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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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侵入


 ラクシャダで移動すること数日、地下を潜らせ秘密裏に国境を超えたノエル達は、セレノアの首都・ハルニアへの侵入に成功していた。

 本来なら国境手前でラクシャダから降り正規のルートで行くべきではあるが、今回は目的が目的の為可能な限り面倒と時間を省く必要があるので不法入国という手段を取った。

 黒騎士姿となったノエルとリナ達五魔とイトス、そして角を鉢巻きで隠したラグザとノーラ、エミリアはこっそり町へと入った。

 因みにジャバは付いてきてはいるが、その風貌が目立つ為いつもの小さな小屋で待機中だ。

「上手く入れましたね」

「そうですね。 これからどうします黒騎士様?」

 おしとやかモードのリナの様子に、エミリアは小さく笑った。

「あら、どうしたんですかエミリアさん?」

「いや、まさかあの勇ましいリナさんがこうなるとは、上手く化けられると思って」

 ラクシャダの中で散々からかわれた仕返しと言うように意地の悪い顔で言うエミリアに、リナの額に青筋が立つ。

「あら、蛇できゃあきゃあ言ってたエミリアさんの方が可愛かったですよ。 普段の怖い姿とは大違い」

 二人の視線の間でバチバチ火花が散る中、ノエルは慌てて止めた。

「まあまあ二人とも、落ち着いて。 とりあえず二手に別れましょう。 僕とリナさんとエルモンドさんとイトス、あとラグザさん、一緒に来てくれますか?」

「任せとけノエ、黒騎士殿」

 自信満々で頷くラグザを見た後で、ノエルはエミリアとノーラの方を見た。

「お二人はリーティアさんとレオナさん達と一緒でお願いします。 あ、後ジャバさんも」

「了解」

「畏まりましたノエル様」

「とにかく今は情報収集が先決です。 トラブルは避けて、深追いはしないようにしてください」

 そう言って、ノエル達は二手に別れ町に入っていった。






「しかし、あんまり気分のいいとこじゃねぇな」

 イトスの言葉に、ノエルは小さく同意した。

 町全体は流石大国と言われるだけあり道も整備され、清潔そのもの。

 建物も白石で造られ、造形も美しく町の活気もある。

 本来初めて異国に来たノエルやイトスにとって気持ちが高ぶる様な場所だ。

 だがそれを妨げるのは、目に入る亜人の奴隷達だ。

 首輪と足枷を付けられ、肉体的にキツイ労働はほぼ亜人達にさせられている。

 着ている者も粗末なボロ服で、この町の人間達との格差を見せ付けるようだ。

 中には綺麗に着飾られている亜人もいたが、大抵それは金持ち達の連れている女性の亜人。

 そんな彼女達も目には輝きはなく虚ろだ。

 中でも目につくのは獣人だ。

 その牙を危険視してなのか口輪を噛ませられ、少なくとも仕事中は外させてもらえない。

 しかも最も驚いたのは、この現状の中人がそれを当然という風に特に関心もなく普通に生活をしていることだ。

 まだ小さな子供ですら亜人の境遇を気にする素振りすらない。

 まだ首都に入って僅かな時間しか経っていないにも関わらず、ノエルとイトスはこの国の現状を目の当たりにしていた。

「どうだい、初めての異国は? なかなか刺激的だろう?」

 いつもの笑いを浮かべながら、エルモンドは語りかける。

「ええ。 正直話には聞いていましたが、実際目にすると・・・」

「ふひひ、いい経験してるね。 それはすごくいいことだ」

「でも師匠、ここの連中、なんでこんな普通に・・・」

「そりゃ産まれた時からそうなんだ。 君達だって、馬や牛は産まれた時から労働の道具だろ? 彼等にとって、亜人がそれなだけだよ。 っと、気を悪くしないでくれよラグザ君」

