅をしないかい? きっと色々見えてくるよ?」

「遠慮しとくわ。 私は傭兵だけど、厄介事はごめんだわ。 このままだとあなた達、聖帝とやり合いそうだしね」

「まあ、それは向こうの出方次第だよ。 彼がどう出るか、そしてその下の聖王がどう出るかね」

「・・・そう。 まあでも今回はちゃんと力を貸すから、その間に見させてもらうわ」

「ふひひ、頼りにしてるよ」

「さてと、そろそろ皆戻ってる頃ね。 私達も行きましょ」

 エミリアはそのままスタスタといってしまうと、その後ろ姿を見ながらエルモンドは楽しそうに笑う。

「全く、面白くなってきたね。 ふひひひひ」

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