「別に構わねぇよ。 あんたが悪い訳じゃねぇからな」

 そう言いながらも、ラグザはどこかイライラした様だった。

 自分と同じ亜人が家畜同様を受けて、しかもそれが当然という認識の国にいるのだ。

 気分が悪いのは仕方ない。

 その時、近くで何かが崩れ落る音がした。

「なにやってんだこのウスノロが!!?」

 怒声が響く方を向くと、狼の獣人が男に鞭で打たれている。

 荷馬車から木箱が幾つか落ちているのを見ると、どうもあの獣人が落としたらしい。

「お前自分がなにしたかわかってんのかこの獣が!? 中身が傷付いたらどうする気だ!?」

 男は怒声を浴びせられている獣人は、かつて見たラズゴートの配下のヴォルフと同じ狼にも関わらず痩せ細り、その眼光には狼独特の鋭さもなく、ただ怯え鞭で打たれ続けていた。

「あいつ!?」

「止めとけ。 今は下手に関わると厄介だ」

「けどよ!」

 素の口調で止めるリナをイトスが睨むが、リナの視線の先のラグザを見て思いとどまる。

 ラグザはその光景を何かを我慢するように見ていた。

 きっと本来ならすぐに飛び出してあの獣人を助けたいのだろう。

 それでもノエル達に迷惑をかけまいと必死に感情を抑えているのだ。

「ほら、さっさと立て! 誰が休んでいいって言った!?」

 ラグザが耐える中、男は狼の獣人を更に痛め付けようと鞭を振り上げる。

 だが、その手を漆黒の鎧の手が掴んだ。

「な!?」

「ノエ・・・黒騎士!?」

 ノエルの行動にラグザとイトスは驚きの声をあげる。

「もう十分でしょう?」

「てめぇ! いきなりなにしやが、いでででで!?」

 ノエルが腕を捻りあげると、男は痛みから鞭を落とした。

「イトス、彼の手当てを」

「お、おう!」

 最初こそ驚いていたイトスだったが、すぐに笑みを浮かべ何が起こっているのかわからない狼の獣人に駆け寄り治癒魔法をかける。

「なにやってんだよあのバカ」

「ふひひ、彼らしいじゃないか」

 リナは呆れながらもノエルの行動を咎める様子はなく、エルモンドは最初から予想していたのか面白そうに笑みを浮かべる。

「あなたのしていることはいくら何でもやり過ぎです。 人をなんだと思ってるんですか?」

 ノエルが手を放すと、男は慌ててノエルから離れ、そして笑いだす。

「人? そうか、てめぇ異国人だな? はっ! 通りでなんにもわかっちゃいねぇわけだ! はっはっはっ!」

「何が可笑しいんですか?」

「これが笑わずにいられるかよ!? 亜人が人? 馬鹿も休み休み言え! こいつらはよ、俺達人間様に使われる為に存在するただの化け物! 家畜となんら変わりねぇんだよ! それを人だのやり過ぎだなんだと抜かしやがってよ! こちとら金出してこいつを買って使ってやってるんだ! 俺の所持品を俺がどう扱おうが、てめぇらに関係ねぇだろうが!?」

 捲し立てる男に、ノエルから静かな怒気が滲む。

 ノエルだけではない。

 先程まで我慢していたラグザやイトスを止めたリナからも怒りの感情が漏れ出している。

 まさに一触即発といった状態だった。

「貴様ら! そこで何をしているか!?」

 そこへ新たな怒声が割って入った。

 男は声がした方を見るとギョッと目を見開き、慌てだす。

 その視線の先には部下を数人連れた長い髭を蓄えた老将の姿があった。

 その老将にリナも驚きの表情を浮かべ、エルモンドは「これはこれは・・・」ととびきり楽しそうに笑んだ。

「いやはや意外な大物のご登場だよ」

「エルモンドさん、あの人は一体?」

「レガロ・ダグノラ元帥。 実質この国のNo.2だよ」

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